十九話「砂漠の悪魔」.3
突如として出現した巨大な蛇。砂漠の悪魔。
「迎撃する! しっかり捕まっていろ!」
まともな飛び道具はない。あるとしたら、量産型アルマートゥスから引き千切ってきたアンブロス・ジェネレーター爆弾くらいだ。
ナナワが動かしたアルマートゥスについては、研究用として残しているが、そのほかの機体は状態の悪い者から順にジェネレーターを拝借してきた。
その一つを握りつぶすように力を込めて、誘爆状態へ持っていく。
マントの中でルガリにしがみつく二人を空いている手で庇いながら、投擲。
「キギャァァァァッ!」
全身が震えているのか。微細な振動を放つ体は周囲の砂を液状化し、自在に泳ぎなら接近する。ならば、砂自体が防壁となることはない。
寸分たがわず的中したアンブロス・ジェネレーターが、巨大な砂漠蛇を爆炎に包み込んだ。通常のアルマートゥスを戦闘不能に追い込む熱量。たとえ砂漠の高気温に耐えられようと、爆発の炎には――。
「耐えたな」
「効いてませんね」
「生物として焼かれろよ!」
砂漠の悪魔は、アルマートゥスより頑強だと証明された。
怒りに燃えて、砂漠の悪魔は鎌首をもたげた。まだ距離は些かあるが、勢いをつけて接近するつもりだろう。
戦うしかない。右手には剣、左手には手斧を握る。
「そんな武器で相手になるのかよ。あいつの口あんたよりでっけぇぞ!」
「外皮はいくら硬くても、内皮は生物である以上脆いはずだ。牙に攻撃される前に、あえて中に突っ込む。二人とも、今のうちにコクピットに隠れて!」
マントの下で『グラディウス・リペア』のコクピットハッチが開く。多少熱がこもっている状態だが、このまま砂漠の悪魔に生身で晒されるよりはるかに安全だ。
「でも、それではルガリ様が!」
「この体に心配はいらない。むしろ、君たちが心配で突っ込めなくなる」
そこまで言われれば、彼に逃げろとは言えない。二人は急いでコクピットの中に納まると、シートに身を預けた。コクピット内にはルガリが見ている景色が映し出され、迫りくる砂漠の悪魔の姿もはっきり見える。
『グラディウス・リペア』の黄色の双眸が細くなり、接近する相手に備えた。
「二人とも、衝撃に備えて!」
二人の返事が内側から響く。背部のユニットを後方へ向けて展開。
敵に奇襲をかけた時とは違い、直線方向への移動だ。羽を左右ともにそろえ、噴射口にアンブロス・ジェネレーターから発せられるエネルギーを貯めていく。
「牙は小さい。タイミングは、一回!」
ギザギザと並んだ牙に捉えられれば、いくらアルマートゥスの装甲といえども無事では済まないだろう。幸い砂漠の悪魔の牙は小さいから、突き立てられてもすぐに内部まで破壊することはない。
それでも、その毒が強力な溶解能力を持っていれば危険度は増す。そのリスクを鑑みてもなお、内側へ飛び込む。
砂漠の悪魔が、大口を開けて飛び込んでくる。
「ルガリ様!」
フェイジアの声と同時に、ルガリは『グラディウス・リペア』を加速させた。
砂漠の悪魔の顎の内側は、肉々しいぬめり気がある。それでも、外側の鱗より弱い。牙の間に向けて剣と斧を突き立て、両足は下顎を踏みつけた。
刃は深く突き刺さるが、砂漠の悪魔は口を閉じようとする。この程度の傷、砂漠の悪魔にとっては些事なのだろう。
「くっ……この、怪物め……」
「ギャギャッ!」
痛みなど感じていないのか。それとも痛みより獲物を喰らうことが重要なのか。
砂漠の悪魔と呼ばれた巨大な蛇は、全力で『グラディウス・リペア』を潰しにかかる。
「なんて顎だ。アルマートゥスの馬力を抑え込むほどの力が……」
「大丈夫ですか? ルガリ様、内部で何か、いろいろ鳴ってるんですけど!?」
「心配しなくていい。ただ計器がうるさいだけだ……」
「いやそれやばいんじゃないの!? アタシがアルマートゥス動かした時も、いろいろビービー鳴ってたよ!」
計器が警報音を鳴らすとは、つまり何かしらの危機が機体に降りかかっている証拠だ。関節への負荷、エネルギーの消費、理由はいくつもあるだろう。
この場合、特に後者が大きい。
外部からの攻撃が通用しないと判断した時点で内側からの攻撃を選んだ。だがそれはそれで十分リスクが大きい。せめて、顎の力と牙の届かない、より奥へ。
「出力を維持するためのエネルギーが、足りない……」
もう一度翼の加速を使えれば。
そう思いながら出力をそちらに回す余裕がない。各関節、四肢のパワーを維持するのにアンブロス・ジェネレーターの全出力を回している。
「どうすればいいんです!? 何か、私たちにできることは――」
「アンブロス・ジェネレーターの活性化は、人間じゃなきゃできないんだ……」
フェイジアの声に、ルガリは歯を食いしばるようにして耐える。
彼の言葉に、フェイジアは答えられない。自分では何もできないのだと思ってしまう。
「アタシに、動かせたんだ」
彼女の膝の上にいたナナワが、自分の手を友人に重ねる。
「アタシたちなら、きっと」
「ナナワさん……はい!」
鳥の民と犬の民、二人の重ねられた手を、触れる必要のない操縦桿に伸ばす。
本来なら冷たい感触がしそうなものだ。
けれど今は二人分――それに、もう一人分の熱も、そこにあった。
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