十四話「報復と反逆と」.3
ダニエルの部隊が接近しつつあるとき。
鳥の民の集落では、増援部隊の接近に合わせて、迎え撃つのではなく、むしろ迎撃に移ることを選んだ。
敵の数が増えれば増えるほど機動力は落ち、戦いはじり貧になっていく。
敵方は原住民たちが怯えて縮こまるしか能のない獣と思っているうちは、不意を突ける。
「捕虜のパイロットと、少し話をしたんだって?」
肩に乗っているフェイジアに、ルガリは双眸を向けながら話しかける。
ルガリが思い浮かべたのは、犬の民に会いに行く前に捕らえたアルマートゥスのパイロットだ。ジェネレーターの爆発で機体表面が焼かれたため、パイロット本人に怪我はない。
健康状態も良好で、会話も問題ない。
「はい。彼女はコーネリア少尉というようで、エドガー・フランクリンの育ててきたパイロット部隊の一人のようです」
「確か、フランクリンは各地の貴族やら、反抗勢力やらと対立しているんだったか?」
主に後者だが、そこで多大な戦火を上げている。その要因は彼が手塩にかけて育てているアルマートゥス部隊だ。兵士崩れの傭兵、人間をはるかに凌駕する力を持つ原住民たち。
彼らを打倒するための戦力として、エドガーの部隊は申し分ない。そして、それは一個人に依存するようなものではない。
「ですので――」
「人質の価値はない、ということか」
「はい」
「他の偵察兵たちに話を聞いた限りだと、エドガーという男は一部の部下を丁重に扱っているようだが、末端兵士への温情はあまりないらしい。偵察兵たちはこの仕事で覚えめでたくなるつもりだったのにと、嘆いていた」
金を稼ぐことが目的ならこの仕事を選んだのは間違いだと思うが、主に気に入られたくてこの仕事選んだのなら、自己責任だ。
「コーネリアさんは、パイロットに憧れてエドガーの下で訓練を積んできたようですが、自分の仕事と現在の状況が、あまり喜ばしくないようです。もっと誇りある仕事をしたかったのだと言っていまして」
「絶対に泣き落としの嘘……とは言わないけれど」
「はい。話半分くらいで聞いておくようにします」
さすがはフェイジアと頷くルガリは、視線を前に戻す。
「偵察兵の捕虜たちから聞き出したところだと、ダニエルっていう奴が来るらしい」
「コーネリアさんも、その名前を口にしていました。エドガーの息子で、ルーサーが負ければ次に来るのはそのダニエルという男だろうと」
「つまり、ルーサー以上に信頼のおかれているやつってことだな」
前回の襲撃時、遠目からルーサーのことは見ていた。
偵察部隊を派遣しているのも彼だろう。そのために少なからぬ被害が出た。
「倒すべき敵が、そこにいる」
「私たちにとって、初めての反抗です……」
ブルッと、フェイジアが震えた。
彼女も含め、鳥の民たちの士気はあまり高くない。
五十年間の苦渋は、彼女らの心にいまだ拭い去れない恐怖を与え続けているからだ。
「怖いなら、下がっていていいだぞ。君は、戦いに優れた戦士ではない」
地上にいる鳥の民の何名かは、屈強な体と腕力を持つ。バルチャーやファルコン――猛禽類の代表的な存在の特性を持つ者たちだ。
ただ、フクロウやモズもまた、猛禽類の一種だ。それでも、骨格や筋肉量など、戦いには向き不向きが分かれる。
それでも――。
「いいえ。私は一緒に居ます。戦いそのものには加われないと思います。けれども、一緒に居させてください。ナナワさんが戦っているように、私も、逃げたくない」
ぎゅっと拳を握りしめたフェイジアは、力強く前を見た。
「よし。じゃあ、ちょっと狭いけれど」
彼女の意志が固いことはわかった。ならば、ルガリもそれ以上反対はしない。
自分の胸部ユニットを開くと、そこには人間一人分くらいの席があった。
「ユニットを交換したからな、君が座るくらいのスペースはあるよ。ちょっと、翼が痛いかもしれないけれど」
彼女の翼は腰にある。普通の人間にはない骨格器官であるから、人間が座ることを前提とした椅子には座りづらいものかもしれない。
それでも今この戦場において、最も安全な特等席だ。
「見えてきた。さ、フェイジア」
彼女を着席させると、ルガリは『グラディウス・リペア』のハッチを閉じる。
「『グラディウス・リペア』戦闘機動に移行する」
背後に聞こえた声に、フェイジアはぎゅっと身を縮こませた。
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