表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/45

第41話:決断の代償、あるいは消えない「赤面」


 大広間での「唯一の側室」宣言。

 それは、私のプロデューサー人生における最大の「神展開」であると同時に、一人の女としての私に突きつけられた、逃げ場のない「最終宣告」でもあった。

 その夜。

 私は、自分の寝室で一人、鏡の前に立ち尽くしていた。

 手の中には、あの真紅のレース。

 フェリス様から押し付けられ、そして昼間のあの時、私の「ガチ勢」としての闘争心に火をつけた「宿題」だ。

(……これを、着るというの? 私が? 殿下のために?)

 想像しただけで、脳内が真っ白にショートしそうになる。

 これまでの私は、あくまで「教育」や「プロデュース」という言葉で自分を塗り固めてきた。殿下を神格化し、尊び、距離を置くことで、自分の心を守ってきたのだ。

 けれど、あの宣言を経て、もはや「ただのファン」でいることは許されない。私は、殿下を一人の男として受け入れ、その情愛を一身に浴びる「当事者」になってしまった。

「――アンネ。まだ、起きているか」

 扉越しに響いた、低く甘い声。

 心臓が跳ね上がる。ノックの音さえも、今の私には服を剥ぎ取られるような剥き出しの響きに聞こえた。

「……は、はい。どうぞ、殿下」

 扉が開き、夜着を纏ったレオ殿下が姿を現す。

 月光に照らされたそのお姿は、昼間よりもさらに「魔王」としての色気を増し、見るだけで視神経が焼き切れるほどの供給過多オーバードーズだった。

「……何をしている。そんなものを握りしめて」

 殿下の視線が、私の手元――真紅のレースに止まった。

 私は反射的にそれを背後に隠したが、顔に昇る熱までは隠せなかった。

「あ、これは……その、教育用の資料……といいますか、プロデュースの一環としての、備品チェックでして……っ!」

 声が震えている。鎧(プロ意識)が、ミシミシと音を立てて軋んでいる。

 殿下は、逃げるように視線を泳がせる私に、音もなく一歩詰め寄った。

「備品チェック、か。お前はどこまで自分を騙すつもりだ、アンネ」

 殿下の大きな手が、私の頬をそっと掬い上げる。

 熱い。触れられた場所から、理性が溶け落ちていく。

 かつてならここで鼻血を出して倒れていれば済んだ。けれど、今の私は逃げるわけにはいかない。

「……だ、騙してなどおりませんわ。私は、殿下の魅力を誰よりも理解し、それを『完成』させたいだけです。……例えこの身が、その熱量に耐えきれず焼き尽くされたとしても!」

「なら、見せてみろ」

 殿下が私の耳元で囁く。吐息が、首筋を粟立たせる。

「プロデューサーとして、側室として。……お前が僕をどう『完成』させたいのか。言葉ではなく、その体で示せ。……それとも、やはりお前には『推し』と向き合う覚悟などなかったのか?」

 挑発。

 その一言で、私の内側にある、あのドロドロとした独占欲が再び鎌首をもたげた。

 フェリス様には見せない、カトリーヌ様には触れさせない。私だけが知る、夜の、獣のようなレオ殿下。

「……っ、承知いたしましたわ。殿下」

 私は、震える指で自らのドレスの紐に手をかけた。

 視界は、恥ずかしさで真っ赤に染まっている。鼻血が出そうなのを、気力だけで抑え込む。

「覚悟してくださいませ。……貴方のプロデューサーは、誰よりも強欲で、しつこいですから」

 私は、消えない「赤面」を隠すことさえやめ、殿下の胸元に飛び込んだ。

 プロ意識という名の最後の鎧が、音を立てて崩れ去った。

【第45話:最終教育の幕開け、あるいは聖域の決壊へ続く】



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ