18
で?どうするの?
やるの?
僕は悪役のように杖をカツカツと肩で叩いて急かした。
「…タク、ナンテモンニアタルンダ」
転がる手下を見ながら舌打ちし始めた。
ウバワレル前ニ奪ウ
そう何度も小さく唱えて彼は手斧の前を向けた。
やるのね。
大鬼が腰を落とした。
お。
構えが変わった。
さっきまで肩に担いでいた石斧を両手で握り、刃先をこちらへ向けている。
……。
あれ。
結構ちゃんとしてる。
ただ力任せに振り回すだけかと思ってたけど。
「……オレハ、マケネェ」
うん?
「マケタラ、ゼンブ、ウバワレル」
…………。
何だろう。
さっきから同じこと言ってるな。
奪われる前に奪う。
負けたら全部奪われる。
誰かに教わったのかな。
「ウオオオオオッ!!」
おっと。
来た!
大鬼が地面を蹴った。
ドンッ!
巨体の割に速い。
一歩。
二歩。
そして三歩目で、石斧を大きく振りかぶる。
うわ。
あれ当たったら鎧でもへこみそう。
僕は杖を横に構えた。
さあ頼んだぞ。
大鹿さん特製、万能蔓棒!
ガギィィィン!!
石斧と蔓がぶつかった。
……。
え。
硬っ。
いや、蔓が。
まったく曲がらない。
石斧の方が欠けてない?
「グッ……!」
大鬼が歯を食いしばる。
力を込めて押してくる。
おお。
なかなかの力だ。
……。
でも。
なんか。
押されてる感じがしない。
僕の腕、びくともしないぞ。
大鬼の顔がどんどん赤くなる。
「グ……グググ……!」
…………。
頑張れ。
いや違う。
応援してどうする。
僕は少しだけ杖を押し返した。
「グオッ!?」
大鬼が数歩後退する。
あ。
ごめん。
力加減。
まだ分かんないんだよね。
「……バケモノ、メ」
…………。
まあ。
それは否定できない。
大鬼が再び構える。
今度は斧を低く。
足元を狙うつもりかな。
そう思った瞬間。
「オオオッ!」
石斧が横から迫った。
速い!
……いや。
速いはずなんだけど。
まただ。
斧の動きがゆっくり見える。
大鬼の腕。
肩。
踏み込んだ足。
全部。
よく見える。
なら。
ちょっと試してみよう。
僕は杖を振らずに、そっと石斧の側面へ当てた。
こん。
「……ア?」
斧の軌道が逸れた。
そのまま勢い余って、大鬼が僕の横を通り過ぎる。
おお。
できた。
なんか武術の達人みたいじゃない?
「クソガァ!!」
大鬼が振り返る。
今度は上段。
僕は半歩横へ。
ぶぉん!
空振り。
次は左から。
ひょい。
また空振り。
「グアアアアッ!」
おおお。
怒ってる怒ってる。
……。
でも。
何だろう。
この人。
いや鬼か。
一度も逃げようとしないんだな。
仲間たちはもう戦意を失ってるのに。
一人だけ。
何度も何度も向かってくる。
そのたびに。
さっきの言葉を繰り返している。
「ウバワレル……」
ぶぉん!
「ウバワレル前ニ……!」
ガンッ!
「ウバウンダァ!!」
…………。
大鬼の石斧が、また振り下ろされた。
僕は杖で受け止める。
ガギンッ!
今度は押し返さなかった。
そのまま。
大鬼を見つめる。
……。
ねえ。
一つ聞いていい?
「グ……ナンダ!」
君さ。
誰に何を奪われたの?
「…………」
石斧に込められていた力が。
ほんの少しだけ。
緩んだ。




