十話「山の奥へ」.3
集落に到着したルガリは、歓待する犬の民の相手をナナワに任せて、フェイジアとともに坑道へ進む。彼女の持つランプと、『グラディウス』の額から放つライトが内部を照らした。
「ナナワさんの許可を待たずに突入してよろしかったんでしょうか」
「怒られたら謝ろう。とにかく、今は時間がない」
坑道は、それこそ十五メートルあるアルマートゥスが問題なく立って歩けるほどの大きさを有している。これ犬の民に掘らせたものには思えなかった。
側面に組まれた足場は、わざわざ中央をアルマートゥスが通れるように考えて造られた構造であることがわかる。
「すごいですね。私たちの村の坑道はあくまで私たちが通れる大きさの穴しかなかったのですが、ここは大きくて広い、快適です」
「山の中にこれだけ巨大な穴を作っているのに崩落しないのは驚きだよ。もしくは埋っていた穴を、掘り進めただけなのか」
その答えは、坑道の最奥に辿り着いたときに見えてきた。
それまでの土がむき出しの通路にはなかった、鈍色の文明の跡。
「これは、扉でしょうか」
「扉だろうね」
そこにあったのは、二十メートルほどになる巨大な扉だった。
尤も、ドアノブや取っ手があるわけではなく、幾何学模様の描かれた壁が聳え立つ。
異様な存在感を放つそれは、わずかな丸みを帯びていた。
「これが、人間たちがこの集落に固執する理由なんですね」
「ああ。動けばいいんだが。神聖刻術がまだ機能していれば……」
ルガリは扉に近づいて膝を付くと、人間の視線ほどの高さの場所に手を置いた。
壁が開き、そこに小さなコネクタが現れる。『グラディウス』の指の付け根をそこに合わせれば、接触通信で機能にアクセス可能だった。
『機体照合、P45-エルガリオン、整備基地へのアクセス許可を求める』
ルガリだけ知っている。この人工物は、かつての時代に設置された秘匿整備基地の一つだ。基地や整備場は、アルマートゥスを用いた戦争においては重要な拠点だ。
使えば消耗し、破損するアルマートゥスを、より長く使い続けるために整備は欠かせない。そもそも、人型機動兵器など歩くだけでの負荷が溜まっていくのだ。メンテナンスフリーになる第九世代が、どれだけ革新的だったか。
『整備基地の情報所得。第二十二アルマートゥス整備基地へのアクセス認可。P45-エルガリオンへの追加任務は確認できず』
P型電子化兵としての機械の部分が、基地との交信を続けていく。受け渡される情報は、タイムスタンプが数千年前の情報と化していることを示していた。
そのことで、確信できることがあった。
「やはり俺は、何千年も前に、ここで魂だけの存在になったんだな」
生まれた時から機械の体だったわけではない。人間の都合で肉体を失い、新しい無機物の体に納められた。そして戦うことを強要され、自らの心は閉ざされるはずだった。
それがどういうわけか自由意志を維持し、助けを求める者のためにその拳を振るっていた。
『整備工場へのアクセスを認可。所定の手順に従い、整備を開始せよ』
「よし。行ける。フェイジア、少し下がって」
「はい」
立ち上がったルガリは、遠隔操作で扉のロックを解除した。空気の抜ける音ともに開かれる巨大な扉は、何千年も前に放置されたにも関わらず、スムーズな動きを見せる。
第九世代と同じように、この基地自体もメンテナンスフリーに改造された部分があるのだろう。
「行こう、フェイジア」
かつて失われた技術の塊の中へ、ルガリとフェイジアは足を踏み入れた。
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