三話「神々の道具」.1
自分の名前は何か。
原住民の子どもたちの何気ない一言から、その疑問は生じた。
「P45-エルガリオン、それが、このP型電子化兵に与えられた名前なんだ」
名前、とは思えない名前だ。むろん、本人さえも、これは名前ではなく識別番号としか思っていない。
「P45と呼んでくれればいい。ずっとそう呼ばれてきた。昔はちゃんとした名前があったと思うけど、もう覚えてない」
自分たちが見守り様と崇める者も、何者かによって名を奪われ尊厳を踏みにじられた。
その悲しい呼び名は、奪われし者の証。
少なくとも、フェイジアはそれを理解して青い顔をした。
「ピーヨンゴー? なんか呼びづらい」
「ピョンゴ……なんかダサい」
「エルガリオンってかっこいいーじゃん。それで呼ぼーよ、見守り様じゃなくて、エルガリオン!」
「でも長い」
「ルガリとかどう?」
子どもたちの無邪気な声が、腕や肩から向けられる。
『道具』という意味を持つ単語が、その由来を知らなければかっこよく聞こえるらしい。
まるで――自分が特別だと思わせてくれる。
「そうだな。その呼び方がいいな」
例え同じ識別コードでしかなくても、ただ数字を呼ばれるよりもずっと特別なものに思える。
「よろしいんですか、見守り様なのに」
「いいよ。かつて誰だったのかもわからないんだ。名前で呼んでくれただけでも嬉しい」
膝を付き、子どもたちを降ろす。『グラディウス』の腕を滑って降りていく。同じ鳥人たちでも、フェイジアのように飛ぶことができる者とできない者がいる。
特に腕に羽を持つ者たちの多くは、翼自体が退化しており滑空もできない。
総じて、ほとんどの鳥人たちは飛ぶことができない。
「ありがとうね、ルガリ!」
「もう一回滑っていい?」
「何度でもどうぞ」
彼らが自由を求めて空を飛ぶことはできない。まして、この地上を闊歩することさえも、今は難しい。
それでも、原住民たちだって意志がある。自由と平和を望む気持ちは、人間たちと変わることはない。
「こんな機体を、喜んでくれるのなら、いくらでも使ってくれ」
アルマートゥスは戦闘兵器だ。それも世代によっては決戦兵器に分類される。
単なるP型電子化兵であったとき、自らの存在が誰かに喜ばれることなんてなかった。奴隷兵と蔑まれ、使い捨ての弾避けか、地雷掃除に駆り出され、帰還不可能な特攻を強いられてきた。
どうやってそこから生き残ったかすらわからない。
けれど、この土地の人々のためになら。
「君も、呼んでくれるか。フェイジア」
「で、では。失礼いたしまして」
『グラディウス』の肩から降りたフェイジアは、咳払いを一つ。膝を付いて覗き込む相手を見上げて、少し微笑みながら。
「ルガリ」
茶褐色の羽毛に包まれた少女は、恥ずかしがりながら新たな名を呼ぶ。
同時に、P45と呼ばれていた電子化兵の中で、変化が起きる。
まるで、彼の脳内で閃光が走るような感覚がした。
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