三話「神々の道具」.2
フェイジアに名前を呼ばれたとき、外見的には大きな変化はない。
『マスター権限再統合。P45-エルガリオンの既存マスター権限は、保有者の消滅可能性極大として破棄を承認。新規マスターへ新名称“ルガリ”として、権限を移行』
「ルガリ……様? 何かおっしゃいました?」
『P45-エルガリオンの“首輪を破棄”する』
瞬間『グラディウス』の瞳の赤い光が消える。がくんと首が項垂れ、腕が力なく落ちる。電子化兵として搭載されたP45の頭脳と、機体の接続が切れたのだ。
「どうされました。見守り様? ルガリ様!?」
新しいシステムを起動するには、再起動が必要なものだ。ほんの数秒の沈黙の後、再び彼は応える。
「いや、問題ない。フェイジア、“俺”は、大丈夫だ」
再びその目が開いたとき、黄色の光が宿る。
体を起き上がらせ、その視界にフェイジアを捉えた。
そのとき、『グラディウス』の目は赤目の単眼だったものから黄色の双眸へと変わっていた。
「少し、様子がお変わりになりましたか?」
「うん。枷が外れた。ほんの少しだけ、楽になったんだ。君のおかげで」
その返事に、フェイジアはよくわからないと言った曖昧な表情で首を傾げた。
彼女の反応は至極当然が、電子化兵も電子化兵で、要因過程結果どれもよくわかっていない。
「……? なら、きっと素晴らしいことなんでしょう。お助けになったのなら幸いです」
「ありがとう。フェイジア」
そう言って、“ルガリ”は立ち上がる。
鋼の巨人に、それまでは囚われ不確かだった、ヒトとしての魂を宿して。
「フェイジア、少し聞いてくれるか?」
「え、どうされました?」
フェイジアを掌の上に乗せ、自分の埋まっていた場所を眺める。周りに他の機械はない。あそこが整備用の施設だったとは思えない。力尽きて寄りかかっていたのなら、こうして今動けていることがわからない。
それとも、道具として使い潰される前に、ここに隠れ潜んだのか。
まるで石になっていた機械の体は、本人の精神よりはるかに頑丈だった。
「エルガリオンという名前は、俺たちの言葉で、『道具』を意味するんだ」
「道具……? ではP45-エルガリオンというのは……」
「俺は、侵略者によって、この機械の体に納められた、元人間なんだ」
「人間? ルガリ様が?」
フェイジアには、覚えている限りのことを話した。
原住民にとって、ルガリは他のアルマートゥスと同じような鋼の巨人だが、敵ではないとわかっている。しかし、その中身が人間だとは思っていない。
神か、先祖の魂か、自分たちを守ってくれる何かが宿っていると思っていた。
「人間なんですか。まさか、人間のアルマートゥスのように、中に乗って?」
「いや。肉体はない。今のフェイジアと同じくらいの頃に、侵略者によって魂を抜き取られ、アルマートゥスの体に押し込まれて、戦いを強いられた。逆らえないように首輪を嵌められた家畜のように、俺たちは使われたんだ」
「では、先ほど枷を外したというのは」
「君がルガリと呼んでくれたから。それまで外せなかった首輪が、ようやく外れたんだ。……まぁ、理由はよくわからないんだけど」
マスター権限がどうしてこうもスムーズに移動したのかは釈然としないが、少なくとも今のルガリを命令して自爆させようとして、できる者はいない。
エルガリオン――道具を意味する言葉からつけられた名前でありながら、それは自由をもたらした。
「フェイジア、お願いがあるんだが、聞いてくれるか?」
「は、はい! 何でも言ってください、ルガリ様」
フェイジアの言葉に頷いたルガリは、集落の外、婦人たちが逃げていった方向を見た。
「この大地を支配する奴らについて教えてほしい。奴らから、みんなを解放するために」
敵を知らないことには、戦いに備えるのは難しい。
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