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天候を操る氷の竜と静夜の賛歌

 

「ーーーーなんてやつだ!」


「王籍剥奪および国外追放。王国領への再入国を永久に禁ず」


「王国騎士団規約に基づき、騎士団籍を抹消。以後、騎士団員としての権利をすべて失う」


 ラビィは聖女の役職を除外。シリウスも騎士団から除外。二人は国から永久追放の処分を受けた。


 ーーすみません、シリウスさんにまでご迷惑を……。



「ラビィが謝ることではない。もともと、王国騎士団はラビィに毒を飲ませて殺害しようとしていた。危険が及ぶ前に逆に追放されて、相手から嫌われて良かったのかもしれない」


 ーーそれは……。私はもうすでに聖女の力を失っているので、処分を受けるのはしょうがないことと諦められるのですが、シリウスさんや騎士団の人たちが同じく重い処分を受けるのは……申し訳ありません。


 吐く息が白い。ラビィは持っているだけのあたたかな服装で馬車に乗り込む。騎士団の仲間は紋章入りの服を処分して、普段着に着替える。馬車は木々の間を潜り抜けて行く。馬車の窓から見える街がどんどんと小さくなる。







 幾日かは持ってきた食料を馬車の中で食べた。毛布にくるまれながら長い夜を過ごした。朝、寒さで目が覚める。外を見ると大きな泉に氷が張っていた。馬車から降りると白鳥の群れが一斉に飛び立つ。まぶしいくらいの朝日だ。ラビィは体を震わせて馬車の中へと戻る。



 ーー寒い。


 ラビィは荷物の中から火竜の洞窟からシリウスが調達してきた鉱石を取り出す。鉱石は内部にエネルギーが込められており、手で握るとあたたかさが伝わって来た。体があたたまったあとにまた外に出る。


 石と石を何回か打ち付けて火をつける。それを布に着火して、薪に火を移す。そこに、食材を並べて、あたたかなご飯を食べた。




 馬車は道なりに近くの街へと進んでいく。食材の調達をして、宿屋を見つけて休む。部屋には暖炉があって、その前で体をあたためた後にお風呂に入った。また、太陽が上がると、馬車で長い長い道を進んで行って……。


 移動中の馬車の中でラビィは本を読んでいて、たまにシリウスさんが歌を歌ってくれた。


 低音なのに子守歌のように優しく歌う歌声が心地よい。


 言葉の一つ一つが心に残る。


 ーー私も声が出たらーー。シリウスさんと一緒に歌が歌えたらいいのに。


 読書をしているとき、彼の歌を聞いているとき、なにもないけれども、いつものメンバーで、同じご飯を食べているとき、何気ない会話をしているとき、仲間の顔を見ているときは寂しくなかった。ちょっと頑張れば、困難なことでも乗り越えられる気持ちになった。













 ☆




 北の空には、氷の神と呼ばれる竜がいる。

 その竜は何千年もの間、大切なものを守っているというーー……。






「おかえり、シリウス! ーーって、このかわいらしい子はどなた?」


 馬車が着いた先はシリウスの大きなお屋敷だった。


 ーーシリウスと同じ髪色の銀髪に、ブルーの瞳。大きな瞳にキリっとしたつり目がちの……スタイルの良い美男子……いや。このお方は……もしかして。


 ーーシリウスのお姉さま!?!?!?


 ーーーかっこいい!!!


「ちょっとやめてくれ」


 シリウスのお姉さまはじっと見つめた後、ラビィのことを上から下までじっと見つめる。


「……かわいい」



 ーーえ? 今、かわいいって言った? 


「ーーふうん? そういうこと? 全然返ってこないと思ったら、そういうことだったの? あら? でも、以前、ほら手紙で……うーーーん……はぁっ!? 何その服装!? それに胸元の騎士団章がないじゃない!?!?」


「ーーん、まぁ、それにはちょっといろいろあって……」


「ーーちょっとおおお!? まさか、まさか、駆けお……」



 シリウスは怖い顔でお姉さまにぐいぐいと詰め寄る。


 ーーかけお、かけ……??? ちょっと聞き取れなかったな。お姉さまが言いたかったことはなんだろう。




 目の前に見えるのは個人が所有するには多きるくらいの大きなお屋敷。背の高い木々に囲まれて、木やお屋敷の屋根には雪が積もっている。


 門や入口、いたるところに星と狼の紋章がある。シリウスの家系はもともと魔法使い、魔法研究に特化した家系だ。その家系に一時的にでも味方になっていただけるのはとてもありがたい。


 私はそのままシリウスに案内されて、お屋敷の別な塔の魔法研究所に連れてこられた。

 魔法研究所にはもともと聖女が使っていたものが保管してある。


 花や薬草を育てる温室。お屋敷のまわりには代々伝わる敷地内に自然の木の実や果実、豊富な資源がある。近くの街には週に一回ほど、船で遠くから珍しい食材や珍しい資材が運ばれてくる。



「ーーやはり。聖女の記憶は失っても、その星から選ばれた血の力は残っているのか」


 シリウスは複数の特殊な鍵を開けて、重たい扉を開ける。暗い倉庫の中の灯りを付けると、そこには今はもう使うことがなくなった、大切な巨釜を見せた。年期がかかった巨釜はラビィに反応すると青い炎を出して、新品同様の、キラッと輝く美しい巨釜になった。



「この子……」


 倉庫に入ると、古びた魔法具に息が吹き替える。

 もう使うことがないと思っていたけれども、これからは大活躍しそうだ。



「す、すばらしい!!!!」



 お姉さまはラビィの手を強引につかむと、椅子に座らせて溌剌(はつらつ)としていた。


「……私の若いころのお洋服なんだけど、ぴったりね!!!!」


 そう、豪華なドレスを着せられていた。ドレスにボンネット、パニエなんか四層になっていて

 シリウスのお姉さまは本当は女の子みたいなお洋服に憧れていたのだが、高身長とそのスタイルの良さで、可愛らしいものはコレクションにしていたらしい。


「ーーこのドレスは昔から人気があって、ああ。取っておいてよかった」



 ーーこういうところ、シリウスにそっくりだ。


「今度、一緒にお買い物に付き合って頂戴。骨董屋さんを巡って、古の魔法具を入手して、もしかしたらあなたと一緒なら! 私が小さいころ使いたかった魔法が使えるかもしれないの」


 ーー古の魔法具!!! それには私も興味があります。



「多くの資源。広い土地。古の魔法使いが残したたくさんの魔法具。ここでなら、ラビィの力を思う存分発揮できるだろう」


 ラビィは腕を組みながらラビィのことを優しいまなざしで見つめる。



 ラビィは魔法研究所の近くの部屋の鍵を一つ渡された。

 部屋を開けると、そこには単調な木のベッドとテーブル、タンスが置いてあった。おそらくそこは客室として使っていたことがわかった。


「ここでまたいちからはじめよう」


 シリウスはそうつぶやく。


 ーー私には今なにもない。真っ白な状態だ。全部失ってしまったということは、これからは自分の力ではじまるという合図だ。



 お屋敷には騎士団にいた頃よりは少ないが専属のメイドやシェフもいて、食事はラビィの部屋に直接運ばれてくる。


 ラビィは昼食を取ると食器を片付けているとシリウスのお姉さまに呼ばれた。どうやら、月曜日の午後はお屋敷に直接商人が商品を荷車で運んできているらしい。


 荷車から商品を見ると、中には食材、日用品、道具、冬の花、種が並んでいた。

 ラビィは種をいつくか購入する。お出かけ用の鞄と籠やリュックも購入した。革の手袋、鋏、ジョウロやバケツやロープも新調する。購入した商品を抱えて、温室に入る。プランターに土を入れて、穴を空けて、肥料を入れたりもして、種を蒔いたり、球根を植えたりした。小さな植木鉢から、もっと大き目の植木鉢に花を移し替えたり、ジョウロで水をあげる。


 温室には畑もあり、畑の土を耕す。耕した畑に肥料をあげて作土層を作る。そこに種や苗を植えてジョウロで水をあげる。


 もくもくと作業を続けているとシリウスが声をかけてくれた。どうやら、今から仲間を連れて外に出るらしい。ラビィはにこにこと手を振って、いってらっしゃいと合図した。シャツにズボンを履いて、作業用のエプロンを履く。軍手には土がついている。長い髪は一つに結んでいて。いつもとは違った雰囲気だがその表情はとても明るかった。


 ラビィは畑仕事が終わると、倉庫からいろいろと魔法研究所に使えそうな道具を運ぶ。雑巾と布できれいに磨いたり、少しずつこつこつと道具の手入れを始めた。中には前にいた場所で見たこともないような道具も置いてあって、元聖女様たちが残した本から調べた。文章や写真を元に道具の手入れや壊れた部分を修復する。それらを毎日少しずつ研究所に並べていった。


 私はそれらを自分の本に記録する。温室の花や畑の管理をしたり、雪が比較的少ない日には籠を持って、森の中で動物の足跡を見つけたりもした。


 魔法研究所で自分で育てた花や商人から購入した薬草を調合し、簡単なポーションを作るのに成功した。街の鑑定所に出すと、初心者ポーションと書かれた紙と一緒に返送された。ラビィはコツコツと初心者ポーションを増やして、シリウスのお姉さまと一緒に街の道具屋に受け渡す。


「ーーあの、道具屋のオヤジ、あれこれ言い訳をつけて相場よりも安く買い取られた」


 シリウスのお姉さまは帰り際、怒っていたようだが、ラビィは自分が作ったものが売れたので満足そうだった。その足で、骨董屋の前を通る。


 骨董屋に入るとラビィはとても古い本をいくつか購入した。本の汚れをはらう。もう中は文字も擦り切れていて、中には抜けたページや見えない文字もあるのだが、それらを丁寧に修復する。


 その中で、火竜の洞窟で見つけた珍しい鉱石を使って新弾の研究をはじめた。





 この街の独特の言葉があったので、それらの意味を図書館で調べたり、それでも足りなかったので、休日は語学の勉強に教室に通ったりもした。


「ーーあなたも語学の習い事をしているの?」


 ラビィに声をかけたのはちょうど同じくらいの年の女の子だろうか。紫の髪にツインテール。月と星の髪飾りをつけた女の子に声をかけられた。瞳の色はイエローダイヤモンド。夜の月のようなかわいらしい女の子だ。


「私のことはルナって呼んで」


 ーールナちゃん。とてもかわいい名前。


 ラビィは照れながら、にっこりと微笑む。


 ーー私、声が出なくて。


 ラビィは声が出せないので「私は声が出せません」とノートに書いた。習い事でも一人で端の方でひっそりと参加していた。記憶喪失になってから、いろいろな人とは出会ったけれど、自分と同じくらいの女の子との交流がなかったので、新鮮で、久しぶりの会話がちょっと嬉しかった。


「ーーあなた、声……ああ、ごめん。ねぇ、隣に座ってもいいかしら?」


 真っ黒なワンピースに黒のケープ。今日は雪が多くて、習い事の人が少ない。


「あまり見かけたことがないけど、おうちは近所なの?」


 ラビィは、ちょっと首を傾げながら、困った顔をする。


「言いたくないことなら、言わなくていいのよ。……秘密って大事でしょう?」


 ラビィは自分のノートにペンで「今日は先生来ないね?」と書いた。


「ーーそうなの。ここの先生、とってもおおざっぱで。雪の日には、遅刻してきて、生徒が時間を持て余すこともあるのよ」


 ーーそうなんだ。


 ルナはラビィのそばにぐっと近寄って、こそこそと話し始めた。


「ーーねぇ、ずっと気になっていたんだけど、あなためちゃくちゃ綺麗な恰好をしているけど、絶対、ここらへんの子じゃないよね?」


 ーーギクッ。シリウスのお姉さまが選んだワンピース。薄々、このワンピースちょっと派手かなぁと思っていたけど、やっぱり、場違いだった!?!? 


「ーーその細かいワンピースの刺繍、全部手縫いでしょう? レースだってフリルだって何層にも重ねてあるし」


 ーーそうかもしれないと、全部手縫いの刺繍、手縫いでビーズがついてあると思ってはいましたけど、みなさんにもそう見えますよね? 


 そして、鞄の中から教科書を取り出そうとする。


「ーーえっ、この家紋!? さりげなく、鞄の留め金に星と狼の家紋が彫られてありますけど、まさか……あの……いや、遠い親族のお方……いや、いや、おうちの事情はお互い深く追求してはいけませんよね。しかし、その鞄はあまり人目につかないようにした方がいいですわ」


 ーー何か言葉を濁されました!?!?!?


 ルナは自分のポシェットからハンカチを取り出すと、鞄の留め金の部分にハンカチでリボンを作る。 




「ーーまさか、語学の教室で……ああ、困ったわ。……どうしましょう。……そうだわ、とりあえず。ええ、ルナは、あなたの友達を希望します」


 そう言ってルナはラビィに手を差し出した。






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