十八話「砂漠の地へ」.2
砂漠の入り口、そこに立つ原住民の二人は、自分たちの住んできた世界とは違う場所の感想を述べた。
戦略的価値のなさげな、この場所に対して――。
「逆に言えば、わざわざここを守る必要もなく、そのまま呼べるんだろ? アタシらんところは、速いうちに防衛線を築いてもらわないと困るけど、ここは大丈夫そうだ」
「谷自体が大きな防壁代わりになりますし、移動できる場所も限られてくるのなら、わざわざ攻め込まれる可能性は低いですね」
犬の民の集落には、古代の工場がある。あそこは何としてでも確保しておきたい。だが、この砂漠にそれほどの価値は――。
ザクッ、と片足を踏み込んだ時、それまでの地域では感じたことのない熱風が吹き荒れた。ここに到達するまでにすでに暑さを感じ、緑が減り、むき出しの岩肌が増えたのは理解していた。だが、まるで何か境界を超えたかのような感覚に、ルガリは黄色の双眸を細めた。
「うぷっ! すごい、熱いですね……」
「……息するだけで、焼け付くようだ」
二人とも決して暑さに強い体ではない。むしろ寒冷な夜に耐えるための毛と羽毛を持つ。夏毛に生え変わる時間もない。
「二人とも、苦しかったら中に入ってくれ。電子化頭脳の冷却装置のおかげで、中は冷えているはずだから」
「ですが、ルガリ様一人では侵略行為かと勘違いされかねないので」
「アタシらも外にいるよ。でも……あつい……」
古代のアルマートゥスを構成する金属は、通常の鉄鉱石から作られる素材とは違う。現代のアルマートゥスはおおむね鋼鉄が使われている部分が多いが、古代の工場から仕入れたものは、鉄ではない軽量素材でできている。
そのため砂漠でも沈まずに歩行が可能で、表面温度もあまり高くはならない。それでもヒトよりも熱くはなってくる。
「二人とも、この下に入って。少しは暑さが和らぐだろうから」
ルガリは正体を隠すために浸かっているマントを両手で広げると、傘のように上から覆う。庇で影を作るだけでも、体感温度はずいぶんと下がる。
肩と頭の上の友人たちは、額に浮かんだ汗を拭い捨てた。
「ルガリがいてくれてよかった。こんな砂漠、三秒で帰りたくなるぜ」
「飛んでいるだけでこんがり焼けそうです」
砂を踏みしめるルガリは、人間のころの感覚を思い出す。畑や水田の、水を被って泥になった地面を歩くとき、普段より気を使って歩いた。
足の裏全体に意識を配れば、さほど沈み込まずに歩くことができる。
これは、通常の人間の乗るアルマートゥス二はできないことだった。
「フェイジアたちは、ラクダって知ってる?」
「ラクダ……? いいえ」
「砂漠にめっちゃ強ぇ戦闘民族がいたって話は聞いたことあるけど、そんな名前だった気がする」
フェイジアが聞いたことがないとなると、鳥の民の長も交流のなかった部族なのだろう。
ラクダ――人間だった時代は、家畜の一つとして砂漠にいると聞いたことがある。
アルマートゥスの内部通信では、それなりの距離を映像でつなぐことができた。
だが、一般人にそのような通信機器はほとんど普及していない。そのため、遠方のことを知ろうとすると、行商人の話や本でしか知ることができない。
かくいうルガリ自身も、ラクダというものを実際に目にしたことはなかった。
「ちょっと見てみたかったんだけどな……」
眼前に広がる砂漠は、生命の存在を拒むような赤いと、どこか黄金に見える輝きを放っていた。
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