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火の竜に奪われた宝石と囚われの二人の姫

 

 西にある鉱山地帯、火竜山。かつては魔法使いが魔法の力で鉱山や街を守っていたのだが、聖女の力が失われ、魔法使いの魔力がなくなったことにより、火竜が街に降りて来ていた。


「二十、いや三十は竜が山から降りてきているな」


「火竜。彼らは普段は自分たちの縄張りの火竜山を守っているはずなんだ。溶岩に含まれる魔力成分を主なエネルギーとしている。そんな火竜が自分の食料、寝床である、鉱山や街を壊すはずがない」


「……聖女の力が失われたと同時に世界の鉱石の威力エネルギーも低下してきているのか?」


「食料であるグズ鉱石を探している?」


 雪の勢いは止まっている。真っ白な地面に馬の足跡がつく。


 星の国章の馬車がぞくぞくと街へ到着する。うしろからシリウスとプロキオンの乗った星と雪の騎士団の紋章の馬車も到着する。彼らは街からちょっと離れた場所の森に馬車を止めた。


 王国騎士団の乗った馬車はそのまま街の武器屋の前で止まった。


「王国騎士団は王国治安法に基づき、武器屋の店主の身柄を確保する」


「……」


 魔法が使えなくなった世界では新しい武器が売られるようになる。鉱石はほとんど魔力の力がなくなってしまったので、比較的安価で大量に加工できるグズ鉱石を使ったまがい物の武器が作られていた。


「こちらにある武器も全部回収しましょう」


 遠くから様子をうかがっていたシリウスとプロキオンは自分たちもこのまま竜の討伐へ同行しようと思っていた。だが、馬車の窓から見覚えのある姿を見た。


「ラビィ?」


 真っ白なコートを着ていたからたしかではないが、騎士団の教団で待っているはずのラビィによくにた姿を目撃した。ラビィはあっという間に雪の中に姿をくらました。ラビィが走って行った先には火竜山がある。


「胸騒ぎがする」


「ラビィ? ラビィがいったいどうしてここに?」


 シリウスはしかめっ面な表情をしていた。








「……火竜を倒しに一緒について行きたいって!?」


 昨日の夕食後、ラビィは「お願い事がある」とシリウスの部屋を訪れた。

 シリウスの低い声が通路に響く。彼は視線をずらしてため息をつく。


「絶対についてきてはだめだ」


 ラビィは肩を下ろしていた。

 自分も聖女として何か役に立ちたいと思っていたのだろう。

 その気持ちはシリウスにも伝わってはいる。


 ラビィは自分が持っていたトランクを広げると、小袋を取り出した。

 軽い擦り傷に良く効く塗り薬、包帯と清潔な布切れに鋏。

 それから瓶に入ったお薬と薬品が染み込んだガーゼなんかもある。


 それだけではない、新調したばかりの手袋に星と雪の結晶が刺繍されていた。


 シリウスは驚く。


「これを君が用意したの?」


 隊の軍事用品は普段誰もが気軽に取り出せないように、すべて管理されている。おそらくラビィは許可を取って、必要な装備を取り出したのだろう。それに少しの手を加えて、雪と星の刺繍をほどこした。


「……ありがとう」


 シリウスは手袋を自分の手にあわせると、少しの間、心の奥があたたかくなるのを感じていた。


「自分が帰ってきたら、おいしい夕食が食べたい。君は安全な場所(ここ)で待っていて欲しい」





 ーーーー二人は、そう、約束したはず。






 同じくプロキオンもラビィの姿を見ていた。


「シリウスさん、火竜山に行ってみましょう」


 馬が走って行ける範囲まで馬車を走らせた。途中、道が崩れていたり、地面がひびが割れていて、地面のひび割れから溶岩が溢れている場所があったので途中で馬車を置いて歩いて山を登る。火山地帯とはいえども、真冬の山は気温が低い。凍てつきそうだ。それにーー……。


 鉱石所が近ずくにつれてどんどん竜の群れに出くわすことが多くなってきた。気温は低く、足元は雪で覆われ、思う存分に魔法が使えない。頼りになるのは武器についた残り僅かな魔法石の力だけ。


 山と山を結ぶ橋の間にラビィが立っていた。


「ラビィさん? どうしてここにラビィさんが……」


 まっしろな景色の中でプロキオンは我を失っていた。


「プロキオンさま!?」


 プロキオンは一人仲間から離れて一人で彼女に近寄る。


「ラビィさん! 石橋は凍っておりますので大変危険です。どうぞ、こちらへ!」


 ラビィは橋の上で手を伸ばした。


「ラビィさん……!?」



  プロキオンはその手の中に走っていこうとする。


『プロキオンーー!!!!!!!!』


 プロキオンはラビィの手を取る。

 手をとって彼女の体を抱きしめたあと、プロキオンの持っていた武器が石橋から落ちて、谷底へと落下する。


『プロキオンさまーーーー』







「ぼくはこれから騎士団に加勢して火竜を倒しに行く。今回の討伐対象の竜は強いから、もうここには戻れないかもしれない。こうやって、君の手を握ることも」


「ーーごめんね」


 雪が崩れ、大勢を崩す。


 プロキオンはあのなつかしいできごとを思い出していた。




 ☆






「プロキオンさま、王国騎士団にご入団おめでとうございます」


「騎士団採用試験、国家採用試験、騎士団での訓練お疲れさまでした」


「お若にも関わらず、熟練の騎士様たちにも劣らない剣の扱い方はきっとお父様のご指導が良かったのですね」


「ええ、お父様も凄腕の騎士さまですから!」


 彼は最年少で騎士団に入団したこともあり、入団式はとても緊張した。地方の騎士団とは打って変わって、中央部の巨大都市を守る騎士団の団員数は城に駐在している団員だけでも千人を超える。


 千人近い団員を抱える大組織。たくさんの騎士団の中をくぐりぬけるようにそこには花のような女性が一人立っていた。


「プロキオンさんはこいぬ座の星神さまの意思を継ぐお方。星神の力をお借りして丹精込めて星剣を作りあげました」


 自分専用の剣を持ったとき、力があふれるようだった。それは軽く扱いやすい。

 あの頃の彼の心は両親から教えてもらった武術、先生から教えてもらった学術、訓練で得た実技、そしてともに戦ったこの武器とともにあった。



「プ、プロキオンさま!?」



 谷底から竜の唸り声が聞こえる。

 風で揺れる橋の上に二人はしゃがみこんでいた。


「ラビィさん? 歩けますか?」


 プロキオンは彼女の体を支える。


「ぼくの手を取って一緒に橋の向こうまで行きましょう」


 プロキオンの言葉にラビィは反応してくれない。


「……橋の上は危ない」




 ラビィとシリウスの話が正式公表されたとき、プロキオンは内心すごく動揺した。いつかはそんなことがあることはわかっていたけれど。いつかはお別れがくるはずと思っていたけれど。





「……橋の向こうに()()()()()()()いらっしゃいますから」


 魔法石から送られてくる聖女の魔力。その加護の力がなくなったらーーーー……。


 プロキオンは固く握られたラビィの手を自分の手で包み込み、手を引っ張って橋の向こうへと歩き出した。


 心が痛む。魔法使いだってただの人間なんだーー……。







 雪が降り続く中、プロキオンは一歩、また一歩と、ラビィの手をひき、雪で凍った石橋の上を歩く。

 橋の向こうにはプロキオンや隊の仲間が見ている。


「……よかった」


 そう、プロキオンは呟くと、ラビィの背中を一気に押した。それをシリウスが走って抱きしめる。



 一斉に谷底から竜の群れが襲ってきた。

 プロキオンは仲間を背に構えの姿勢をとる。



 聖女様の力がなくなって。魔法石の力がだんだんとなくなっていって、魔法使いも魔法を使うことができなくなって、能力がなくなった自分になにができるだろう。今まで積み上げてきたものを失い、またはじめからになる。今の自分にはなにが残るだろう。……本当はなにもなかったのではないか。自分は自分自身の力を過信していただけじゃないのか。ーー今自分の立っている、背後には多くの仲間がいて。一本の線の上に自分の命はひとつしかなくて。そんなことを彼は考えていた。彼は竜の()ばたきの風で体にいくつもの傷ができる。両足は雪で埋もれ、足は氷のようにつめたく、氷風が心臓を突き刺す。


「……魔法を使わないで戦う世界ってこんな感じなんだ」




 火竜が襲い掛かってくる。いつもここで魔法の詠唱を始めるのだが、剣は谷底に落ちて、魔法石は割れてしまった。





 


「僕たちは騎士団だから身勝手な行動は慎め。仲間の怪我一つだって報告しなくてはいけないんだ」



 シリウスの低く通った声がうしろから聞こえる。

 彼はレッグホルスターの留め具を外し、拳銃を抜いた。


「世界は新しく生まれ変わる。それにはプロキオンの力も必要なんだ」




 拳銃を握る黒の射撃用手袋。

 手の甲には、雪と星のーー騎士団章が刺繍されていたーー……。






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