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それからもダリアンはランタナが来るたびに邪魔をしにきたが、ある日からぱったり現れなくなった。
こっそり教えてくれたメイド曰く、毎回楽しい時間を台無しにされるとブルーベルが両親に泣きついたらしい。ダリアンは見張りをつけられて、ブルーベルの部屋に行こうとすると追い払われているらしい。
良い気味だと思ったのが良くなかったのか。陰湿なダリアンは婚約者同士の顔合わせと称して月に2回ベルガモット家に呼ぶようになり、ねちねちと嫌味を言ってくるようになった。
腹は立つがブルーベルの身体が治るまでのことだからと無視していると、愛するダリアンを盗られると思ったのか、毎度ルピナスがブルーベルのお見舞いついでと称して割り込んでくるようになった。ランタナはこれ幸いと毎回ブルーベルの部屋に逃げ込んだ。
それからも、ランタナはダリアンに呼びつけられるたびに、毎回当たり前のように乱入してくる嫉妬をむきだしにしたルピナスに押しつけて、そそくさとブルーベルの部屋に逃げ出した。
でも、不思議なことにダリアンはいつまでも経っても顔合わせをやめようとせず。それでいて、いつまでも愛するルピナスと過ごしているのに邪魔だとにらまれて。ランタナにとってはただ疲れるだけの無駄な時間だけが経っていった。
今日も嫌々ベルガモット公爵家を訪れると出迎えたメイド長に「申し訳ありません、今日もルピナス様が急にお見えになりまして。若様は一緒にお茶会を楽しみたいとの仰せです」と謝られる。
毎月同じセリフを繰り返すあまり無になったメイド長に、ランタナもいたわりをこめてうなずいた。
ガラス窓を開けて庭が見えるようにした明るい部屋に入ると、勘づいたルピナスが笑顔を浮かべたまま刺繍針のような視線をびしばし打ち込んできた。気づかないフリをして挨拶をして座ると、ルピナスが可憐な声にびっしりトゲをこめて投げつけてくる。
「ランタナ様は相変わらず隣国のお話や物に夢中だそうね。遠い国の文化に魅了される気持ちはわからないことはありませんけれど。たまには日々目まぐるしく変わって行く我が国の文化にも目を向けないと、周りから置き去りにされているのではなくて?」
「まあ、お気遣いありがとうございます。ただ、友人から聞く隣国の話が楽しくて。ついつい夢中になってしまいますの」
時間が戻って6年になる。16歳になったランタナはペンタスや新しい友人たちを通じて聞く隣国の生活にすっかり夢中になり、最近では両親やブルーベルに「この国よりも隣国の方がなじめそうだ」と冗談交じりにからかわれる。適当に流すために口にした言葉にダリアンが眉をひそめる。
「また隣国か。社交界では君は変わり者として噂になっているそうだな。そんな何の役にも立たないくだらないものに関わっていないで、たまには公爵令嬢のルピナスを見習って社交に励んだらどうだ」
ダリアンが不機嫌丸出しの顔をすると、ルピナスが笑顔で露骨な嫌味を言う。
「ふふっ、ランタナ様は大層隣国がお好きなようですし、憧れの隣国で暮らす方がお似合いかもしれませんね」
「そうですわね。隣国は王家が主導して学業に力を入れていて、特に薬学に関しては周辺諸国の中で最先端をいっていますから。薬師の一族に生まれた者として機会があれば学びたいものですわ」
ダリアンのいつもの嫌味を流すついでに何かにつけてからんでくるルピナスに「ダリアンとの婚約に未練はない」とけん制しておくと、彼女はなぜか悔し気に目を吊り上げた。
婚約解消はお互いに希望していることなのに何でにらまれるのだろうか。と、その謎の不機嫌がうつったようにダリアンも冷ややかな目を向けてくる。
「そんな高望みをする前にまずは我が家に嫁ぐために覚えるべきことをきちんと身に着けて、我が公爵家の婚約者として完璧に振るまえるようにするべきだろう」
前の人生も含めて今まで一度もまともに婚約者扱いしてこなかったのに、今さら何言っているのだろう。愛する女性の前だからってかっこつけているのだろうか。
好き勝手なことを言うダリアンに冷めた気持ちになって、そっけなく返す。
「ご心配なく、ベルガモット夫人や教師の方にはきちんとできていると言われておりますので」
「だが、覚えただけではなく、きちんとできなければどうしようもない。恥をかくのは君だけなく、ティートゥリー家もなのだぞ」
「そちらもできていると自覚していますし、周りからもそう言われていますわ。
……ふがいない私をそんなに心配されるのでしたら、これからも公の場では元々の身分が釣り合う上にお互いの振るまいを知り尽くしているルピナス様をエスコートしてください。
私とあなた様の婚約はあくまで形だけのものだということは社交界中に知れ渡っていますし、完璧な作法を身につけた公爵令嬢のルピナス様がお相手ならば周りも納得するでしょう」
まだ無理やり粗を探し出してくるダリアンにさすがに苛立ちを抑えられなくなり、遠回しに「早く愛するルピナスと婚約しろ」とちくりと皮肉を言ってやる。
負け惜しみだとでも思ったのかルピナスは小ばかにするようにこちらだけに見えるように唇をひん曲げたが、ダリアンはなぜかショックを受けたように固まる。
何だろう、まさか見下している相手に反撃されると思わなかったのだろうか。それとも、社交界中に一応は婚約者の私を放置して、愛し合うルピナス様といちゃついているのが知られているのに気づいてショックを受けたのだろうか。
そんなの誰だって知っている。そもそも、一緒に入場した後は完全に放置して、かつては婚約の約束をしていた公爵令嬢を喜んで迎えに行く公爵令息なんて噂にならない方がおかしいだろうに。
何にしても今日のダリアンは機嫌が悪そうだ。これ以上面倒ごとに巻き込まれる前に逃げよう。ランタナはにっこり笑って立ち上がった。
「もちろん、こういったプライベートの場では私に構わず好きなだけお2人で過ごしてください。では、ごきげんよう」




