十二話「結束の力」.3
「おお、フェイジア!」
「おねーちゃん! お帰り!」
ただし、まったくの無事とは言い難い。長の家には負傷者が並び、激闘の跡を示していた。フェイジアの顔は青くなり、奥から漂う血の匂いに顔をしかめた。
家に入れないルガリは窓からその様子を眺めるが、彼の黄色い双眸がわずかに細くなる。
「嘆くではない。皆、ルガリ様とお主を信じ戦ったのだ。そして、信じた通り犬の民の者たちを連れてきてくださった。ならば、これは無駄ではない」
そういう長本人の体も、服や翼で隠されているが、傷を負っていた。彼は、今までついていなかった杖を突いている。
「長、足が……」
「構わん。老い先短い男が最後に死に花を咲かせるのは、どの種族とて誇らしきことよ」
カラカラと笑う長だが、彼の頬は痩せこけている。ほんの三日四日合わなかっただけでここまでやつれるのは、その傷のせいなのだろう。
ルガリも申し訳なさに、声が詰まる。
「長……すまない。俺がもっと高度パイロットなら……」
「何をおっしゃいます。ルガリ様がどのような方であれ、人の失くした手足を生やすなど……」
「できたんだ」
「え?」
フェイジアたちの声が重なる。
「高度適正者がパイロットのアルマートゥスは、パイロットの能力を増幅させて、彼らの使う神聖刻術を最大限に発揮する」
「神聖刻術……?」
「……この時代には、もうないのか?」
ルガリの言葉に、周りは首を傾げる。どうやら、ルガリの数千年前の常識と食い違う部分はまだまだあるらしい。
神聖刻術は、その最たるものなのかもしれない。
「遥か古のアルマートゥスには特別な文様が刻まれていた。優秀なパイロットが乗れば文様の力を使い空を自在に飛び、盾を創り出せば街を覆い、剣を造れば山を断ち、矢を放てば月にまで届いた。その力を癒しに回せば、死の淵にある者さえも呼び戻したとされる」
「はぁ……古代人ってのは不思議な奴らだったんだね」
ルガリと同じく、窓から長の家を眺めていたナナワが呟く。ルガリからしてみれば、動物の特徴を持つ原住民たちのほうが、よっぽど不思議である。
「その能力がなかったから、俺は魂だけ抜き取られてここに詰まっているわけだけど」
「ないものねだりをしても仕方がないでしょう。そのような魔法がなくとも、我々は来訪者と戦って見せます」
「幸いなことに、来訪者たちも、その神聖刻術とやらは使ってきませんから」
フェイジアはそう言って拳を握る。仲間たちが多数のアルマートゥスを鹵獲できたことに自信を感じたのだろう。
鳥の民の意外な奮闘に、ナナワも満足しているのか笑みを浮かべていた。
「よーし、じゃあここの防衛に、あたしら犬の民の抵抗軍も力を貸そうじゃないか。このナナワ様が防衛の任を請け負ってやる」
「あ、君はダメ。俺と一緒に来てほしい」
「はぁっ?」
意気揚々と名乗りを上げた彼女に、ルガリが水を差す。
「詳しくはまたあとで話す。ただ、まずはここの防衛施設を造りたい。最低でも壁くらいはないとな」
「ま、確かにそうだね。ウチの若いのをここに置いてもらう以上、好きに働かせて。こいつら、自分で考えるより、誰かに従って尻尾振ってる方が好きだから」
「振る相手くらい選ばせてくださいよ、リーダー!」
犬の民の青年は、暗にナナワ以外に従う気はないと言う。だが、鳥の民たちに敵を向けることはない。
ナナワの言葉に長が頷く。足を負傷し、それでもなお彼は長としての役目を全うする。
「頼みますぞ。誇り高き牙たちよ」
「雄大なる翼の友よ、我らの力を貸そう」
犬の民たちは膝を付き右手を前に出す。それが彼らの最敬礼。心より相手に敬意を示す時、彼らは右手を差し出す。
ナナワもまた長に向けて膝を付き、右手を差し出す。その手を取った時、二つの種族の友好と結束は約束された。
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