九話「鳥犬の同盟」.1
犬の民の山を支配しているのは、鳥の民の森を支配していたフランクリン夫妻とは別の貴族だ。
同じ海の彼方からやってきた彼らだが、フランクリン夫妻とは所属する帝国は同じでも、家が違う。そのため、同じ目的・方法であっても、彼ら自身が対立している。
植民地支配とは、総じて覇者の都合に振り回される。徴収された戦力は、時に同じ原住民同士で争う道具にさえなった。
「報復部隊だと? なんでこんなに早く!」
「警戒していたのは君たちだけではなかったということだ。ゲリラ戦を繰り返せば、相手の即応力を高めることになるさ」
「くっ……宴は中止だ。すぐに迎え撃ってやる! もともとここはアタシらの祖先の土地なんだ。みすみすまた奪われてたまるかってんだ!」
傍らの斧を手に取ったナナワは、すぐに屋根から飛び降りようとする。その前に、ルガリは手を差し出した。
「待ってくれ。君たちにとってここは故郷でも、君が訪れたのは初めてだろう」
「そ、それが何だってんだ! 故郷には代わりねぇ」
「初めて訪れた、ようやく奪還できた土地なんだろう。長い訓練と実戦を重ねて、俺が来たことで相手をできるギリギリの数のアルマートゥスしか残っていない状況だった。だから襲撃した。違うか?」
ルガリは正確にナナワたちの戦力を分析していた。敵の攻撃は一撃必殺。対して彼女らはちまちまとしたかく乱と、弱点への攻撃しか意味をなさない状況だ。十数体ものアルマートゥスが駐在するこの集落に攻撃を仕掛けようなどと、よほどの愚か者でなければ行わない。
そして、報復部隊の戦力は――。
「敵の数は少なくとも五機。後続の部隊もいる可能性が高い。君たちが束になってかかっても、同士討ちでもさせて数を半分にしない限り、勝ち目はない」
「そんな、こと……」
ナナワの声が尻すぼみになる。彼女も自覚はあるのだろう。自分たちでは、この集落の確保は維持できない。
「突発的な勝利を手に入れて嬉しいのはわかる。なら、継続させるために力を貸す」
「ルガリ様……」
「鳥の民たちも同じなんだ。五十年ぶりに手に入れた平和を、自分たちの子や孫に継がせたいんだ」
山と森の民。生まれた場所は違えども、望むべきものは同じ。
「一緒に戦おう。ナナワ」
ナナワを抑えていた掌を上に向け、その足元に置く。
乗れと示す手に、ナナワの視線が向く。
信じるべきか、疑うべきか。目の前で膝を付く相手は敵か味方か。
悩む彼女は、自らの右目を覆う火傷に、手を置いた。
「山の中に潜んでいたアタシの家族は、生きたまま焼かれた。生き残ったのはアタシと生まれたばかりの弟だけ。あの子は、母さんたちの顔も知らずに育ってきた……」
ナナワの灰色の髪の中にある耳が、怒りに震える。彼女がいくつかはわからないが、背丈はフェイジアより低い。もしかしたら、彼女よりもさらに年下かもしれない。
「あの子に、故郷だけは、取り戻させてあげたいんだ……!」
フェイジアたちは故郷を支配され、五十年間耐えてきた。
ナナワたちは故郷を奪われ、取り戻す日を夢見てきた。
「なら、一緒に行こう」
少女の願いに、巨人が手を差し出したのだった。
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