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二十一話「砂漠の理想郷」.1


 緑色の髪の猫の民(バスティアン)ラムネラは、砂上船マストの上に立ち、地平線の彼方までを見張っていた。

 剣をボード代わりにして砂漠を滑るルガリは、船にしがみつきながら彼らの武装を確認する。


「この船は、アンブロス・ジェネレーターで動いている。だが人間が協力してくれているわけじゃない。自分たちで動かしているのか?」

「そうだね。人間はこの砂漠にやってこない。欲しいものもなければ、奪うものもない。だから、私たちは自由に生きているのさ」

「どうやってアンブロス・ジェネレーターを動かした? あれは人間でなければ、起動できなかったのに」


 その疑問は、一部例外を除く、という言葉ですでに片付いてしまうものだったが、明確な理由があれば他の者にも適用可能だ。

 しかし、ラムネラからは、外れてほしかった予想通りの言葉が返ってきた。


「全然わかんない。気合で動かせるようになった」

「イノシシでももうちょっとましな思考するぜ」

「な、ナナワさん、そんなこと言っちゃだめですよ」


 ラムネラに対して愛想笑い、ナナワに対しては苦笑を見せるフェイジア。彼女の生真面目さに少し同情しながら、そうかと頷く。


「予想はしていた。そもそも、アンブロス・ジェネレーターの構造を、人間だって一から十まで全て把握しているわけじゃないだろう。原石がある種の精神波に反応することはわかっていて、それをアルマートゥスや機械の駆動に利用している」

「私たちは、放逐された旧式アルマートゥスを見つけて、遊んでいたら動かせるようになった。理由って言ってもねぇ、今じゃあ特に苦労もなく動かせちゃうからね」


 あっけらかんとしたラムネラは、さほど気にする様子もない。


「動かせるのは、君だけ?」

「いや。私以外にも、妹や、仲間も使える。理由はわからないし、いつの間にかね」

「アンブロス・ジェネレーターの中身が違うわけじゃない。君たち猫の民(バスティアン)が特殊……ではないはずだ。ここにいる犬の民(ショロトリス)のナナワも、一回だけ動かせた」

「必死になってね。残っていた力で動いたのかとも思っていたけど、あんたらを見たところ、そうでもないみたいだね」


 原住民(プリミティ)にも、アンブロス・ジェネレーターを起動できる。

 ならば、原住民(プリミティ)たちが反旗を翻す可能性は、残されている。


「うーん、動かせた原因ねぇ。何だろう?」

「いや、無頓着過ぎないかい?」


 呆れ顔のナナワに対し、ラムネラや、船の中にいる猫の民(バスティアン)たちは気にした様子がない。

 気まぐれな同胞たちは、能天気でもあった。

 尤も、その気質こそが重要なのだとは、誰も気づいてはいない。


「この船は、人間たちから奪ったものでね。砂漠の調査のためにとやってきた奴らだったんだけど、私たちの村に攻めてきて返り討ちにしてやった」

「調査結果もなく、めぼしい資源もなく、人間が手を出しては来なかったということか」

「ああ。でも何人かの人間は、今も一緒に暮らしてる。この船の修理や整備もやってくれてるし、うまくやってるよ」


 人間に対する怒りの感情は見えない。少なくとも、一緒に暮らしている人間との関係性は、悪いものではないのだろう。


「砂漠の悪魔……ザハクでしたよね。あんな怪物がいる場所で、よく住もうと。あ、いえ、失礼しました」

「気にしないでよ。確かにこんな砂漠で生きていくのは、別の場所で生きてきた子たちからすれば狂気の沙汰かと思うだろう。でも、住めば都っていうからさ」


 フェイジアの言葉に、ラムネラは気を悪くはしなかった。彼女ら自身、自分の住む場所が大変で危険な場所だということは、重々承知していた。

 それでも、この場所が故郷であり、彼女らの理想郷であった。


「さっきの話からすると、あんたらは黄金の水を求めに来たってわけじゃないんだよね」

「それ、砂漠の悪魔の昔話でも出てきたけど、なんだい?」

「ザハクは砂を食んで生きている。あいつらは体の中で砂を黄金の水に変えて吐き出すのさ。それがなんなのかはよくわからないけど、人間たちが調査に来たのもそれが理由さ」


 つまり、黄金の水とやらザハクの排泄物というわけだ。

 そんなものを人間たちがなぜ欲しがるかわからない。特別な肥料にでもなるのだろうか。


「今向かっているのは、君たちのオアシスなんだな」

「ああ。せっかくの原住民(プリミティ)の来客だ。そっちのアルマートゥスの中身が出てこないことも含めて、教えてくれるんだろう」

「……いいのか。正体もわからない相手を自分の集落に呼び込んで」

「獣士同盟軍(ディーラバンダログ)だったっけ? そんな御大層なものを持ちだしてまで騙し討ちするほど、人間にとって価値はない」


 あっけらかんとしているが、それは現在の状況を正確に読み取れていることに他ならない。原住民(プリミティ)を、それも二つの異なる種族の少女を連れてきたこのアルマートゥスが、そんな回りくどいことをするような相手ではないと理解していたからこその行動だ。

 彼女が精神面においても熟達した戦士なのだと、ルガリは理解した。


「君は立派な砂漠の戦士だが、集落のリーダーなのか?」

「いいや。それに、集落って言っても住んでるのは両手の指で事足りる数だ。それにみんなが決めたリーダーってわけでもない。ただ私が最年長っていうだけさ」

「……失礼だが、いくつ何だ?」

「生まれてもう二十年。十年くらい前にこの砂漠に逃げてきた猫の民(バスティアン)の、最後の戦士さ」


少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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