十七話「凶兆の表明」.3
ルクバ、アマテル、ミラクの近くにあったアルマートゥスたちからパーツを分解していく。古代のアルマートゥスも、今のアルマートゥスも、基礎となる技術は同じだ。内部のパーツは互換性があった。
曲がった装甲を補おうにも、まともな溶鉱炉も溶断機もない。直せる部分と直せない部分があるのは仕方がない。
代わりに斬り落とした装甲の一部を使って、左腕に盾を造り縛り付けることで補った。
「本格的な整備には、やはりドッグに納める必要があるな……。これが終わったら、他にも頼みたいことがあるんだが、いいか?」
「構いませんよ。我々はあなたの側についた。命ぜられれば、谷の底にでも」
「地の底、っていう意味では間違っていないな」
「ん?」
ルガリは、三人にそれぞれの集落に向けての書簡をしたためてもらった。来訪者の支配地域では、彼らの言語教育が行われている場所が多い。
ダニエル支配下の三種族の領地では、多くの原住民たちが言語を統制されている。
そのため、原住民の言葉は忘れ去られようとしている。逆に言えば、来訪者の文字があるので、手紙を書くことは可能だ。
「俺たちの言葉だけじゃない。君たちの言葉でも、同族たちを説得してほしい」
「本当に、この大地全体をまとめるつもりなのですね」
「俺も元奴隷だ。だから、支配されない世界を手に入れるために必要なことは知っているつもりだ」
ルクバたちはルガリの言葉を聞きながらも、的確にメンテナンスを実行していく。
犬の民の整備工場での状況を見ていたフェイジアには、その技術に感服せざるを得なかった。
あの時、ルガリがどうして技術を身に着けてほしいと言ったのかを、改めて理解したからだ。
「うん。左腕の動きが正常に戻ってきた。セルフ診断でも、稼働に問題はない」
「よかった。ウチらでもまともな機材がないと、できるのはこのくらいだもの」
「まともな整備工場があるのなら、きちんとした装甲を仕入れたほうがいい。オラたちにできるのは、パーツ交換くらいだからな」
いくら彼らでも、アルマートゥスを製造することまではできない。あくまで整備・交換ができる程度。それでも、他の原住民に比べれば十分誇れる技術だった。
「それで、ルガリ様。地の底というのは?」
「俺はこの近くの山の麓で長い間眠っていた。そしてそこはアンブロス・ジェネレーターの原料となる原石の鉱山がある。そこにもしかしたら、古代の工場が存在するかもしれない」
それはあったいいな、程度の希望的観測にしか過ぎない。それでも、調査する価値はある。来訪者の様子から見ても、何か特別な施設が見つかったわけではないだろう。
それでも、探す価値はある。
「鳥の民のみんなには、すまない。山と森を開くことになる。君たちの大切なものを、傷つけることになる」
鳥の民の長、フェイジアをはじめとした集落の民は、ルガリの言葉に憤りや不満を漏らすことはない。
彼らもそのことを予想し、相談の上で事前に受け入れていた。
「それがルガリ様に必要なことであれば、我々はお手伝いするだけです。森女神の遣わせし我らの剣を鍛え直す必要があるのなら、きっと森女神もお許しになりましょう」
来訪者と戦うために何が必要なのか。それぞれが考え、同じ目標へと邁進する。
アルマートゥスの力が絶対不可欠である以上、彼らもそれを受け入れる。できることなら、それがなるべく早く終わればいい。
「では、まず各部族へ届ける書簡を造りましょう。筆や紙は来訪者の拠点にあったものが使えますから……私たちの名前はどうしましょう」
「名前って、ルガリの名前で出せばいいだろ?」
「こういう抵抗運動は、組織だった名前があると、ルガリ様から聞いたことがあります」
「え、ああ、うん。そんなこと話したっけ?」
ルガリ自身、フェイジアと何を話したかなど覚えきれていない。しかし、彼女のほうは、たとえ犬の民の集落へ向かうまでの暇つぶし程度でもルガリが話してくれたことは、全て覚えていた。
「討伐軍とか、反乱軍とか、確かに抵抗運動には何か組織名がつきものだったな」
「組織名なんて、普通にルガリ反乱軍とかでよくねぇか?」
「ダメですよ! ルガリ様を筆頭とするのはわかります。ですが、そんな適当ではやる気を疑われます」
妙にフェイジアが名前に拘る。もしかしたら、ルガリの名を呼んだ時のことが、彼女の中に大きな印象として残っているのかもしれない。
名とは、特別なものだ。
生まれたものへの最初の贈り物であり、集団ではない個を意識させるもの。
「不可能を可能にする存在を、世に広めるんです!」
「ならば、かつて犬の民が提唱した組織の名前がよいのではないかな」
答えたのは長だ。この中ではルガリという存在を除き、最も長く生きてきた人物。
「彼らが望んだもの、大地を取り戻す『獣士同盟軍』」
五十年前、初めて来訪者と接触した彼らが提唱し、ついぞ結成されぬまま終わった、幻の同盟軍。
それが、半世紀を経て、実現へ向かおうとする。
ルガリとフェイジアの視線が、ナナワに向く。彼女は少し嬉しそうに口角を吊り上げた。
「覚えてて、くれたんだな」
今ここに、数多くの悲劇を覆す力が、集まろうとしていた。
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