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それからすぐに、隣国から薬が届けられるようになった。
1月もするとブルーベルの体調は完全に安定し、仲の良い婚約者とダンスを踊りたいと毎日練習に励んでいる。
そして、快復祝いとして親しい身内だけを呼んだパーティーで、婚約者と拙いながらも一曲踊り通した。
娘の晴れ姿に両親は号泣し、同じく感激するティートゥリー夫妻とランタナと手をとりあって喜び合う。
――はあ、これで調子に乗ってまた無茶をするのだろう。どこまでも面倒な奴だ。
ダリアンもまた形ばかりの笑みを浮かべながらも、前と同じく調子に乗って婚約者と遊びに行くとだだをこねる妹を内心軽蔑した。
今回は父から仕事を教わって備えている。万が一、前のように突然妹が死んで両親が使い物にならなくなってもつつがなく対処できる。むしろ、自分の幸せだけを喜ぶ醜い姿にその方がせいせいするとすら思う。
主役のブルーベルたちが踊り終わると皆のダンスの時間が始まる。ダリアンは迷わずルピナスの手を取り、両親を始めとした身内たちの前で3曲続けて踊った。
――これで私とルピナスが婚約するのだと印象づけられただろう。
踊り慣れたルピナスとの息の合ったダンスに歓声が上がるのに満足する。疲れたルピナスをソファに送り届けると、ふとブルーベルとその婚約者と喋るランタナが目に留まった。今回は初めて会うはずの妹の婚約者と打ち解けた姿に高揚していた気分が大雨に濡れたように一気に冷え切っていく。
――何だ、あの婚約者のいる男にすり寄る見苦しい姿は。だいたい、なぜ婚約者の私のところに来ない。
ランタナとは入場した時に挨拶をしただけであとは離れて過ごしている。いつものことだが婚約者の自分を放って他の男に夢中になっているのは自分の恥だ。ダリアンはかつかつと足音を立てながら近づいた。
「ベル、疲れたら無理をせずにすぐに下がるんだ。おまえはこういった場は慣れていないのだから、調子にのっていつまでも遊んでいるんじゃない」
「ご心配ありがとうございます、お兄様。もちろん、何かったら彼にすぐに言いますわ、ね?」
「もちろんだよ。ベルガモット公子、ブルーベル様のことは私にお任せください。彼女の最高の思い出の1つになるこの時間を最後まで支えます」
「ふふふ、頼もしいわね。まるでお姫様を守る騎士様のよう。それとも噴水の淵に腰かけて、毎日愛しい彼女に愛を捧げる曲を届けていた青年かしら」
「どっちも! 騎士様みたいに頼もしくて、ハープも歌も上手だもの。そんなことなくても、私のことを愛してくれているだけで充分幸せ」
「うん、僕もベルとこうして一緒にいられると幸せだよ」
「あらあら、お幸せなこと。お2人が幸せのおすそ分けをしてくれて、私も何だか良いことがありそうな気がしたわ」
どこで覚えたのか、公爵令嬢らしからぬ甘ったるい言葉を吐く妹に婚約者も照れながら微笑み、ランタナも笑顔を浮かべる。ダリアンはその低俗なやりとりに不快になりランタナに手を出した。
「ちょうど手が空いた。一曲踊ってやる」
ランタナは目を丸くしたが、いつもの澄ました微笑みを浮かべた。
「まあ、お気遣いありがとうございます。でも、あいにく足を痛めていて。ダンスはお断りしていますの」
「では、一緒に挨拶まわりを……」
「もう済んでいます。両家の前だからと私のことは気にせずに、どうぞいつも通り過ごしてください」
皮肉をにじませたランタナがちらりと視線を向けた先には、ソファに座ったルピナスがじっとこちらを見ていた。ダリアンと目が合うと不安げに目を揺らす。
――せっかく声をかけてやったのにっ、どこまでも嫌味な女だ。
苛立ちがこみ上げてきてランタナをにらみつけると彼女はすっと視線をそらす。その生意気な態度にカッとなる。
「お兄様、呼ばれていますわよ」
ルピナスのことは心配だが、ランタナがブルーベルの婚約者相手に何かしでかさないか不安で。またわいわいと喋り出した3人の話をじっと聞いているとブルーベルが言う。
見るとルピナスの隣に両親が座っていて自分を呼んでいる。仕方なくそちらに向かうと、背後から3人の笑い声が聞こえた。ダリアンは除け者にされた怒りをぐっとこらえると足早にルピナスの元へ向かった。




