十九話「砂漠の悪魔」.1
砂漠の丘を進むアルマートゥス――ルガリの『グラディウス・リペア』。
マントを日除け代わりに広げた彼は、景色の変わらない道を歩き続ける。
下手をしたら同じ場所をぐるぐる回っているのではないかと錯覚してしまうが、ルガリにその心配はない。
磁場センサーと音響センサーで周辺をマッピングしつつ、南へと進んでいた。
「この砂漠、何かあったのか? 本当になにもないけれど」
「昔は、ここも住んでいたヒトはいるそうなんです。猫の民以外にも、いくつかの種族が。でも、砂がどんどん辺りを飲み込んでいくにつれて、ほとんどが離れていってしまったそうです」
砂漠は定住するのに適しているわけではない。十分な水を供給するオアシスがあれば話は別だが、砂は作物を育てず、雨は年に数えられるくらいしか降らない。動物の中には自らの体で水を集めたり、地中から染み出すわずかな水分を吸収する機能を持ったり、進化によって適応してきた。
一方で、ヒト種の場合はそこまで便利になってはいない。
「二人とも、熱くないか? 水は足りているか?」
「問題ないですよ。私たちはかなり楽をさせてもらっていますから」
「アタシも大丈夫さ。ただ照り返しはどうにもならないねぇ」
熱紋センサーが完全に機能しないほどに、周囲は熱にまみれている。気温は五十度、地面に至っては八十度にまで熱せられている部分もあった。
靴を履かない犬の民が地面に立とうものなら、火傷してまともに歩けなくなってしまうだろう。
「砂漠には悪魔が住むって昔話、爺さんがしてくれたことあったな。聞いたことない?」
「私の集落では、聞いたことないですね」
「俺が生きていたころは、近くに砂漠はなかった」
「昔は、犬の民にも、砂漠の民がいたんだ。砂漠の悪魔に追われて離れ、山の上の集落まで辿り着き、定住するようになったそうで」
砂漠にはサボテンの一本もなく、蛇や虫の移動する音さえもしない。確かにこれなら、居住地として手放すのは当然だろう。
「砂漠の悪魔ってのはな、砂の中に普段は隠れていて、獲物が上を通ると大きな口を開けて飛び出してな。悪魔が通った後には大きな空洞ができて、そこには黄金の水が残されるんだってさ」
「砂の中に隠れた口……蛇かなにかなのか?」
「うーん、俺も見たことがあるわけじゃねーからな。でも、うちのジジィたちが言うには、めちゃくちゃでっかくて、家の二、三個分くらいあったんだって」
未知の場所には未知なりの脅威を想像する。ただ、それが妄想ではないと言う保証はない。しかも、何か最後の方はやけに具体的だ。
「そんな、巨大な生物が砂漠に住んでいるんでしょうか」
「どうだろう。もしかしたら何か別の暗示かもしれないが……黄金の水か」
ナナワの話した伝説に、一か所だけ気になることがあった。
黄金の水――という単語が気になるが、何か思い当たる節があるわけではない。
「気を付けながら進もう。もし地中から現れたりしたら、流砂が起こってもおかしくはない」
「流砂……ってどんな現象だ?」
「私もわかりません。砂漠には、一歩も踏み入れたことがないので」
それもそうだ、とルガリは納得する。かくいう彼も、本格的な砂漠に踏み込んだのは初めてだ。砂地ならば訓練やら海岸沿いの制圧などで経験はあるが、砂漠へ侵攻する機会がなかった。
入力されたデータで知っている内容を披露するのはこっぱずかしいが、囚われてからでは遅い。ついでに砂漠の生体や、水分補給の重要性など、必要そうな知識を伝授する。
「ルガリ様は物知りなんですね。私も長の話はきちんと聞いてきましたが、きっと長でも知らないことばかりですよ!」
「古代の生き残りってのは、いろんなことを知っているんだねぇ」
手を叩いて感心するフェイジアに、ルガリはさすがにきまりが悪い。
こんな会話が、楽しくてしょうがなかった。
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