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十六話「獣の可能性」.2


 大規模なアルマートゥスとの戦いを、犬の民(ショロトリス)は経験したことがなかった。

 多くても五機、それ以上の敵と相対したことはなく、まして最新鋭機だらけの部隊と戦うこともなかった。これまでの勝利が、薄氷の上であったことは重々承知だ。

 だがそれ以上に、敵に恵まれていたことも、忘れてはいけなかったのだ。


「あたしら、こんなに弱かったのかね」


 ナナワの足の下には、今しがた顔面を吹き飛ばしたアルマートゥスが一機転がっており、関節の隙間に突き刺した槍を引き抜く。

 残るは一機。しかし、それに対処するための武器が尽きかけていた。


『く、くそっ! なんで、僕は……ただ、立派なアルマートゥス乗りになりたかっただけなのに……』


 残った一機から聞こえる未熟な声。精鋭部隊といえども、むろん新人もいる。エドガーが引き入れたのか、ダニエルが見つけたのか。まだ発展途上の青年が乗る機体が、臆病ゆえに残ったようだ。

 その機体に、ナナワは槍を突きつける。


「その機体を置いて逃げな。この転がっているやつと同じになりたくなけりゃあね」


 ポタリ、と血の流れる槍の切っ先。同時に放たれる猟犬の眼差しに、若いアルマートゥス乗りは恐怖を覚える。

 パシュッ! とコクピットのハッチを開くと、こけつまろびつ逃げていく。敵前逃亡で処罰されるだろうが、ナナワには関係ない。

 彼女は空いたままのコクピットに滑り込むと、その小さい体には合わない座席に座る。


「えっと、どれだ、何すりゃいいの……? ああもう! わっかんないわよ!」


 乗り込んだはいい。だが訓練もなしに動かせるほど、アルマートゥスという戦術兵器は甘くない。人間をはるかに凌駕する攻撃力、防御力を誇る機械巨人を素人が何も知らずに動かせるわけはない。

 古代に用いられた第九世代機では、脳波操作を併用した魂魄(SCS)システムを用いて、素人でも瞬時に自由自在に操縦できたと言う。


「多分、これだよね……」


 手元のレバーを掴み、前に倒す。すると、彼女の乗った『ブレット』はゆっくり前に重心がズレていく。


「やった動いた! ……動いた?」


 ナナワが疑問に思ったのも当然だ。アルマートゥスは、一歩を踏み出すことはなく、そのまま地面に吸い込まれていく。

 ただバランスが若干ズレた結果、機体が前のめりに動いただけだった。

 そのため、ナナワは空いたままのコクピットハッチから飛び込んできた土を被る。


「あうっ! ……くっ、ああ……。やっぱり、アタシら原住民(プリミティ)には、アルマートゥスは動かせない?」


 これまでも幾度か捕獲してきた。だが、その全ては原住民(プリミティ)に反応することがなかった。アルマートゥスを起動させるには、まず人間の放つ精神波が必要で、そのうえで操縦桿を使って移動・攻撃をする必要がある。

 特定の精神波を持たず、訓練も受けられない原住民(プリミティ)が、起動させることも移動させることもできるはずはなかった。


「ここで、何かできなくちゃ! アタシらついてきた意味がねぇんだろうが! 動けよ……。動けよ木偶の坊! アタシら、ほとんど助けになれてねえんだぞ!」


 座席の両脇にあるコンソールを殴りつける。だが、相手は機械だ。痛いと叫ぶこともなければ、動いてくれることもない。


「リーダー、速く出てください! 急いでルガリの旦那の応援に行かないと!」

「ぐぅぅぅ、わかってる! 使い物にならねぇな!」


 怒りに叫ぶナナワが、地面と機体の隙間から外に出ようとする。その時、急にアルマートゥスが起き上がる。同時にコクピットハッチを閉じ、ナナワは勢い余ってコクピット内を転げまわる。


 突然のことに、受け身をとることもできなかった。

少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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