十話「山の奥へ」.1
犬の民の集落を奪還しに来た報復部隊。その先遣偵察機と交戦に入ったルガリは、予想以上の苦戦を強いられていた。
『なんだよこいつ、速いだけじゃない。腕力も、尋常じゃねぇ……』
『頭下げろ! クロスボウ撃つぞ!』
メインカメラを半分砕かれた機体が、クロスボウを盾の裏から構えてきた。
アルマートゥス『ブレット』は、胸部から首元にかけてコクピットがある。そのため、頭部から認識できる情報との複合式視界モニターで構成されている。
たとえ頭部を完全に破壊したとしても、座席を上昇させることで顔を覗かせたパイロットが、自分の目で狙いを定めることができる。
尤も、そんな弱点丸出しの状態で戦おうなどと思う者はいないだろうが。
『喰らえ!』
空気を切り裂いて飛んでくる鉄矢を、機体を沈み込ませるように滑らせて回避する。戻ってくる勢いを利用したショルダータックル。『ブレット』の機動力ではできない、加えてP型電子化兵の魂魄式操縦方式――通称SCSだからこそ成せる、繊細かつ俊敏な動きだった。
マントをパージ、一瞬敵の頭部がそちらに引き寄せられた瞬間、滑り込んだ体勢から盾を蹴りつけ、手前の機体を大きく揺さぶる。
打撃は機体重量と加速力が物を言う。『グラディウス』は『ブレット』より五メートルほど大きく、その分質量も大きい。ただの蹴りでも、盾を揺るがすには十分だ。
「砕けろ……ッ!」
左腕に構えた格闘用装甲帯で『ブレット』の顎を殴りつける。
むろん、人間のように顎を殴ったから脳震盪が起きるわけではない。起きるのは、内部のパイロットへの衝撃伝達だ。
『ブレット』は確かに量産性に優れたいい機体だ。だが、量産機というのは得てしてローコスト。高レベルなショックアブソーバーなど搭載しているわけもなく、衝撃吸収性特殊合金など使われていないことは、これまでの戦いで重々承知だ。
『な……こん、機動性……有人では、あり、な……』
中のパイロットが、衝撃に耐えられない。
世界一優秀な機体を作った結果、唯一の欠陥パーツはパイロットだった――などというジョークを開発者はよくする。
P型電子化兵というのは、そもそもその最大懸念点を払拭するために、当初は企図されたという。
いつしかそれはアルマートゥス適性のない者の強制徴兵のための道具になり下がったが、機体制御システムの発展に大いに貢献したのは事実だ。
「卑怯な手みたいで悪いな。こっちはもう、揺れる脳も、吐く内臓もないんだ」
ゆえに、どのような機体制御も、機体さえ無事ならやってのける。
スライディングと同時に上空へ投げていた左の剣が落ちてくる。セスタスを解除した手でそれを受け止めると、真向から振り下ろし、手前の機体を両断した。
アンブロス・ジェネレーターは誘爆しない。機体を押しのけて、右手の剣を、奥の機体へと突き出した。
「クロスボウに止められたか……」
『こんな、偵察任務で、蛮族にやられてたまるか!』
クロスボウを持っていた『ブレット』は、壊れたそれを『グラディウス』に向けて投げつけた。
むろん、そんなもの痛くもない。ただ突撃を数秒遅らせ、その間に背中から二本のトマホークを取り出す時間を作る。
「やる……!」
『死ぬか、死んでたまる!』
左右の剣を、左右のトマホークが受け止める。火花が散り、二機の動きが静止する。
今まで圧倒的な機動性を見せてきた『グラディウス』が、ここに来て停止したのだ。
「稼働限界が……」
全体はまだ停止していない。だが、早急に敵に対処する必要が、敵の刃とともに征マりくる。
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