十一話「不安を断ち切る刃」.2
整備ハンガーが稼働し、『グラディウス』の関節部分にアームを差し込む。首、腕、足、腰、装甲、あらゆる部分が解体され、最終的に残ったのは中央のP型電子化兵の魂魄ユニットのみ。
自分の体がバラバラにされていく光景に複雑な気分を感じながら、フェイジアとともに整備を進める。
「その机の上の、その右。もう一つ上。それを押して、細かい数値の調整は俺がする」
「はい。えっと……何か聞こえてきました……。修復開始……あ、始まったんですね」
「うん。しばらくはこのまま任せればいい」
より細かい調整をしようと思ったら、ベテランの職人たちの技術が必要になる。だが今は大雑多なメンテナンスと、部品交換で済む。
フェイジアと二人、一か所ずつ点検しながら進めていく。かなりガタが来ていた左腕は、特に最初に開始する。
関節部に負荷がかかり、軸やフレームが曲がってしまっていた。このまま使い続けるわけにもいかず、完全に部品を交換せざるを得ないだろう。
「る、ルガリ様がバラバラに! バラバラになっちゃって……痛くないんですか!?」
「うん。むしろ関節の過負荷に対する対処演算が結構重荷だったから、なくなったらすっきりしてるくらい。腰痛と頭痛と腹痛がいっぺんになくなった感じ」
タブレットから聞こえるにこやかな声に、フェイジアは困惑の色を隠せない。
中身が空っぽの鎧ならまだしも、フレームやコードが詰まった、そして自らの意志で生きているかのように動く『グラディウス』が解体されていくのは、まるでルガリ本人がバラバラにされているかのように見えるのだろう。
「この施設には『グラディウス』の予備パーツがまだあるみたいだ。劣化してさえいなければそのまま流用できる。最低限、魂魄ユニットを積み替えさえできれば、何とかなる。機体同調率は若干低下するとしても、モニタースペックだけ良好な機体よりはいい」
「……あの、ルガリ様、何言っているかわかりません」
「あ、ごめん」
機械文明と縁遠い原住民たちに、ルガリの感覚で話すことは理解できない。ただフェイジアにも、ルガリがこれから元気になるのだろうということは、彼の弾んだ口調で理解できた。
「ルガリ様、変なこと言うようですが……」
「何?」
じっと机の上――操作コンソールを見つめるフェイジアが、ゆっくりと答えた。
「すごいんですね、人間たちの作った技術というのは」
「急にどうしたんだ?」
「こんな山の中に大きな施設があり、理屈はわかりませんが、ルガリ様の体を直してくれる。私たち原住民では決して実現できなかったものです」
原住民たちと、ルガリが扱う言語はなぜか同じだ。そしてこの基地で流れた自動音声を、彼女は聞き取ることができた。
技術が伝承されていないのに、言語だけは継承されている。
明らかに、どこかで文明が途絶え、ルガリのような人間の代わりに、フェイジアたちのような原住民が誕生した。
「人間たちがアルマートゥスを動かせるのは、たまたまそういう適性があったからだ。彼らには犬の民のように速くは走れないし、鳥の民のように目はよくない。偶然、アルマートゥスを手に入れられて、動かせただけだ」
「でも、その結果、私たちは支配されています」
長い支配は、鳥の民たちに支配されることの当たり前さを植え付けた。ある意味、ルガリに庇護されている今も、支配されて当然という考えが奥底にある。
フェイジアの中からも、その考えは消えていないのだろう。
「今、フェイジアはこの施設を動かしている。この場所から技術を学べば、いつか原住民だけのアルマートゥスだって創れるかもしれないさ」
「私たちが、私たちだけのアルマートゥスを……」
軍事力を持つことは、支配者からの独立に繋がる。敵対者が圧倒的すぎるため、そんなこと夢にも思ってこなかった。
まして、自分たちには動かせないものを、新たに創り出そうなどと考えもしなかっただろう。
「この施設を造ったのは、俺を支配し、縛り付けていた奴らだ。そいつらはもう滅んだ。支配に立ちはだかった弱者たちが、強者を打ち破ったんだ。もちろん、そいつらはクラトーリア連合帝国なんて名前でもない。人間がずっと支配を続けるなんてことないんだ」
形あるものがいつかは壊れるなら、支配するものもいつかは倒れる。
端末にアクセスした結果、ルガリの支配者は各地の反乱、レジスタンスの勃興から、首都の孤立。そして支配者層の打倒が決め手となり滅び去った。
「……終わるんでしょうか」
絞り出すような声で、フェイジアはその疑問を呟いた。
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