十九話「砂漠の悪魔」.2
二人との会話は、ルガリにとってずいぶんと人間らしいものに思えた。
お互いの知識を交換し合う、友人的関係。この姿になって、とうに失われたはずのものだ。
「でも、俺が知らない森や山について、きみたちはよく知っている。この機械の体でできることも限られているから。それぞれの役目を果たしていけばいいさ」
「はい。では今回は、ルガリ様の知識を頼らせていただきます!」
フェイジアが嬉しそうに言うので、ルガリも勝手に嬉しくなる。
「けどこんな砂漠に住んでる奴なんて、蛇とかトカゲみたいなやつばっかで、猫の民の姿は影も形もねーな」
聞こえるのは、砂漠を渡る乾いた風の音と、それに撫でられる砂の音だけ。
蛇の這いずる音一つしない。
「けれど、ミラクが言っていた。『昔住んでいた砂漠』とな。なら、彼女が幼少期、十年ほど前までは、確実にここにいたはずだ」
「この辺りは来訪者の攻撃もありませんし、比較的安定しているでしょうから。どこかオアシスを見つけたら、そこに定住も可能ですね」
砂漠の知識はある程度二人にも共有した。まず見つけるべきはオアシス。砂漠の井戸。もしくは、この砂漠を超えた先から流れてくる、川だな」
「砂漠に川なんてあるのかよ?」
「ああ。この砂漠の先に何があるかは、俺たちもよく知らないだろう。もし大きな山があったら、そこに降った雨で川ができて、どこかに流れていく。砂漠で生きる人々の多くは、こういった外来河川近くにいることも多い」
むしろ、平地で豊富な水量を持った川があれば、砂漠でも問題なく農業ができる。生前に呼んだ旅行記や冒険小説では、そんな場所が出てきた覚えがあった。
「ちょうど、アタシらのお山やその周りが、麓の水源になってるみたいなもんか」
犬の民には想像しやすいものだったらしく、納得と頷いた。
「私たちが来た方向は、砂漠の入り口ではありましたが、水源らしきものはありませんでした。となると、もっと南にいると考えたほうがいいですね」
「ああ。少し長くなりそう……ん?」
この砂漠との付き合いも長くなりそうだと覚悟をしたとき、センサーが何かを捉える。
犬の民の耳と鼻、鳥の民の目と翼が、遠くから迫りくる何かを感じ取る。
最初に捉えたのはフェイジアの目だ。砂煙を上げて迫りくる何かを見つける。
そのあと、それぞれに耳、鼻、翼が、風に乗ってくる音と匂いと勢いを感じ取る。
「なんだよあれ。ルガリ、わかるか?」
「すごく大きいです。家三つ分はあります!」
「ああ。逃げる算段を考えているところだよ」
各種センサーをフル稼働して迫りくる相手の正体を探っていた。直径は二十メートルほどの円柱状。長さは三十、五十と計測が続くたびに伸びていく。
巨大すぎる蛇。砂を食み、泳ぐように砂を巻き上げる姿はむしろミミズのようだが、その顔つきは蛇と表現したほうが正しい。
ルガリはとっさにマントを被り、両手を自由にする。
「いやデカすぎんだろ! あれが……砂漠の悪魔!」
「に、逃げましょう! ……どこに?」
フェイジアは、自分で言って自分で気づいた。その通り、ここには逃げる場所などない。相手はあくまで蛇であって、目の見えないミミズではない。動かなければ見つからないとか、岩場まで逃げれば安全とか――そんな逃げ道はなかった。
「迎撃する! しっかり捕まっていろ!」
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