十五話「舞い降りる凶兆」.2
二十一機のアルマートゥス部隊を見ると、ルガリは生前……そして眠りにつく前を思い出した。
確か、初めてアルマートゥスというものを見た時も、多数の巨人が村の前に現れて制圧されたのだったか。
人間の視点から見上げたアルマートゥスは、何とも絶望的な光景だったか。
「あの時とは、いろいろ違うな」
「ルガリ様も、怖いのですか? その、お声が……」
どうやら、無意識に声が震えていたらしい。声の調子の違いだけで、フェイジアにはそんなこともわかってしまうようだ。
「……もちろん。二十一機もの敵を単独で相手にするのは、初めてだからな」
単なるP45-エルガリオンであった時も、こんな絶望的な差がある戦いを経験した覚えはない。そもそも使い捨ての駒とは、数が多くいてこそ成り立つのだ。
単機だけで行う任務を任せられることはなかった。
「おいおい、単独じゃねーだろ」
「うん? ナナワ?」
いつの間にか、頭の上辺りから声がする。光学センサーでは見えないが、反応と声から、それがナナワだとわかる。
「アタシらが攪乱する。で、鳥の民の奴らにも渡した武器で攻撃する。相手を混乱させたら、あんたが切り込む。で、いいんだよね」
「対アルマートゥス戦用の武器がさほど多くはない。逃げ回りながらでも細かくダメージを与えて、俺が一撃で仕留めていく。無理だけはしないでくれ」
「全く、うちのお山は不思議なお山だったわけだね。これは」
彼らが普段使っている狩り用の矢に、仕込まれた武器がある。小型のアンブロス・ジェネレーターであり、鏃が爆弾になっているのだ。
もし頭部に当たろうものなら敵の視界は大きく削れる。足に当たれば機動力を奪いもするだろう。完全に打倒できなくても、戦闘力を奪うことはできる。
「アタシらが使ってた武器、そっちの鳥の民のお兄さんたちは使えるのかね」
「瞬発力では君たちにも負けていない。山を駆ける狩人ならば、天を渡る狩人の強さも知りえているはずだろう」
ルガリの言葉に、ナナワはゆっくり頷く。同じ狩りを生業とする者。見れば相手の強さ位わかる。
「大丈夫、俺たちは負けない」
ルガリは、囁くように告げる。
その言葉が、みんなは聞きたかった。強者によって勝利を保証される。
獣たちは――群れを成す者は、導かれてこそ戦える。
「鋼の導きが、あらんことを」
小さく呟いたフェイジアの言葉は誰にも聞こえてはいない。
今は彼女だけの、静かな祈りだった。
「ナナワ、頼んだ!」
「任されて!」
自分の声に応えた少女は、頭を蹴って飛んで行った。森の中を駆け抜けていく戦友の背中を見守る。
そう、かつて居た戦場でも、こうして多数の仲間と一緒だった。
あの時、一緒に戦っていたのもまた――自分と同じ電子化兵たちだった。
「お前たちは右から回れ、アタシらは左から行く。敵の攻撃に当たるなよ」
同じ捨て駒同士、感情抑制装置で封じられ、肉体もないこともあって交流もない。命令に従い、仲間の屍を踏み越えていくことしかできなかった。
けれど、今の仲間たちならば。
「全員散開! 死んだ奴は埋めてやんねーから覚悟しな!」
「おうっ!」
リーダーの言葉に景気よく部下たちが応える。
戦場の最前線に出ている兵士たちにとって、犬の民のような戦闘を選んだ民族を相手と戦うこともある。
そのため、犬の民を相手にしても対応する準備はできている。
だが、そこにアンブロス・ジェネレーターの爆弾を撃ち込まれるとは考えていなかった。
『これは、アンブロス・ジェネレーターの誘爆現象!?』
『任意爆発させるなんて、どうやって!?』
『隊列を乱されるな! 盾をそろえて並べれば、奴らの攻撃など通りはしない!』
ダニエルの部下たちが装備しているクロスボウは、最新型の五連射式のものだ。
しかし、犬の民の速度はクロスボウさえも置き去りにする。地上を駆け抜け、脚部関節を爆破する彼らを撃ち落とすことができない。
『ちんたらやってんじゃねーぞ、役立たずどもが!』
ならば、直接薙ぎ払えばいい。
地面を抉るように盾を振るったダニエル専用機が、数人の犬の民を薙ぎ払う。
この男は、決して弱くはなかった。
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