十八話「砂漠の地へ」.1
ルガリの姿は、肩に乗ったフェイジア、頭に寝そべったナナワとともに、砂漠地方を目指す道中にあった。
ルガリは今まで通り地上を走っている。低空、短時間だが飛べるようになったとはいえ、それは跳躍した時に多少加速を加えた程度の話だ。自由飛行というにはほど遠い。
「こっちは山に比べて暖かいな。山からほとんど離れたことねぇから、砂漠って言われても地平線の端に見えるとこしか、アタシ知らないんだよね」
獣士同盟軍最初の任務は、この同盟の拡大だ。
いまだに鳥の民と犬の民、二つの種族の同盟軍は、あまりにも規模が小さい。
軍を名乗りたいのなら、最低限あと戦える現状の四倍は必要になる。それで対抗できるのは、ルガリなしでは、せいぜいアルマートゥス一個小隊が限度だが。
「砂漠と山と森じゃあ、だいぶ環境が違うからな。猫の民と会ったことは?」
「ないよ。アタシが拠点にしていた場所は、あの集落から死角にはなるけれど、さほど交流しやすい場所でもなかった。アタシが生まれたのもそこで、集落に入れたのも、あの日が初めてだし」
「他の種族と交流しているような余裕はなかったか」
鳥の民たちの下にも、猫の民が訪れたことはない。気まぐれな種族だと長は言っていたが、無計画というわけではないだろう。まして自分の敵にわざわざ突っ込んでいく真似をするはずもない。
ダニエルお抱えであった猫の民のミラクは、自分のことについては呆れ気味に語っていた。
「ウチの両親は、気まぐれな猫の民の中でも特に気まぐれでね。食料や物資を探して、ウチを連れてあっちにふらふら、こっちにふらふら。昔住んでいた砂漠を離れ、いろんな種族にお世話になったりしたなぁ」
しかし、その道中でお世話になった馬の民の集落で人間たちの襲撃に遭い、両親と死別。そのままダニエルに引き取られ、つい先日まで奴隷として鎖につながれていたのだ。
「ミラクさんも、ご自分の仲間がどこにいるかはご存じなかったので、さほど手がかりはありませんね」
「でもさ、アタシら原住民にとって、故郷の集落ってやっぱり特別だろ? 猫の民でもその感覚が同じなら、砂漠のどこかにいるとは思うぜ」
鳥の民の森から大きく南下し、複数の川と小高い丘陵地帯を抜け、断崖絶壁を飛び越えた先。犬の民の標高の高い山の上からギリギリ見える、大地の果て。
この地に対応した進化を遂げた原住民だけが生きることのできるこの地を、仲間内でさえ『冥府の入り口』などと呼ぶことさえあった。
「猫の民以外に、ここに住んでいると聞いた種族は、何があるんだ?」
「犬の民の一団がここに住んでいたって聞いたことがあったけど、今はもういないよ」
「牛の民のアマテルさん曰く、長角種の一族がいるそうですが」
この砂漠に、さほど戦略的価値はない。砂漠全体が高い壁のような崖と、地の底まで続いていそうな谷によって隔離されている。
ルガリは、自分たちを奴隷にした軍事国家は、確かこの方向から侵略してきたような――と思い出すが、今は関係ない。
ただ、この隔離された土地の向こうに、別の土地はない。
煮えたぎる海が広がっているとされ、住む者のいない、文字通り冥府への入り口なのだ。
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