15
それから数刻。
僕はひたすら座禅をさせられた。瞑想とでもいうのか。
「これ以上木を斬られてはたまらんからの」
魔力をまず抑えること。まずはそこからかも知れないとなったのだ。
「おい馬鹿者、強くするな」
ガシャン
蔓の棒のような錫杖のような、メイスのような蔓にぽこスカ殴られている。
痛くはないのだが気が滅入りそうだ。
「あーもうグニャングニャンだよ」
そう何となく魔力がどんなもんなのか感じることはできるようになっていたのだ。
ただし、
操れない。
水のような、空気のような、そんな掴めないものを形を作れと言われているのだ。難しいことがお分かりいただけるだろうか。
うーん。大鹿や精霊たちは本当に綺麗な魔力だ。纏っているような。
纏う?
コートを羽織るようなものなのかなー
バゴーンーー
そんなことを考えていると遠くで爆発のような音が聞こえた。
ん、俺じゃないよ。
大鹿たちに目を向けると此方そっちのけで音の方へと顔を向けていた。
「こやつの魔力に当たられて気付くのが遅れたわ。この戯けが!」
気付けなかったことに少しイラついている様子。
「どんな感じ?」
・・・
「悪鬼たちが暴れておる。
よそ者だな。森の生き方をわきまえておらぬ。」
「ちょっくら行ってみるね。」
痺れるはずはないけれど、そろそろ動きたくなっていたところだ。
大鹿は考え事をしながら僕を見つめていた。
「お主これを使え。」
渡されたのは先ほどから僕を叩いていた錫杖のような蔦の棒だった。
「それなら森を傷つけることもあるまい。お前の意思を受け取り動かすことができる。まー実戦で試してみよ」
角で背中を押し出された。
「それからそーさなー。こいつに乗って行け」
なんと蔓が大鹿の形をして動いている。
「われの分体よ、お主では行くまでに日が暮れる」
えー俺結構足速い方よ。昔はね。
そんなことを思いながら早く乗れとまた角で小突かれたのだった。
いやいや。
鹿に乗るなんて初めてなんだけど。
馬にもまともに乗ったことないぞ。
しかもこれ、鹿なのか?
蔓だぞ?
目の前の分体は、そんな僕を急かすように前脚で地面を掻いた。
はいはい。
乗りますよ。
背中に手をかける。
鞍なんてものはない。
蔓と蔓の隙間に足を――
あれ。
鐙もない。
どうやって乗るのこれ。
「早うせい!」
分かったって!
なんとか跨がる。
すると。
しゅるしゅる。
うわっ。
蔓が勝手に脚へ巻きついてきた。
固定された?
便利だな。
これなら落ちな――
「行け」
え。
まだ心の準備――
ダンッ!!
景色が消えた。
いや違う。
速い。
速い速い速い!
木々が左右へ吹き飛んでいく。
ちょっと待て!
首!
首ないけど!
持ってかれる!
分体はそんな僕に構うことなく森を駆ける。
木。
岩。
倒木。
全部ぎりぎり。
なのに一度もぶつからない。
道なんてないのに、最初からどこを通ればいいか分かっているみたいだ。
右。
左。
跳ぶ。
着地。
また跳ぶ。
うぉぉぉぉぉ……!
声は出てない。
念話で叫んでるだけ。
…………。
あれ。
でも。
怖くない。
身体は振り回されているはずなのに、不思議なくらい周りが見える。
横を飛んでいく葉っぱ。
木の枝。
驚いて逃げる小動物。
全部。
やっぱり少し遅く見える。
それどころか――
なんか。
楽しくなってきた。
おお。
速い速い。
もっといける?
分体の耳がぴくっと動いた。
……。
今の聞こえた?
ダンッ!!
さらに速くなった。
うおおおおおお!
調子乗った!
ごめん!
そのとき。
――バゴォン!
まただ。
今度は近い。
木々の向こうで何かが弾け、黒い煙が上がった。
分体の動きが変わる。
一気に速度を落とした。
僕も錫杖のような蔓を握り直す。
声が聞こえる。
甲高い叫び声。
何かが木を叩く音。
そして――
「ギャッ! ギャッ!」
木々の隙間。
小柄な人影が何匹も動いている。
緑とも灰色ともつかない肌。
尖った耳。
粗末な布や革を身につけ、棍棒や石斧を持っている。
……。
あれって。
ゴブリン?
いや。
大鹿はなんて言ってたっけ。
悪鬼。
そのうちの一匹が、何かを追い回していた。
小さな獣。
さっき泉にもいた、カピバラみたいな生き物だ。
逃げるそいつへ棍棒が振り下ろされる。
あっ。
危な――
ガッ!
棍棒が止まった。
…………。
僕の手にある蔓が。
勝手に伸びていた。
何メートルあるんだ、これ。
蔓の先端が悪鬼の棍棒へ絡みつき、その腕ごと宙で固定している。
悪鬼がこちらを見る。
「ギャ……?」
僕も見る。
……。
…………。
いや。
俺も今、びっくりしてる。
分体がゆっくり歩き出す。
木々の間から姿を現す僕。
首なし。
全身鎧。
鹿のような何かに乗って。
手には勝手に伸びる謎の棒。
…………。
悪鬼たちの動きが止まった。
一匹。
二匹。
三匹。
四……。
多いな。
奥にもいる。
その中でも一際大きな悪鬼が、こちらを見た。
手には大きな石斧。
身体には傷跡。
そいつが低く唸る。
「…………何者だ」
……。
あ。
こいつ。
喋れる系ね。




