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妹の結婚式で彼女を見た時、ダリアンは久しぶりに幸せを感じた。
ダリアンはベルガモット公爵家の嫡男だ。幼なじみのサンダルウッド公爵令嬢ルピナスとは婚約を約束していた。
しかし、10歳の時に妹ブルーベルの難病の薬のために、薬師一族のティートゥリー伯爵令嬢ランタナと婚約させられた。ダリアンは泣きじゃくるルピナスに永遠の愛を誓い、必ず婚約を解消すると決めた。
それからは隙を見せて付け入れられないようにランタナとの関わりを拒んでいたが。彼女は見舞いと称してたびたび家を訪れて寝込みがちのブルーベルの心を掴み、初めての友人として両親にかわいがられた。
甘やかされてわがままなところがあるブルーベルは、気にかけて見舞いに来るルピナスを「私を使って周りにアピールしているだけ」と嫌っている。
ランタナは同じことをしているのにまんまと妹を手懐けて両親や使用人たちの信頼を得ていく。その恩着せがましい姿にますます嫌いになった。
幸いなことに、ティートゥリー伯爵家の薬のおかげでブルーベルは少しずつだが魔力が安定する時間が増えていった。
そして、婚約を結ばされてから8年後。結婚の話が出始め焦っている時に、1年前に隣国で開発された薬が手に入り病は治った。
しばらくして隣国から安定して薬が届くようになってブルーベルの体調も良くなると、ダリアンは婚約を続ける理由はなくなったと渋る両親を説得してランタナと婚約解消し、待っていてくれたルピナスと結婚してようやく幸せを手に入れた。
だが、それも1年後に妹が風邪をこじらせてあっけなく亡くなるまでだった。
両親はすっかり弱りきってしまい、ダリアンは彼らの代わりに後始末と仕事で忙殺された。
またしても妹に幸せを邪魔された恨みをぶつける先もなくもやついていると、ランタナが妹の墓参りに来た。
隣国に行ったという彼女は目を見張るほど美しくなり、その隣には恋人のように寄り添う男がいた。
別れてもなおしぶとく公爵家につきまとうランタナに文句を言おうとしたが、大げさなぐらいに泣き崩れる彼女ともらい泣きする使用人たちの悲痛な空気に割り込めず、しぶしぶ引き下がった。
そして、自分と別れてすぐに男をたぶらかし、自分だけが幸せになったランタナを恨んでいると、すべてが始まる前に戻っていた。
*****
10歳に戻ったダリアンは今度こそ愛するルピナスと婚約しようとしたが、両親は既にティートゥリー家と婚約を結んでいた。
悔しく思いつつも、隣国の薬ができるまでの辛抱だとルピナスに愛を誓い、ランタナと形だけ婚約した。そして、時が来たらすぐに別れられるように、顔合わせの場でお互いの両親の前でランタナを牽制しておいた。
しかし、ランタナもまた前の記憶があったのか。ほどなくしてティートゥリー家が隣国に良い治療法があると提案してきた。
――このまま変えなければ確実に幸せが手に入るのにっ、どこまでも邪魔な女がっ。
焦ったダリアンは「そんな得体の知れない話は信じられない」と猛抗議したが、希望にすがった両親は提案を受け入れた。
幸い、薬が効いたのかブルーベルは一見良くはなっているように見えるが、前は婚約者の領地に遊びに行って疲れたところを風邪をこじらせて死んだ。ルピナスを嫌うかわいげのない妹のせいでまた迷惑をかけられるなんてまっぴらごめんだ。
ダリアンは少し調子が良いと好き放題に過ごすブルーベルに「少し良くなったからと調子に乗らずに、大人しくしていろ」ときつく命じたが、馬鹿な妹は自分を甘やかすランタナが来るとはしゃぎまわる。そして、両親もすっかりティートゥリー家の言うことを信じて好きにさせている。
何もかもがうまくいかない上に、図々しく出入りするランタナがブルーベルに隣国のくだらない話を吹き込むのに余計にイライラする。
今日もまたランタナが来ていると聞いてブルーベルの部屋に行くと、開いたドアから笑い声が聞こえてきた。
油断しているところをきつい一言を浴びせてやろうと中をのぞきこむと、満面の笑みを浮かべたランタナが見えて、どきりとする。
――あんな顔もできるのか。
ダリアンの知る彼女はいつもとり澄ましたかわいげのない微笑みを浮かべている。でも、ブルーベルやメイドといるランタナはその名の花の色のようにころころと表情を変えて、なぜか目が離せない。
無意識にドアを押して中に入ると、ランタナはいつもの笑みを浮かべた。
その冷たい顔に猛烈に苛立ちを感じつつもブルーベルを叱りつけると、ランタナが図々しく口をはさんでくる。
「ごきげんよう、ダリアン様。このボール遊びは、隣国で魔力を使えるようになった幼い子どもたちの遊びとして考えられたものです。そんなに体力も魔力も消耗していませんのでご安心ください」
――何が隣国の治療法だっ。我が国の治療で充分良くなるのに、余計なことをしてまた私の邪魔をするのかっ。
ブルーベルの墓の前で隣国の男と仲むつまじく寄り添っていた姿を思い出して、目の前が怒りで真っ赤になる。
「隣国では当たり前の遊びといってもしょせんは平凡な貴族の話だろう。伯爵令嬢の君にはわからないだろうが、ベルは王族に匹敵する魔力量を持つ公爵令嬢として期待されている。
病さえ治れば公爵令嬢としての振る舞いはもちろん、魔力に関しても精緻なコントロールが求められる。治療と称して妹に妙な悪癖をつけようとするのはやめてくれ、迷惑だ」
「お兄様ったら、そんな言い方ひどいわ! ラナの遊び道具はお医者様もお父様もお母様も許してくださっているし、私だって楽しみにしているのよ!!」
「ベル、おまえは元気だと言いはっているが、今までのようにまた一時的に良くなっているだけで、少しのことでまた悪くなる可能性の方が高いんだ。
それが嫌だったら、いつもどおり身体を労わって大人しくしているんだ。安心しろ、我が国の治療法は優秀だからな。時間はかかっても確実に良くなる」
言うことを聞かずに好き勝手なことばかりする妹とランタナに、憎しみが膨れ上がる。
わざとブルーベルが嫌がる言葉をぶつけると2人は傷ついたように黙り込む。やっと自分の忠告が効いたことにすっとして立ち去ったが、1人になるとランタナの無邪気な顔が思い浮かんでイライラする。
――あの女には前の記憶がある。それを利用して我が家に取り入って隣国に自分を高く売り込むつもりなんだろう。そして、あの男のところに行くつもりか。
ダリアンはまたもやルピナスとの婚約を邪魔されたのに、今回もまた記憶があることを良いことに自分だけが幸せになろうと動いているランタナに体中が燃えるような怒りがこみあげる。
――そんなこと許さない。今度こそ私は幸せを掴みとるんだ。




