十一話「不安を断ち切る刃」.3
絞り出すような問いかけが、フェイジアの口から漏れだした。
「……終わるんでしょうか」
フェイジアは、タブレットをぎゅっと抱きしめる。そこに宿っているのはルガリの本体ではない。それでも、彼女の細腕で抱きしめられる大きさのルガリのパーツは、今ここにはない。
「フェイジア、あまり力を籠めないでくれるか? 壊れそうだ……」
「あっ! ご、ごめんなさい……」
フェイジアがいくら少女いえども、そもそも原住民の力は人間より強い。人間用に造られたタブレットでは、薄板のように折ってしまえるだろう。
それに気づかないほど、彼女の心配は深いのだ。
鳥の民、犬の民、この後猫の民や熊の民の集落を巡るとして、この原住民たちの同盟は成立するのか。
不安を感じるのも、無理はない。
「確かに、不安要素が多い。旅がうまくいくのか。集落のみんなが無事なのか。戦いに勝てるのか。フェイジアはしっかり者だからそこら辺を考えているんだと思う」
「考えているだけで、解決する手段が、私にはないんです! ずっとルガリ様や、これからはきっと、犬の民の皆さんに頼るばかりになって……」
それが、彼女の苦しみの理由だ。自分は何もできていないかもしれないという自己嫌悪を覚えてしまう。
悔しさに、不甲斐なさに涙まで浮かべてしまうほどに。
「なら、この施設のことをもっと知ろう」
「ふぇ?」
「アルマートゥスのこと、施設の整備ハンガーのこと、俺の体を直すための知識や技術を知ってほしい。俺に何かあった時、助けられるヒトが欲しいんだ」
壊れたならば直せばいい。だが直す方法を知る者がいなければ不可能だ。すべてを基地のシステムだけに任せるのは難しい。どれだけ技術が発展しようと、ヒトの手が不要にならなかったのは、眼で見て考え、多くのことを考慮して考えられる脳が必要だからだ。
それは、ヒトにしかできない。
「今すぐになってくれとは言わない。けどこの先、本当に君たちのためのアルマートゥスを創り出す時も、俺の体が壊れた時にも、知識と技術のある人間が必要になる」
「ルガリ様……」
彼女にも、これが自分を慰めるための方便だとは理解できているだろう。
同時に、自分のためにルガリが真剣に考えて提案してくれたこともわかっている。
零れそうになった涙を拭い捨て、鳥の民らしい大きな瞳を爛々と輝かせ、彼女は笑顔を浮かべた。
「はい! なんとしても、ルガリ様の期待に応えて見せますね!」
「頼んだよ、フェイジア」
鳥の民の中で、最も強く信頼を寄せてくれる少女の笑顔が、ルガリの中に妙なコードを描き出す。
人間の肉体を奪われてから、食欲も睡眠欲もない。器官がないから、性欲も、排泄欲も持つことはない。
――ああ、そっか。
生理的欲求がなければ、安全欲求も承認欲求も、自己表現欲求もない。戦い殺すための兵器に、自己保存の追及はない。
それでも、持てる欲求はある。
集団欲――社会的欲求だけは、未だに存在した。
「俺は、君たちがいてくれるから、戦えるんだ」
道具でしかない自分を、必要としてくれる者たちがいるのなら。
「鳥の民の集落へ向かおう。仲間を連れて、フランクリンと戦うんだ!」
ハンガーのアームが激しく動く。組み上がるモズ色の機体。新品のパーツと、まだ使える頭部や胴体一部を繋ぎ合わせた機体。
『グラディウス・リペア』を起動させる。
「ナナワと話を付けにいこう」
差し出した手に乗ったフェイジアとともに、新たな機体に乗ったルガリは歩き出した。
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