十六話「獣の可能性」.1
手数を優先したハンドアックスで攻撃するルガリは、一体、また一体と撃破していくが、その間に細かい傷が増えている。防御に回る敵を突破できず、攻撃に来た相手を迎撃していく。
わずかな隙をついての反撃だが、その分『グラディウス・リペア』が追うダメージも大きい。肉を切らせて骨を断つ――とはよく言ったものだ。
『これ以上遊ばせておくのは、詰まらなくなりそうだな』
『ダニエル様! 敵は強力です。まだ我々にお任せを……』
『んな詰まんねぇことできるか! 相手は蛮族の頭とは言え、立派な戦士だ。それに応えずして、何が武人よ! それに、反抗的な奴は力で潰して躾けるのが俺のやり方だ!』
横暴でもあり粗野でもあるが、同時に武人でもあった。
残っていた五機のアルマートゥスがルガリから離れて距離をとり、円を描く。
「決闘の陣形? この時代にもそんな風習が残ってたのか?」
「ルガリ様、後ろに、あのアルマートゥスが!」
フェイジアの言葉に振り向いたとき、近づいてくるダニエル専用機を黄色の双眸に捉えた。
『やるじゃねえか、蛮族ども頭。その翼の推進機構、俺も見たことはねぇ。俺たち人間が開発中の技術じゃねぇな。発掘兵器ってのも、ただのはったりじゃなさそうだな』
「そう思うなら、軍を引け」
ダニエル機は盾と剣を携えた、騎士然とした装備だ。見た目は他と似たようなものだが、『グラディウス・リペア』の各種センサーは敵機の違いを捉えている。
今までの『ブレット』とは、明らかにスペックが違う。
『なぁ、なぜ蛮族共に手を貸す? それだけの力があれば、お前は奴らを支配できる。俺たちと協力すれば、大陸制覇だって夢じゃない。潤沢な整備、開発環境だってある』
引き抜いた剣を突きつけるダニエルは、ルガリに対しゆっくりと右回りで旋回する。
『教えてくれないか。なんで蛮族共を助ける? そいつらに傭兵を雇うような金はない。何が理由だ? そっちの趣味があるなら、俺も共感できるぞ?』
「……理由か。それならある」
『へぇ、聞かせて見ろよ。この声からして男だろう。それはデカい夢が――』
「願われたんだ。助けてほしいと。初めて、誰かの願いを聞いたから」
『はぁ?』
あまりにも意味の分からない解答であったため、ついダニエルは切っ先を下げる。
その瞬間、ルガリは加速して両手の斧を叩きつける。『うおっ!?』と声を上げたダニエル機だが、左手の盾がしっかりと受け止めた。
『おいおい、本気か? あれか。民の安寧とか、平和とか、そう言ったものに命を懸けて死ぬタイプか?』
「いや。俺は元奴隷なんだ。だから、お前たちに支配されていた彼女らを助けたいと思っただけだ」
『奴隷の人間……そんな奴はいないはずなんだがなぁ……』
「ずっと昔からいたさ」
ルガリが盾を蹴りつけて距離をとる。ダニエルは、盾をしっかり構えその裏で剣の切っ先を合わせる。言葉を交わしていても、決して油断はしていない。
『おかしな奴だ。奴隷がそんな発掘兵器を動かすだと? お前なんかを奴隷にした馬鹿がいるなんてな!』
「今も昔も、バカは多いものだ!」
シールドチャージ、ダニエルはルガリへ突っ込む。質量と幅のある硬質体は、そのままぶつかるだけで十分な攻撃力を持つ。まともに受ければ、『グラディウス・リペア』でも無事では済まない。
背面の翼を広げ、地面を滑るように移動する。
『なるほど、『凶兆の死食鷲』か。それとも『早贄のモズ』がいいか? どう呼ばれたい?』
「好きに呼べ!」
旋回するダニエルより速く移動したルガリは、その勢いのまま突撃。ダニエルの右側にぶつかり、両手の斧を振り下ろす。
「お前が俺をどう呼ぼうと、俺はお前を倒すだけだ」
『いいねぇ、その気迫! 親父とどっちが強ぇかな!?』
受け止めた剣が火花を散らす。出力に差はあれど、武器自体に差はない。スペックが向上している『ブレット』、人間が常に進歩してきた証は、古代兵器の加速力を持ってしても強固な壁となって立ちはだかる。
「ルガリ様、大丈夫ですか? あまり無理をすると、危ないのでは?」
「心配してくれてありがとう。でも、こいつは単純に強いんだ。だから今、超えなければ!」
盾と剣の攻防一体――若干防御よりだ。性格に反して慎重、堅実な戦い方をする。
少なくとも、突撃と自爆を許容されてきた機体では、訓練してこなかった相手だ。
『俺はさ、親父より強くなりたいんだよ。だから、強くしてくれよ、俺を! 鍛えたいんだよ、もっと!』
ルガリの斧を弾くとそのまま返す刃を振り下ろす。ダニエルの気迫に引っ張られるかのように、『ブレット』の動きが加速する。
手数を重視しているはずのハンドアックスよりも多くの攻撃に、今度はルガリのほうが晒される。ダニエルの声から伝わってくる気迫は、どんどん勢いを増していく。
「ルガリ様、このままでは……」
「大丈夫、君が傷つくことはないから!」
足を踏ん張り、両手を正面に。振り下ろされる刃に、ルガリは正確に刃を合わせた。
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