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第23話:園遊会の火花、あるいは「神供給」による解釈の超克


 王宮の広大な庭園で開催される園遊会。本来であれば、色とりどりの花々を愛でながら貴族たちが社交に興じる優雅な場であるはずだ。しかし、今の私にとってここは、各派閥が己の「解釈」を物理的に激突させ、自らの推しシチュエーションを公式にねじ込もうとする、血塗られたプレゼンテーションの場(聖戦)に他ならない。

 私、アンネ・ベルリッツは、公式プロデューサー(教育係)としての意地と、世界一のレオ殿下ファンとしてのプライドを懸け、殿下の隣に立っていた。

(落ち着きなさい、アンネ。今日の目標は『全方位を救済する聖母の微笑み』よ。殿下の持つ慈愛の成分を抽出し、あえて『覇王』としての影を潜めることで、ギャップによる破壊力を高める……これこそが、計算し尽くされた公式の供給ルートなんですのよ!)

 私は鼻に詰めた真綿の感触を確かめ、殿下に本日の課題を囁いた。

「殿下、いいですか。本日は『慈愛の王』のターンですわ。老若男女、すべての民に『この方の守護を受けたい』と思わせる、春の陽光のような微笑みを。不肖アンネ、その背後で完璧なシャッターチャンス……いえ、教育的見守りを遂行いたしますわ!」

 しかし、私の「公式方針」に異を唱える影が、扇の音を鳴らして現れた。鼻に巨大な真綿を詰め、八台の魔導水晶を周囲に浮遊させたフェリス王女である。その後ろには、殺気立った【フェリス×レオ】派の騎士たちが、レフ板(魔導反射板)を武器のように構えて控えていた。

「お姉様、いい加減になさいませ! そのような『温い』教育、素材の持ち味を殺していますわ! 殿下の真髄は、その氷のような美貌から放たれる『冷酷な拒絶』! 近づく者すべてを視線だけで凍りつかせる、高潔な魔王モードこそが、今この界隈(王宮)が求めている劇薬ですのよ!!」

(……っ! フェリス様、それは解釈違いですわ!!)

 私は教本をバサリと開き、フェリス様に詰め寄った。

「フェリス様、貴女は分かっておられませんわ! 完璧な造形美が放つ冷徹さなど、もはや様式美テンプレに過ぎません! その氷の仮面が、信頼する相手(私)の前でだけ、ふとした瞬間に『微かに綻ぶ』。その一瞬の隙、そのギャップこそが、全人類の情緒を更地にする究極のエンターテインメントであると、なぜ認められないのですか!!」

「なんですって!? 隙など不要! どこまでも高く、遠く、手の届かない場所で孤高に輝くからこその『推し』でしょうが!!」

 私とフェリス様が殿下の左右の腕を掴み、「ギャップ萌え!」だの「完封美!」だのと、オタク特有の早口で怒号を浴びせ合う。周囲では【アンネ派】と【フェリス派】が、水晶のレンズを突き合わせながら「慈愛こそ正義!」「冷酷こそ至高!」と、あわや乱闘寸前の激論を繰り広げている。

 園遊会の会場は、もはや外交の場ではなく、どちらの解釈が「レオ殿下」という名の神をより美しく祭れるかを競う、地獄の宗派抗争の場と化していた。

「……二人とも。僕を、玩具だと思っているの?」

 その時。喧騒を切り裂くように、殿下の声が、地を這うような重低音で響いた。

 一瞬で、周囲の空気が物理的な圧力を持って凍りつく。殿下は、私とフェリス様の腕を同時に、逃げ場を許さない強固な力で引き寄せた。

 殿下の顔が、私たちの間に割り込むようにして近づく。その右目は、フェリス様の望む通り、万民を塵芥のように見下ろす冷徹な「魔王」の光を宿していた。しかし、私に向けられた左目と口元には、吐息が触れるほどの至近距離で、執念深い「執着」と、狂気的なまでの「愉悦」の笑みが浮かんでいたのだ。

「……アンネ。君が一番、僕を理解してるんだろう? だったら、今の僕をどう形容する? ……冷酷な王か、それとも君に従順な教え子か。……言ってみて。君が望むなら、僕はどんな『怪物』にだってなってあげるよ。……その代わり、後でたっぷり、その『授業料』を僕の部屋で払ってもらうけどね」

(…………っ、……ああああああ!!!)

 解釈一致!! いいえ、これこそが解釈の超克!!

 殿下は、「全方位への冷酷な魔王」でありながら、「特定の個体(私)への狂信的な独占欲」を見せるという、私とフェリス様の主張を同時に成立させた上で、さらにその先を行く**『ハイブリッド・ヤンデレ支配者』**という、公式にしか出せない究極の正解ルートを提示なさったのだ!!

 この、全方位を絶望させつつ、私一人だけを「逃がさない」という強固な意志で縛り上げる構図。これよ、これこそが全オタクが夢にまで見た、**「世界を敵に回してでも一人の女(教育係)を優先する暴君」**という名の、歴史に残る神供給じゃないの……!!

 私とフェリス様は、あまりの「神供給」から放たれた尊さの衝撃波に耐えきれず、二人同時に鼻から情熱のナイアガラを噴射し、その場に跪いた。

「……負けましたわ、お姉様。今の……今の『二人を同時に抱き寄せつつ、片方だけに熱い口説き文句を吐く』という、この強欲なまでの供給……。私の魔導水晶が、尊さの過負荷で爆発しましたわ……」

「ええ……。フェリス様……。殿下、公式自らが全派閥を完膚なきまでに叩き潰し、新たな宗教を建国なさるなんて……。これ、もう一生、……一生この人の足元で『供給』の奴隷として生きていくしか……ありませんわね……!!」

 周囲を見渡せば、会場中の派閥メンバーたちが、今の「全方位捕食宣言」を目の当たりにして、バタバタと尊死オーバーフローして倒れ伏している。

 殿下は、鼻血を垂らしながら恍惚とする私の顎を、手袋をした指でなぞり、満足げに目を細めた。

「……ふふ。アンネ。君のその顔、最高に『理解わか』ってるよ。……さあ、次の『教育』を始めようか。次は……誰もいない場所で、君が僕に何を教えてくれるのか、楽しみだよ」

 殿下の放つ「破壊的なまでの神回答」の前に、私はただ、一人の限界オタクとして、その覇道にどこまでも付き従う決意を新たにするのだった。

【第24話:大団結編へ続く】




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