二話「鳥に導かれて」.3
鳥の民たちを眺めるP45は、しばらく思考停止状態で眺めていた。
それを、フェイジアは少し気になったのか、声をかけてくる。
「見守り様、どうかされました?」
「ん? いや、何も……フェイジア、子どもたちが来たようだ」
アルマートゥスの視界は、頭部のメインカメラを中心として、各所に設置されたサブカメラからも情報を得ている。現状光学センサー以外の機能は停止しているが、正面以外を確認することはできる。
「フェイジアおねーちゃん! 見守り様のお話してー!」
「わかったー! 後で行くねー」
「えー、いまがいい!」
古きを知る者は、次に伝えていく必要がある。これまで語られてきた見守り様の話に、自分のことが加えられ、また子孫に伝えられていくのだろう。
文字を持たない原住民だからこそ、口述伝承が重要になる。
腰の翼を広げたフェイジアは、迷わずP45の肩から飛び降りて滑空していく。
「見守り様も一緒に来てよ!」
「どうして埋まってたのか教えて」
「こら、見守り様はまだお仕事があるんだから、無理言っちゃダメよ」
「いや。少しお休みいただいてもいいだろう。フェイジア、子どもたちを頼むぞ」
近づいてきた長の言葉にフェイジアは肩をすくめながら頷く。喜ぶ子どもたちを掌に載せたP45は、『グラディウス』を埋まっていた場所のほうへと歩かせる。
「見守り様はね。ずっとずーっと昔から、このお山に隠れていたの。大きな大きな炎が地上を焼いて、大水が全部を押し流した後、私たちのご先祖様は山の麓に住むようになった時から、見守り様はずっと集落を見ていてくれたのよ」
「それってどれくらい昔?」
「うーん、あなたのおばあちゃんのおじいちゃんのおばあちゃんの……おじいちゃんよりもさらに昔かなぁ」
原住民たちの寿命は四十年前後。三十代のうちに孫を持つ者も少なくなく、平均的な世代交代年齢は十三歳。
七十年以上の寿命を持つ人間に比べると、鳥獣のごとき短さである。
「みんなも、大人になったらちゃんと子どもたちに見守り様のお話をしてあげるんだよ」
「見守り様がここにいるのに?」
見上げてくる子どもの表情は、どこまでも純粋だ。今までそうしてきたからという行為に、簡単に疑問を持てる。
「あれ、そうだね……。どうしましょう、見守り様……」
「もしかしたら、またそのうち眠りにつくかもしれないんだ。覚えておいて損はない」
正直、『グラディウス』がどれほど活動できるのか、判断が付かない。
上級特務兵が使うような超高性能機、第八世代型『マッレウス』ならば、自己修復機能を備えた特殊ジェネレーターを持つ。
だが、『グラディウス』に搭載されているのは汎用ジェネレーター。自爆した時の威力が高いこと以外にこれと言って特徴のないものだ。いつこれが停止するかも、今はわからない。
「見守り様、また眠っちゃうの?」
「しばらくは大丈夫だよ。もしかしたら、すぐにでも怖い人間たちが、襲ってくるかもしれないから。まだ眠らない」
電子化兵の強みは休息も補給も必要ないことだ。機体さえ動けばいくらでも作戦を続行できる。今彼に課せられたミッションは、この集落の防衛だ。
「無茶をしないでくださいね。見守り様」
「わかってる」
フェイジアが心配そうに機体触れる。ジェネレーターの放熱でわずかに暖かい金属。戦闘稼働中ではないから、表面はヒトの体温より低い。それでも触れ、心配する彼女の人柄は、生来の優しさ故なのだろう。
何も持たない、何も知らないはずの末端兵士でさえ、守りたいと重いほどに。
「ねー、でもさ、ずっと見守り様って呼ぶのも変じゃない? もう見守るだけじゃないんだ」
「じゃあ、御守り様?」
「なんかしょぼそう。ねぇ、見守り様の名前ってなんていうの?」
「……はっ! そういえば、ずっと見守り様って呼んで、お伺いしていなかった!」
「……村長も気づいていなかったんだ。子どもたちだからこそ気づけた問題だったな」
「へへへ、褒められた」
だがしかし――とP45は思う。
自分の名前とは、何なのか。
少なくとも、彼はそれを、とうの昔に奪われていた。
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