二十二話「砂漠に生きる者」.1
ルガリが自分の出自、ここまでの経緯を話している間、フェイジアとナナワは、子どもたちと一緒にオアシスの中を見学していた。
尤も、さほど広いわけではない。ヒト十人程度が十二分に生きていくことができる範囲と、必要な分の食料の生産施設が並んでいるだけで、決して裕福というわけではない。
「じゃあ、最初からここに住んでいたわけじゃねーんだな」
ナナワの質問に答えたのは、ラムネラと一緒に砂上船を操縦していた双子の弟妹だ。兄のロデスと、妹のフラン。姉と同じ髪色のぱっと見どちらがどちらかわからない。
二人はフェイジアとナナワの前に器を置くと、手程の大きさの木の実を水に溶かした。本の一口二口分の水だが、これが砂漠に住む者の最大のもてなしだ。
ペロリと嘗めた水は爽やかな酸味を感じさせ、火照っていた二人の体を奥からすっきりさせる。
もっと欲しいとも思うが、水の一滴がここでは死活問題になる。丁寧にお礼を述べて、二人は器を置いた。
「ラムネラ姉ちゃんが助けようって言った時は、どうしようかと思ったけど」
「悪いヒトたちじゃなさそうだよね。アルマートゥスの中に二人も乗っているとは思わなかったけど」
「アタシらとしても、探していた猫の民がたったこれだけとは思わなかったよ。大変じゃねーの、この砂漠」
先ほどフェイジアは言い淀んだが、ナナワはストレートに尋ねる。住めば都も、限度があるだろうと。
「知ってる? 猫の民は人間に人気なんだ。奴隷として」
「……そうですね。人間たちが話していたのを、聞いたことがあります」
「猫の民の下にも人間の軍隊が来なかったわけじゃない。より南に領土を広げようと中継点を探して、昔俺たちがいたオアシスに来たこともあったんだ」
「じゃあ、ここが生まれ故郷ってわけじゃねーのか」
「そだよ」
つらつらと喋る弟ロデスに対し、妹フランはボソッと短い言葉で帰す。
この小さな岩陰のオアシスは、争いから逃げた先で見つけた避難所だった。
かつて、まだラムネラに何の責務もなかったころ。砂漠に流れる大河の付近に存在した猫の民の集落が襲撃を受けた。
町は占領され、多くの同胞が奴隷にして連れ去られた。
かろうじて逃げたラムネラたちの家族は、何人かの同胞たちとともにこのオアシスまで辿り着き、ようやくの平穏を手に入れた。
尤も、砂漠の厳しさ自体は変わらず、今では彼女に大きく重い責務を背負わせることになった。砂上船とその整備知識を持つ人間の確保という幸運を経てなお、それは変わらない。
「ただ気まぐれに放浪していたってわけでも、ないんだな」
「お姉ちゃん、あんな性格だから。バンドラばあちゃんたち、受け入れた」
種族間の争いで多くを失いながら、それを誰かにぶつけはしない。それだけの心の強さが彼女には備わっているのだろう。
「姉ちゃんは人間を恐れない。だけど戦うことを望んでもいないんだ。あんまり無理言ってやらないでよ」
「ひどいことしないでね」
「もちろんです。戦いたくない人を、戦いに駆り出すような真似はしません」
「こりゃ早いところ別のとこに行ったほうがいいな。長居してどんな迷惑かけるかわからねぇし」
砂上船を持っているのだ。大きな集落だろうと勝手に期待していた部分はある。
しかし、実際にはそれは避難場所を住居へと改築し、幸運が重なった結果でしかなかった。
それでも――原住民と人間が共存していると言う意味では、ここは理想郷と言ってもいい。
むろん、ここにいるのが孫を持つような年齢の老夫婦と、その子、孫に並ぶ年齢の原住民だったから、何の問題が起きていないだけでもあるのだが。
「人間との共存、ね……」
できる、などと口が裂けても言えない。
フェイジアは人間たちの支配を五十年に渡って受けてきた集落の出身であり、ナナワは故郷を奪われてきた者だ。同じ原住民同士ですら種族的性質、性格の違いから同じ森で生きることをしてこなかったくらいだ。
人間との共存など、夢物語に等しい。
それでも、もしも目指すことができるのなら。
「世界を変えられるかもしれませんね」
そのためには、少なくともこの支配された状況を脱却し、最低限同等だと認めさせる必要があるだろうが。
戦うか、戦わないか。どちらにしろ、世界はそう簡単に変わらない。
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