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東西故郷物語 ~Memories of Hometown  作者: ミサゴ
第5章 小さなヒーロー
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第041話 - 佐久市国境騒動


西側の状況が変わったのは、年始から本当に間もない1月16日の事だった。

姫端が壁の検問所から逃げ去った後、まるで予め準備されていたように新たな警備隊が本部から手あたり次第回ってきていた。



―日没も終わった17時50分。

旧長野県上田市の上田の関所から南方方面にすこし行ったところ。

ここにかつて佐久市と呼ばれた場所が存在する。

個々の場所には立ち入り禁止区域にも関わらず紛争当初から多くの市民達が生まれ故郷から離れるのを拒んでこの地に居座り続けていた。

紛争当初には負傷した旧自衛隊員や反政府軍達の救助・支援を行ってきたこの自治体の一般市民に、国境警備隊の者々もあまりに強く立ち退きを命じることは出来なかった。



そんな市街のはずれの丘の町から、ひとつの小さな紙飛行機が壁の麓に居る国境警備の物に飛ばされた。

独りの警備兵はその紙飛行機を地面に落とし、踏みつぶしたらすぐさま先ほどと同じような姿勢に戻った。

警備兵も、ここまでなら「良くある悪戯」だと思って気にも留めなかった。

彼も恐らく家族の事等を想っていたのかもしれない。



壁には100mおきに警備兵が静岡沼津~新潟上越まで配置されているが、たった紙飛行機1つだけではその警備兵以外に反応を示す者は居なかった。


『せーのっ…‼』



丘の町の壁側の森から、数名の掛け声が聞こえる。



『…せっ!』

合図の掛け声の後、森の中を数百名の子供たちの人影を警備兵が確認した。




―と、今度は数十…数百…数千…?



数え切れないほど多数の紙飛行機が、暗闇の中スポットライトに照らされて飛行した。

壁は今度は壁の向こうの西側へと向けて飛ばされた。

壁を超える飛行機はほんの一握りだけだったが、それでも紙飛行機は「越境」に成功したのだ。



警備兵は直ぐに本部に通報を入れた。



「緊急通報、緊急通報。こちら長野5ブロック佐久穂町349番。無数の紙飛行機が―」

彼はとても冷静に、いつもやってくる亡命者の通報と同じように本部へと通達した。



「―どうした、疲れているんじゃないか?寝言は寝て言え。」

本部はまるで彼を信じなかった。今までに壁への投石などは多数あったが、紙飛行機の襲来など前例が無かったからである。




結局通報は口だけで、残りの警備兵5名ほどで壁の向こうへ行かなかった紙飛行機たちを懐中電灯で照らし、見つけては拾った。


1人の警備兵は、紙飛行機片手にこう言った。



「―先輩、これ…」

「おう、どうした。」

「紙飛行機、捨てる前に開いてみて下さい。何か書かれてます…」



 <父さんへ、ぼくは元気です。ママが心配しています 長野県軽井沢 藤原しゅんと―>

 <お兄ちゃんにあいたい。みんなでまってます。 山なし県大月市 しのはら文の―>

 <香住、元気にしてますか。また一緒に東京に行こうな。 茨城県笠間市 後藤月彦―>

 <晩御飯、いつでも待ってます。優斗へ。 群馬県前橋市 尾ノ上幸子―>


 <―私は無事です。早く父母共に無事に再会出来ることをを願います 神奈川県横浜市 一ノ瀬葵>



―それらの紙飛行機には、各個人の在住地と名前と共に西側に取り残されたままの家族や、愛する者へのメッセージが短く収められていた。


結果的に、この騒動が本部へ通達されることは無かったし、公にニュースになったり新聞に載るなんてことも無かった。



…勿論、「首謀者」の名が上がることも…

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