十五話「舞い降りる凶兆」.3
ダニエルによって仲間が吹き飛ばされる。その光景に、ナナワは忌々し気に牙をむき出しにした。
「お前ら! くそっ……」
『防御に回るな! 相手は積極的に攻めてきてんだ。こっちが引いたら敵はさらに攻めてくるぞ。守るな、攻めろ! 前に出ろ!』
ダニエルは、決してカリスマ性のある人間ではない。ヒトの気持ちを高ぶらせたり、慮ったりすることが得意ではない。
だが、戦場で何をすればいいかだけはよくわかっている。今ここで自分がどうすれば不利にならないか。自分がどこに向かえばいいかを直感的に判断できる。
ゆえに、彼は今まで生き残ってきた。
「一体強い奴がいるぞ! 動きがチゲェ!」
「足を止めたら仕留められる。噂のエドガーの息子だ!」
『その言い方、気に食わねぇな!』
ナナワの眼前に、ダニエルの機体が躍り出る。右手に握った剣を振り上げる。
『俺は俺だ、親父じゃねぇ!』
「舐めてんじゃねぇ、アタシらをな!」
ダニエル機に向けて、鳥の民たちの矢が飛んでいく。
小規模な爆発も、盾で防がなければいずれ大きな損失を生み出す。
追撃を断念したダニエルが後退し、庇うように僚機が前に出る。
『木っ端どもが……圧力を強めろ! 防御力はこっちのほうがはるかに上だ』
「距離を保ちな。あいつらの矢は怖くねぇ! 距離を保てば当たることもない!」
街道の両脇にある樹木が、戦闘の余波でへし折れていく。
それぞれのリーダーたる者たちの指示で硬直するかに思われた戦況に対し、一石を投じる者がいる。
『なんだ、奴の背面パーツが?』
『……変形したぞ! 上だぁ!』
『上ぇ?』
ナナワとダニエル、二人の視線が声の方向へ向く。
そこには、マント代わりの布を脱ぎ捨てて、背面に搭載されたパーツを広げた『グラディウス・リペア』の姿があった。
それを翼のようにして、発掘兵器は飛び上がる。
その姿は、まさしく――。
『凶鳥……なのか』
『悪魔め!』
上空から襲撃してきた敵機に、新型のアルマートゥス二機が踏み潰される。『グラディウス・リペア』は、改修された際に追加された背部ユニットで重量は増加している。だが同時に、その翼から放たれる推力によって機動性は上昇していた。
敵陣のど真ん中に降り立った瞬間、周囲を両手の剣が薙ぎ払う。踏みつけた二体、さらに斬り捨てた三体が地に倒れる。
『なんだこの出力!』
『アルマートゥスの背中に翼だと!?』
これが、彼の放つ神聖刻術。翼に刻印された文様が、電子化兵がわずかに発する魂魄の波動を受け取ってエネルギーに変換し、推進力としているのだ。
「おお! さすがだ、ルガリ様!」
「我らの鳥の王!」
「森の守護神に続け!」
モズ色の巨人によって乱された戦線を、さらに鳥の民たちの放つ矢が撹乱する。それでも敵の数は以前の応対した時の七倍。一気に五体を片づけたとは言え、まだその倍は残っている。
相手はルガリとそれ以外を分断し、各個撃破するつもりだろう。
『奴らの要はそのアルマートゥスだ。現地人どもは武器が尽きれば役立たずだ。攻撃を引き付けて無力化しろ。このアルマートゥスはか確実に潰せ!』
「強いのが、いるな……」
両手の剣を地面に突き刺し、腰に装着した斧を掴む。ハンドアックスを両手に一つずつ構え、盾を構えて向かってくる七機の『ブレット』へ走り出す。
背面の翼から放出されるエネルギーは、『グラディウス・リペア』の背中を押す風となる。一歩、二歩と大きく踏み込んだところで、出力を全開。
低空飛行で『ブレット』へ突撃、途中で体を回転させて飛び蹴りとなる。
『さっきよりさらに速い!?』
『狼狽えるな、受け止めるぞ!』
ルガリの突撃は相手の盾を曲げ、大きくへこませる。しかし、いくら『グラディウス・リペア』の出力とはいえ、敵が五機まとめて防御にまとまれば突破は叶わない。
その隙が、左右からの反撃に繋がる。
「ルガリの奴が一方的に狙われてるってのに、こっちは三機相手で手一杯かよ……」
「リーダー! 急がねえとルガリの旦那さんが!」
「わかってる!」
犬の民たちの間に焦りが募る。
加えて、相手にはまだ無傷の、指揮だけで動いていないダニエルの姿もある。
「ルガリ、フェイジア……すぐ行くからな!」
ナナワは背中の槍を引き抜く。そこには特大のアンブロス・ジェネレーター性爆弾が取り付けられていた。
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