八話「逆賊の足並み」.1
山岳部に住むという犬の民の集落は、つい先ほどまで人間たち――大陸の向こうから来た来訪者によって支配されていた。
だが、一機のアルマートゥスと、同時期に襲撃してきた原住民たちによって、それは解放された。
「どうして犬の民がここに? 彼らはバラバラだったのでは?」
「早めに山を登ってきた甲斐があったな。こちらの姿を見て、勢いづいてくれたらしい」
「ルガリ様を利用して、ここを奪還しに来たと?」
「つまり、恩を売れたってことだ」
アルマートゥスの足音は消えていない。爆発音も一つしかしなかった。
まだ犬の民たちは闘っているのだろう。
「フェイジアは離れているんだ。上から全体を見て、何かあれば知らせてくれ」
「わかりました。犬の民は特に気性が荒いと聞きます。お気をつけて」
飛び立ったフェイジアを見送ってから、ルガリは後門側へと走る。
現行機型アルマートゥスは、その戦力差は人間と一対百。だが、原住民たちの運動能力ならば、それを十分の一にまで縮めることができる。
たとえ現行機と言え、血に飢えた獣たちを止めることはできない。
「すごいな。あれは」
素直に、ルガリはそう感心した。
巨大なアルマートゥス三機を、十数人の犬の民が囲み、攻撃を誘う者、それに合わせて逆側から反撃する者がいる。見事な連携で翻弄し、関節部に攻撃を加えていく。
体勢が崩れたところで、装甲の隙間を狙い内部機構へ槍を突き刺した。木の持ち手、鋼の矛先――機械の塊という最先端兵器であるはずのアルマートゥスとは、対称的な原始的な武器が破壊する。
「民族性の違いか。鳥の民の皆じゃあできないことだな」
むろん、鳥の民にも気性の荒い者や、力持ちの者もいるが、あそこまで積極的な攻勢に出られる者は早々いない。
犬の民の姿もまた多様だ。頭部まで犬の形をしていたり、耳だけであったり、鳥の民と同じく個性がある。
踵の位置が高く、獣そのものの足を持つ者も、人間と同じ踵の低い者も、どちらも人間をはるかに凌駕する速度を誇っていた。
「……手伝ったほうがいいな」
ルガリは倒したアルマートゥスの足を両手でしっかり握る。その状態でアンブロス・ジェネレーターを活性化。残りの稼働時間を圧迫しながら出力を高めた。
走り出し、敵のアルマートゥスで地面を削っていく。
『くそ、この土着ども、調子に乗って……』
『奴らの攻撃は装甲を貫けるわけじゃない! 落ちついて対処すれば、奴らの攻撃は効かん!』
それが、原住民たちにとって最も大きな問題だ。関節部、装甲の隙間、わずかな攻撃可能部分は、どうしても限られる。
そこを攻め続けるのは、決して簡単なことではない。
『奴は放っておけ……倒された者を庇う余裕はない……』
『ちょこまかと、堂々と戦いやがれ!』
「けっ……そんなでけぇ巨人の乗ってるくせに、テメェらのほうが卑怯じゃねぇのかよ」
「言ってやんな。人間なんて、巨人に乗ってなきゃ首なんて簡単に噛み千切れちまうんだからよ。ハンデよハンデ」
犬の民たちは三体から二体へと数を減らした敵に対し、包囲網を狭める。動けなくなったアルマートゥスには彼らも興味を失くし、残った動ける獲物に意識を注ぐ。
「一気に仕留めるぞ。囮役はヘマすんなよ!」
同族を率いるのは、灰色の体毛をした女犬の民だ。背丈はさほど高くない。だが好戦的な笑みを浮かべ、周りの者たちを率いる姿は、狩りの群れを率いるリーダーにふさわしい。
両手に持った斧を擦り合わせ、背中合わせに警戒するアルマートゥスを挑発していた。
「リーダーこそ、無茶すんなよ!」
「そうだ。まだ婿も孫いねぇんだ。ここで死んじまったら親不孝もんだぞ!」
「うっせぇな! こんな傷物欲しがる奴なんかいねぇだろうが。集中してろ!」
リーダーと呼ばれた彼女の顔には、右目を覆うほどの火傷の跡がある。灰色の髪で半分ほど隠れているが、これまでの激闘を伺わせた。
頭頂耳の片方には切り傷を持ち、むき出しの鍛えられた腹筋にも真一文字の傷がある。
彼女自身、自らを囮にして攻撃を誘い、味方の動きを援護していた。
「よし、今だ! 決めろ!」
『させるか獣ども!』
犬の民の快進撃を阻むように、人間もまた反撃する。
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