九話「鳥犬の同盟」.2
「なら、一緒に行こう」
立ち上がった『グラディウス』の左肩にフェイジアが乗る。さらにナナワを頭部へと乗せると、その視線を集落の入り口。占領されていた前門へと向けた。
「しっかり捕まってくれ。全速力で行く」
『背部スラスター機能正常。音響センサー反応五体確認、赤外線センサー正常、敵機体をロック。脚部出力84%に到達、ジェネレーター活性化率63%、機動力維持限界まで、913秒』
「慣らし運転は、とうに終わってる――!」
初起動のころに比べて、かなり機能は正常さを取り戻してきた。だが、これもいつガタが来るかわからない。ならば、今のうちにできることはできるだけやらねばならない。
せめて対アルマートゥス用の兵装と、それを十全に使うための新品のジェネレーターを搭載したいのだが、鹵獲機体から奪ったものでは規格が合わないうえ、出力はむしろ下がる。
「爆弾に使えるなら、それだけで十分だ!」
引き千切ったジェネレーター五つを、さらに引き千切った内部コードで造った紐に括りつけて運ぶ。山の尾根に登り、近づいてくる敵機を見やる。
前門の左右に立つ山は、ほぼ垂直に等しく、場所によっては反対側に突き出た屋根のようにもなっていた。そのため、上から見る分には前門全体を見渡せるが、下からではほとんどわからない。
さてどうしようか。そう考えていた時、上空を旋回してきたフェイジアから、やはり後続の部隊が控えていることが伝わってきた。
「報復部隊の先遣偵察か。山を崩して道を埋めてしまえば早いんだが……」
「ダメに決まってんだろ! お山を崩したら取り戻した意味がねぇだろ!」
ナナワの言葉に、フェイジアがその通りですと同意する。彼女らにとって山や森は先祖の魂が眠る場所であり、自分たちの命が生まれ出でた源泉。母のようなものだ。
ルガリにも生前似たような信仰の身を置いていたのものあり、理解はできる。尤も、魂だけになった今は、そう言った信仰心というものはどこかに消えてしまったが。
「ま、まぁでも、お山を穢す奴らを倒すためなら、きっと許してくれるよ。うん」
しかし、信仰心とは拡大解釈が許されるものだ。ナナワ自身、故郷への執着や、お山への信仰はあれど、生きるために自ら戦ってきた彼女にとって、真に大切なのはいつか起きる奇跡ではなく、目の前の実利だった。
その答えに、フェイジアは少しだけ肩をすくめた。
「それじゃあ、遠慮なく――」
「多少は遠慮してくれ!?」
ルガリは腰に提げたジェネレーターの一つを掴み、指に力を入れる。負荷のかかったアンブロス・ジェネレーターに火が灯り、指先から流し込まれる外部エネルギーで飽和状態になる。
ひび割れが広がり、熱が急激に上昇する。
「伏せていろ!」
ルガリの合図とともに肩と頭の上の少女たちは顔を伏せ、投擲されたものから放たれる衝撃に備える。
――爆発。鋭い衝撃が岩肌を破壊し、崩れた岩石がゴロゴロと山肌を転がり始める。大きな振動とともに跳ねた岩石は、何度か転がる方向を変えながらも、来訪者たちのアルマートゥスへと突っ込んだ。
『崩落だ! 離れろ!』
『だめだ、後ろが塞がれてる。前に行け!』
『お、押すな! こっちに一つ転がっ――』
集音センサーに、恐怖の声が集まった。我ながらひどいことをしたものだと、元人間として小さな”恐怖心”を覚える。
後悔や慙愧の念はない。ただ、自分が支配者に対してこれほどまでに果敢に立ち向かえる心情を得ていることが、どこか恐ろしく思えたのだ。
その気になれば、大量虐殺だって起こしてしまいそうだった。
「落ち着け。優先目標を忘れるな。敵の殲滅じゃない。敵を退け、手出しをさせない」
――なら敵を殲滅したほうが早い。
ジジッと、胸部に違和感を覚える。黄色の双眸が明滅し、山肌を掴んでいた腕の力が緩む。
「くっ……出力が……演算回路の蓄積負荷が、限界値か?」
もともとメンテナンスなしで動き続けるには限界があった。内部機能の度重なるリセットと再接続を行うことで騙し騙し機能させてきた。ようやく起動時間も十五分を超えてきたと言っても、それは今まで以上に機体全体に負荷を強いることになる。
「まだだ。まだ持ってくれ……」
視界のざらつきを無視して、ルガリは敵を見据える。
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