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それから程なくしてベルガモット家にカモミール家から薬が届き、ブルーベルの快復祝いに婚約者を呼んで身内だけのお祝いパーティーを開いた。
ベルガモット夫妻は生死をさまようことも珍しくなかった娘が愛する婚約者とダンスを踊る姿に涙し、ランタナと両親に感謝の言葉を述べた。ランタナもまた親友の活き活きとした姿に感動し、時を戻してくれた誰かとペンタスに心から感謝した。
そして、ブルーベルの体調が安定した後、ランタナは隣国の薬師として働きたいと両家に願い、許されてダリアンとの婚約を解消した。
ベルガモット夫妻とブルーベルはランタナの新しいスタートを祝福し力になると約束してくれたが、ダリアンは不満そうな顔をしていて。婚約解消の場ではずっとランタナをにらみつけていた。
いくら仕方がないこととは家愛する女性との婚約を邪魔した上に妹に余計な知識とやらを吹き込んだ自分が嫌いだからと、彼の長年の望みでもある婚約解消にまでごねるなんてとすっかり呆れてしまった。
しかも、妙なところで頑固なダリアンは後日話がしたいと呼び出してきた。嫌々訪れると、いつも以上にイライラした顔でした待ち構えていて噛みついてくる。
「なぜ勝手に婚約を解消したんだ」
「なぜも何も理由がなくなったからです。ベルガモット家との婚約はブルーベル様の病の治療をするために結んだもの。特効薬が安定して手に入るようになれば、婚約を解消しても問題はないと両家の当主が判断したのでしょう」
「婚約を解消したのは君が隣国に行くとごねたからだろう。薬学を学びたいだけならばこの国で充分なのに、なぜそんなに隣国にこだわる」
「……隣国で最先端の学問を学んで薬師になるのが、幼い頃からの夢だからですわ」
なぜ、そこまで隣国を敵視するのだろうか。問い詰められてしぶしぶ答えるとダリアンは眉をひそめる。
「そういうことか。だから、今回はやたらと隣国の医療にこだわっていたのか」
「あなたも記憶があるのですか?」
驚くと、冷ややかな目でにらまれる。
「ああ、ベルが亡くなった後、気がついたら婚約前に戻っていた」
「そうだったのですか……」
やたらと関わってきたのは、前と違う動きをするランタナを警戒していたのかもしれない。
でも、それならばなぜカモミール家からブルーベルの試薬が安定して手に入るようになった時に彼の方から適当な理由をつけてランタナと婚約解消して、愛するルピナスを迎えに行かなかったのだろう。
疑問が顔に出たのか、ダリアンは顔を歪めた。
「なぜ、婚約を解消しなかったのかとでも言いたげだな。
父上たちがベルが懐いている君を気に入っているからだ。加えて、今回は君が得意げにその隣国の最先端の医療の知識とやらをひけらかしたせいもある。前も今も家にとって利用価値のある君を手放すなと圧をかけられたんだ」
ダリアンは憎しみのこもった視線を投げつけてきた。
「君だって婚約を続けていたのは、前と同じく世間知らずのベルを利用して我が家に多大な恩を着せるのが目的なのだろう。おかげで、君はルピナスよりもずっと皆に気に入られて、何かにつけて比べられる彼女は肩身が狭い思いをしている。
前も今も散々私とルピナスの邪魔をして、自分の望みだけを叶えて満足か」
――ああ、なるほど。彼は大嫌いな私がまた自分たちの邪魔をしたと怒っているのね。
彼もまた一度目の記憶を頼りにルピナスとの婚約を叶えるために、ランタナが知らないところで動いていたのだろう。でも、その結果が満足のいくものではなかったからと、ただ婚約をしていただけで彼らとは関わりのない自分が恨まれる筋合いはない。
ランタナはダリアンの憎しみを跳ね返すためにまっすぐ見つめ返した。
「ええ。私がやり直したのは、一度目で得た記憶と知識を使ってベル様の身体をこれからも長く外で生きていかれるように治して、ベル様のように病に苦しむ人を助けるために薬師になる夢を叶えるためです。
そのために私はこれまで私にできる精いっぱいの動きをしました。
だから、今度こそ私が望む幸せな未来を掴んで満足ですわ」
今回も自分たちの幸せを邪魔したと目の敵にするダリアンが何を思おうと、ランタナは必死に動いて掴んだ今を誇りに思っている。だから、自分を妬む敵に堂々と言い返してやる。
「何を身勝手なことを……っ。おまえが一度目とは違うことをしなければ、何もかもがうまくいっていたんだっ」
――この人は自分が一番でないと幸せではないのね。
恨みに捕らわれたダリアンは1人だけ幸せになるのは許さないと昏い目をしてにらみつけてくる。
前も今もダリアンはルピナスとの婚約に執着し、ランタナやブルーベルを邪魔だと冷たく当たってきた。
でも、彼の今の状況は、彼自身の今までの動きの結果だ。
それに、彼だってルピナスと婚約できるのに。他人の幸せを妬んでそれ以上の幸せが欲しいとただ喚くあさましい姿に軽蔑を感じる。
ランタナは今まで受けた理不尽な仕打ちへの怒りをこめて静かに告げた。
「あなただって望んだ幸せが叶ったではないですか」
「何だと?」
「お忘れのようですが、あなたは婚約を結んだ時に『ブルーベルの身体が良くなり次第、この婚約はとりやめる』と言い放ったのです。
だから、私はお父様と公爵様に願ったのです。
『もし、私たち2人が婚約解消を望んだら、願いを叶えてほしい』と。そして、公爵様は約束してくれました」
「それは……。でも、おまえが婚約解消を望まなければこうはならなかったんだ! おまえのせいだろうっ」
ダリアンはショックを受けたように青ざめてなおも否定しようとしたが、ランタナは彼の甘えを容赦なく叩き潰した。
「それからもあなたはルピナス様との婚約を望んでいると周りに訴え続けた。そして、私を婚約者として認めないといつも態度で示し続けた。
だから、私は公爵様に最初から最後まで信頼関係を築けなかったあなたとの婚約を解消して、かねてからの夢だった隣国への留学を希望しました。
公爵様は約束を守ってくださり、お互いの望みを叶えてくださったのです」
ようやく口を閉ざしたダリアンに、ランタナは晴れ晴れした気持ちで決別の言葉を投げつけた。
「私とこうして婚約を解消して、愛するルピナス様と婚約を結び直す。今の状況は、あなたが望んで掴んだ幸せですわ。
今まで大変お世話になりありがとうございました。二回目の人生は望み通り愛する方といつまでもお幸せに」
そして、終わった過去を背にして歩き去った。呼びとめる声が聞こえた気がしたけれど振り向かなかった。
*****
「ラナ!」
船を降りると自分を呼ぶ声が聞こえた。辺りを見回すと出迎えに来た人たちの間をすり抜けてペンタスが駆け寄って来た。
「ペン! 久しぶり、会いたかったわ」
前の人生で会った時よりも2歳若い彼は良く日焼けしていて、白い歯を見せてにかっと笑う。その懐かしい笑顔にふとブルーベルのアドバイスを思い出して、ランタナはペンタスを手招いて耳元でささやいた。
「あのね、愛しているわ。これからもよろしくね」
それから2年後、18歳になったランタナは隣国でペンタスと結婚した。式にはベルガモット夫妻とともにブルーベルと婚約者が参列してくれて。ランタナの幸せをめいっぱい祝った後、隣国の観光を楽しんで帰っていった。
そして、2年後。今度はブルーベルの結婚式にランタナ夫妻が参加した。
2組の夫婦は国を超えて生涯交流を続け、その子どもたちと孫たちも仲睦まじく交流を続けた。
次からダリアン視点です。




