二十三話「不限機関-アムリット・エンジン-」.3
ルガリの『グラディウス・リペア』が元の機体であったら、まともなコクピットがないため、パイロットに操縦を託すことはできなかった。だが、乗り換えた結果広くて新しいコクピットとなり、フェイジアたちからのエネルギー供給だって受けられるようにもなった。
先ほどは力ずくで無理やりに仕留めたが、この『マレウス』を使えば、もっと楽にできるはず。その確証があって、ルガリは動かないアルマートゥスを確保した。
「くっそっ! マジで言ってんのかよ」
「ザハクの相手と言っても、私は何をすればよろしいんですか?」
悪態をつきながら席を変わるナナワ。フェイジアはコクピットから外に出ると、ルガリの黄色い双眸と視線を合わせた。
「フェイジアには、こいつに乗ってほしい。君なら、動かせるはずだ」
「……え? でも、動かせるだけで、戦えはしません!」
確かに、彼女らはアンブロス・ジェネレーターにある程度のエネルギー供給は可能になった。精神的な問題か、それとも別の理由か。いまだに原住民がジェネレーターを動かせる理由はわからない。
だが、起動できることと稼働できることは別の話だ。
「それで問題ない。この機体が本物なら、それだけで十分だ」
そう言ったルガリは、自分の移動をナナワに任せて、『マレウス』コクピットハッチを開かせる。
「コクピットハッチを解放、機体制御端末に接続……開始。よし、乗ってくれ」
「し、失礼いたします……。ルガリ様の中より広いですね……」
「この先の地形で、奴らを引き離してやる! 豪快に行くぜ!」
「キシャァァァッ!」
内部から聞こえる声と、後方から響く金切声。巻き上がる砂に気を留めることもなく、ルガリは一心に腕の中の上位機体の起動コードを紐解いていく。
「フェイジア、俺に力をくれた時のように、操縦桿を握って」
「はい! お願いします。動いてください……」
「アムリット・エンジンの起動を確認。出力安定、限界稼働時間まであと四分二十二秒」
『マレウス』の機体表面に刻まれた溝に、黄金色の光が流れ出す。『グラディウス』には搭載されていない、古代の神秘的技術が起動したのだ。
神聖刻術……第八世代以降に搭載された、当時最強の力だ。
「る、ルガリ様! この機体から何か変な感じが……頭の中に幻影が……」
「それでいい。その導きに従って、力を行使するんだ。このアルマートゥスの……第八世代アルマートゥスの動力源は、アンブロス・ジェネレーターに適性のない人間でも動かせるように開発されたものだ!」
ルガリがP型電子化兵になる以前からも、技術の進歩は目覚ましい。特定の人間にしか使えないアンブロス・ジェネレーターなど、欠陥品もいいところだ。だから、代替となる動力機関は研究され続けてきた。
それが、アムリット・エンジン。限界知ら不の動力機関。
非適正者でも扱えるように、それまでの原石ではない別の動力源を利用している。それこそが黄金の水であり、限られた量であるため、生産数自体は、アンブロス・ジェネレーターほど多くはない。
同時に電子化兵技術の向上により、量産性の高い第六世代が、再び増加したのだ。
「このエンジンなら、君たちでも自在に動かせると思っていた。予測通り、発生するエネルギー量は、今まで俺の中で生み出したエネルギー量の十倍以上だ!」
「つまりこれが……私たちでも扱えるアルマートゥス」
「感動したいところだが、それは後回しだ。武装を形成するんだ。第八世代アルマートゥス『マレウス』に保有武装はない。代わりに――自己形成武装で対応できる」
フェイジアは操縦桿から流れ込むイメージに従って機体を動かす。『グラディウス・リペア』に横抱きにされた状態で、『マレウス』の右腕を伸ばす。
掌をザハクへ向けて、機体の中心――コクピットから右腕に光が集まる。
「弾殻形成、徹甲芯構築。砲口準備良し!」
掌の中に形成された、一本の筒。それは周囲の砂を集めて硬め、圧縮したエネルギーを詰めた必殺の魔弾。
撃鉄も銃身もない。それでも放たれる、古代の一撃。
「撃て、フェイジア」
「鋼の導きが、あらんことを」
口をついて出た言葉は、かつて鳥の民の土地を守るとき、ダニエルとの戦いを前にして口にした言葉だ。
彼女だけの静かな祈り。
けれどそれは、いつか獣たちの聖句となる。
爆発的加速力によって放たれた硬芯徹甲弾。
それはザハクの硬い皮膚を容易く貫き、内部に衝撃を与える。
それを、残り四発分形成し、放つ。
「キャァァッ!」
鋭い悲鳴が、砂漠に木霊した。
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