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消された記憶


 ベテルギウスの記録書。


 『十一月××日から××日。王の依頼により、王国騎士団は街に現れた竜の保護に行く。滞在期間ニ週間、宿舎に宿泊。特に変わった様子は無し。


 十一月××日、無事竜の討伐は完了する。国王騎士団は教団に帰還する。


 十二月××日、街の警備にあたる。任務により時間外の外出は禁止。特に変わった様子は無し。


 一月××日、騎士団団長率いる上級魔法使い数十人は金の山に偵察に行く。


 一月××日、騎士団……。



 追記、竜の保護の際、騎士団の一部で一時的に夜間抜けた者がいることがあとから判明した。その者たちについて、騎士団契約書、魔法契約書を見直してみたが、学歴、家系ともに気になる記述は見当たらなかった。この件において、直接接触はしないものの、のちの報告を待って欲しい。』





 ベテルギウスの報告がシリウス宛に手紙で届いたようだ。ラビィはシリウスから部屋にいるようにと言われたので、彼らに知られないように、二人が椅子に座ったあとにこっそりと部屋を覗きに来た。




 ーーお二人の様子がおかしいですわ。シリウスさんには部屋に入ってこないでといわれましたけど、気になってしまって夜も眠れません。こんな夜遅くに何のお話をしているのでしょうか? このお話は私に関係があるのでしょうか……? まさか、事件……!? このピリリとした緊張感のある重たい空気。絶対、二人は何かを隠しています。何かを知っているはずです。


「ーーあそこの扉の影で聞き分けのない女の子が一人聞き耳を立てているようだが、気にしないでくれ」


「わかりました。お話はなるべく聞かれないように小声でお話しましょうか……」


 ーーうっ、やはりこの距離だと全然おはなしの内容は聞こえないみたい。私にできることがあったら。私だって! 聖女として!! お手伝いしたいのに!!


「……それで、騎士団団長はこの件について把握していなかったというワケか……」


「ベテルギウスさんが言ってる通り、竜の保護の日に残った、一部の騎士団が怪しいですね」


 シリウスとプロキオンが椅子を並べて、書類に一枚一枚目を通す。


「……ラビィさんが襲われたあの日、相手はラビィさんのことを()()()()()()()()()と言っておりました。ぼくには、どうしてもあの言葉が引っかかるのです」


 シリウスは静かに紅茶を飲む。


「ベテルギウスさんの報告によると、あの事件が起こる数か月前に国宝の星の剣に触れた者がいたそうなんです」


『冬の月。××日。城に不審者との連絡、騎士団にあり。不審者捕獲ならず、逃亡。星の剣、金庫より紛失。』


「ーーこの時、何者かに星の剣が盗まれています」


「星の剣というのは歴代の聖女が最初に作ったとされる魔法具のことか?」


 プロキオンは鞄の中から一冊の本を取り出すと、いくつか付箋が貼ってあったページを開いて見せた。


『星の剣。××××年。××月。初代聖女がはじめて手がけた魔法具。金の持ち手にラピスラズリの魔法石が施してある。ラピスラズリは聖女が何十年もかけて精製したものであり、この剣は世界最強とされている。××××年。××月』


『星の剣、それは禁忌の剣と指定されている。初代聖女が手がけたものだがいまだに謎が多い』


『星の剣、××城の金庫にて保管。××××年。××月』



 プロキオンは本を閉じた。


「その剣に触れた者がラビィさんの後ろ姿にそっくりだったようで……」


 ここまで話しを静かに聞いていたシリウスだったが、彼女の名前を聞いたとたん、紅茶を飲むのをやめた。


「ーーラビィに?」


 シリウスの低い声が響く。


 ーーんんっ? 私の名前を呼んだ? なにかしら?



 部屋の空気が凍てついた。


 扉の向こう側に真っ白で長い耳が二本、ぴょこぴょこと見えたのでシリウスは咳払いを二回する。

 

 「ーーそれが()()()に似てた?」


 プロキオンはシリウスの口から不釣り合いな言葉が出てきたので目を丸くした。

 

 「うさぎ……うさぎ……って? そのものはラビ……さんに……いたっ!」


 指で軽く跳ねのけられた角砂糖がプロキオンの額に飛んでくる。侍女はあわてて床に落ちた角砂糖を拾い、ささっと何事もなかったかのように素定位置に戻る。


 「なんだ……?」


 「虫が飛んでおりましたのでお掃除いたしました」


 侍女はハンカチの中に角砂糖を隠して、頭を下げている。




 急にラビィの名前が出たことにシリウスはイライラしている。


 ーーう、うさぎ? 今、うさぎっていったよね? うさぎのはなしをしてるの!?



「ーーそれで、そのニセモノのうさぎがどこかに逃げたか、目途はついているのか?」


 ーーやばい、なんかわからないけれど、シリウスさんいつもよりイライラしているわ。こんなところで聞き耳を立てるんじゃなかった。姿を見られないように小さくなって聞いていたけれど、足が痺れてきたのに、逃げれない。興味本位だけであとのことは全然考えていなかった……!!!


 扉の向こうに真っ白なふわふわの体を小さく丸め、大きなお耳をピクピクピクと小刻みに振っている一匹のうさぎがいた。うさぎは足音を立てぬようにこっそりと立ち去ろうとしている。


 

「ーーラビィ? だから、どうして君はこんなところにいるんだ?」


 ーーわわっ! 扉のそばで見ていたの、バレた? バレてる!?!? ごめんなさい!!! 聞いていたワケじゃないんです!!! 聞いてても全然聞こえなかったんです!!!!



「ーーくっ」


 ラビィはさらに丸くなり、ふわふわの毛玉と、ふわふわの小さなしっぽだけになった。


「ーーーどうして、君ってヤツは……」


 


 ーーえ?? ああ。怒っていない? 怒っていないどころが、くすくす笑っている!? なんだか、逆に恥ずかしくなってきた!!!! よく考えたら、私、寝間着!!!! 髪の毛だってお団子にしているし、お化粧だってしていないし、お肌が……ああっ、そんな近くで、お肌を凝視しないで……!!!!



  シリウスは人の姿に戻ったラビィの頭をよしよしと撫でた。


「いい子はちゃんと部屋で大人しく寝る時間だよ? 君はいい子だからわかるよね?」


 ーーーーははいいいっ!!!! 怒られる前にお布団に帰ります!!!!!





「ーープロキオン。報告を待っている」


 うっすらと笑みを浮かべたシリウスの瞳は雨上がりの月のようで、半円の三日月がゆらゆらと揺れていたーー……。彼は優しくラビィの背中に手を添え、廊下を二人で歩いて行ったーー……。




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