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二十話「気まぐれな同胞」.1



 砂漠で起きていることを、岩場の上から眺めるものたちがいた。

 しなやかな体躯は、猫の民(バスティアン)のミラクによく似ている。だが彼女以上に妖艶さと強靭さを醸し出す四肢と体躯は、この砂漠で鍛え上げられた戦士のものだ。


「うーん、派手にやってるねぇ。ザハクがあんなに楽しそうにじゃれてる」


 人間からすれば、巨大な蛇が襲い掛かってくるような光景なのだが、蛇からしてみればじゃれているだけに過ぎない。

 それを討伐するのに、一体何機のアルマートゥスが必要になることか。


「ラムネラお姉ちゃん。準備できたよ」

「よし、じゃあさっそく行こうか。アンブロス・ジェネレーター、機関最大!」

「機関最大、ヨーソロー!


 キィィィィン! と甲高い音を発したのは、彼女――ラムネラの後方にある船。

 砂の海を進むための砂上船、その動力機関が動き出した。

 人間にしか動かせないはずの、アンブロス・ジェネレーターによって。


   ***


 砂漠の悪魔――ザハクの口の中。唯一攻撃の利きそうな場所である口の中に飛び込んだルガリだが、予想以上の相手の顎の強さ、痛みに対する鈍感さに苦戦を強いられていた。

 普通の生物なら口の中を剣で刺されれば痛みに悶絶し、口を開き、動けなくなる。

 だが、この大蛇はむしろ口を強く閉じ、中にある『グラディウス・リペア』を押しつぶそうとすらしていた。


「蛇は、噛まずに丸呑みだと聞いていたんだがな……」


 この蛇の規格外の顎に言わせれば、丸呑みする必要も、胃液でじっくり溶かす必要もない。口を強く閉じてやるだけで、獲物が潰れる。

 それも、生物よりはるかに頑丈なはずのアルマートゥスさえもだ。

『グラディウス・リペア』の関節が悲鳴を上げ始めている。あまりの圧力のせいで、外で戦ったほうが安全だったのではと思えてきた。


『アルマートゥスの動力であるアンブロス・ジェネレーターは、人間の放つ精神波によって起動する。原住民(プリミティ)にはその適性がないために、アルマートゥスを動かすことはできない』


 それが、原住民(プリミティ)を人間たち――来訪者(キヴェルニアン)が支配できた理由だ。圧倒的に強い武力を持つ者が、弱者を虐げてきた。

 ふと、ルガリの思考の表層に、数日前。この砂漠に至る前の記憶が蘇る。


「じゃあ、なんでルガリはアンブロス・ジェネレーター動かせなかったんだ? その……何とか兵になったのは、それが理由だったんだろう?」

「俺を電子化兵にした奴らが言うには、人間の中にも適正のあるなしがあったんだ。今の人間は大半が動かせるみたいだけど、俺の生きていた時代は、十人に一人くらいだった」


 決して多い数ではない。むしろ少ない。だからこそ、ルガリの生前の支配者たちは電子化兵を大量投入して、戦力を底上げしようとしたのだ。


「魂の力を外に引き出しやすい人間は自由にアンブロス・ジェネレーターを起動できるけれど、そうじゃない人間には難しい。原住民(プリミティ)のみんなは、遺伝的にそうなのかもしれないな」

「流れる血の違い、ということなんでしょうか」


 結論は出ない。原住民(プリミティ)たちがどうして生まれたのか。どう育ってきたのかも知らないルガリからしてみれば、頭のいい研究者たちが考えるようなことを、電子化兵一人が考えられるはずもなかった。

 ただ何となく――。


 ――まるで原住民(プリミティ)は、誰かにアンブロス・ジェネレーターを起動できないようにされているのではと思えた。


「まぁ俺が戦えばいい話だから。ナナワが起動できたのも、ジェネレーターに残っていたエネルギーを消費しただけかもしれないし」


 それ以上、ナナワによる起動実験は続けなかった。彼女は種族の代表としてルガリについて行く必要もあった。なにより、起動実験を続けても意味がなかった時の、彼女の落胆した顔を見たくはなかった。


 そんな数日を経て、今――。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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