二十話「気まぐれな同胞」.3
突如として聞こえた、誰かが呼びかける声。その方向――。
ザザザッ! と砂の上を走る船が、ルガリたちのほうへ走ってくる。砂丘を荒波のように乗り越えて、その先端にはアルマートゥス用の槍が衝角のごとく先端に聳えている。
「この反応、アンブロス・ジェネレーター? どうしてこんな場所に?」
『今からザハクを一頭奴らにけしかける。その間にここを離れるよ。いいな!』
こちらの返事を聞かずに、おそらくは女のものと思われる拡声器越しの声は要件を言い放つ。この状況での先達あちらの船だ。おそらく、複数の砂漠の悪魔に囲まれることも、経験済みであろう。
まして、アンブロス・ジェネレーターを積んだ砂上船を持つ者が、砂漠に慣れていないわけがない。
『代わりにあんたの足元の奴を貰う! 交渉成立だね!』
してもいない交渉が勝手に成立した。こちらの意見を言っている暇はない。砂上船はルガリの足元を通過すると、迫りくるザハクと呼ばれた砂漠の悪魔の群れに向かっていく。
『アンカー、発射!』
船の舳先の槍は、単なる飾りではない。その後ろにあるカタパルトに番えられると、問答無用で発射。ロープを引きずりながら飛んでいく。
「けど、あの威力じゃあ……」
『第二加速装置、点火!』
先ほどから聞こえる声が、さらに指示を飛ばした。加速装置。その通り槍にはブースターが取り付けられている。アンブロス・ジェネレーターの原石を利用した、爆発性加速装置。着弾直前、一気に加速した。
ジェネレーターの爆発でも傷つかなかったザハクの鱗を貫いて、槍が貫通した。
『旋かぁい! 取ぉぉり舵いっぱぁい!』
砂上船は後方に設置されたアンブロス・ジェネレーターを活性化させて、左に舵を切る。
滑車に繋がれたロープ――というよりワイヤーが強引に引きずられ、貫かれたザハクの体も引きずられる。同族が撃ち抜かれたと言うのに、ザハクたちの動きに変化はない。
餌を求めてか、ただかみ砕く相手を求めてか、まっすぐに向かってくる。
その横から叩きつけられた同族を認めると、狙いをそちらへ変えた。
『槍回収! もったいないから無駄にすんなよぉ』
共食いを始めたザハクたちをしり目に、砂上船は戻ってくる。槍を回収し、着地したルガリたちの方向へ走ってくると、倒れていたザハクの前で止まる。
『はやぁ~。ザハクを中から焼き殺すなんて命知らずな戦い方する奴がいるもんねぇ。ま、外皮がこんなにきれいなザハクが手に入るのなら、儲けものさね』
「君たちは一体?」
『細かい話はあと。あいつらが共食いに飽きてこっちに来る前に、ずらかるよ』
船の上部甲板はから伸びてきたクレーンが、ザハクの顎に引っかかる。見事な操縦技術だと感心するルガリに、拡声器越しの声はさらに呼び掛けてきた。
『約束通りこのザハクはもらっていくね。ついてきたきゃついてきな』
返事も聞かずに走り出す砂上船の速度は、ルガリの全力疾走より早い。アンブロス・ジェネレーターを三機は利用しているこの砂上船。
人間でもこんなものは造らない――というより造る必要がない。人間にとってこの砂漠はさほど価値がないからだ。
だが、そこに住む者ならば。
『うぉっ! ついてこいとは言ったけど、捕まっていいとはいってないはずだよ』
「捕まってはいけないとも言われていない」
ルガリは剣をボード代わりにして船体に捕まり、まるで波や雪を滑るように、砂漠を滑っていく。持っていた剣が、ダニエルの保有していた幅の広いもので助かった。
船の方はルガリの言い分に返す言葉がないのか、拡声器から返事はない。
そのまま、ザハクの亡骸を引きずりながら、砂漠の奥へと大きく旋回しながら走っていく。
「君たちは、猫の民だな?」
ルガリの呼びかけに、船の一室が開く。
そこから現れたのは、緑色の髪を靡かせる、獣耳を持つ女性だ。褐色の肌に、鍛えられた四肢を持つ――猫の民。
「人間はここに来ない。危険だし、何もない。でもここに来る奴はいる。同じ原住民だ。あんたもジェネレーターを動かせるようになった奴なんだろう?」
「……それはちょっと違うな」
「ん?」
「多分、君が思っているような相手ではないけれど……俺はルガリ。そして……」
コクピットハッチを開けると、中にいた二人が降りてくる。それを見た猫の民は、不思議そうな顔をする。
声の奴がいないね、と。
「私は鳥の民のフェイジア。ルガリ様のお供をしております」
「アタシはナナワ、犬の民の代表さ」
「……猫の民のラムネラだよ。ルガリって言ったね。あんたはどこに?」
「その説明は追々。まず重要なことから、君に申し入れたい」
鳥の民、犬の民、猫の民がそろったこの場で、アルマートゥスのルガリは問いかける。
「全原住民の連合。獣士同盟軍の結成に協力してほしい」
砂を巻き上げて疾走する船の上で、原住民たちの歴史が動こうとしていた。
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