第040話 - 20時、京都駅。
京都駅、新幹線ホーム。
過去に、ここは5分間隔で東京から大阪経由で博多方面へと向かう、日本を列島を縦断する様々な列車の休息地点として、多くの旅客に使われた。
行先案内板に表示される列車は、全て静岡発着。
方面案内に書かれて在った「東京方面」の表記は完全に消されている。これは家を発つ前に陽三に教えてもらった。
昼夜問わず大混雑な表情を見せていたホームは、いつしか昼でも多少の列が出来るだけで、ここまで夜が進むとホーム上には駅員と国民票確認の警備員しかいなかった。
かつて数分単位で走っていた列車も、今は20分に1本来るかどうかという非常に侘しいものと成り果てていた。
それでも、待ってれば列車はホームに滑り込んでくる。
静かに、静かに。
「―それじゃあ、玲子も陽三もお元気でね。」
「…サヤ…。」
「…なに?」
「これ、陽三と作ったの。これが有ればサヤは大丈夫。」
そう渡されたのは、菊のお花を象ったお守りだった。
「陽三もホントはサヤが出てくの嫌やったみたいで、作るの拒んでたんよ。」
「陽三は?」
「…あっちの待合室で拗ねてる。」
玲子さんはちょっとだけ笑いながらホームの真ん中にぽつりと在る待合室を指さした。
「―ちょっと陽三に挨拶してくる、待ってて!」
私はその待合室めがけて走った。
「ちょっと!サヤ!新幹線乗り過ごすよ!」
「…直ぐ終わるから!」
待合室は陽三の小さな身一つしか姿は無くて、ガラス張りなのも災いして無人のホームに溶け込んでいた。
急いでドアを開けた。
驚かしてしまったのでは、と思ったが、陽三はずっと下を俯いていた。
「―陽三。」
「…早く行かんと、電車出ていくで。」
「…うん、だけどね、陽三とも少しお話したくって。」
「話すことなんてないやろ。変な気遣いしなくていい。」
「…ごめんね、玲子にも陽三にもいつも心配かけてばっかりで…。」
「謝らなくっていい。」
「…でもね、私は―」
≪―12番線から、こだま 690号 浜松行き が、発車いたします。自由席は…≫
乗る列車の出発時間がやってきてしまった。
陽三に「さようなら」とは言わなかった。
旅が終わったらまた会えるんだ、そんなネガティブに考えなくてもいい。
焦りを隠せない玲子さんがこっちに向かって手を振ってきた。
「ごめんね、陽三…もう行かなきゃ。」
ほんの数十秒しかいなかったけど、陽三とお話が出来ただけでもう十分だった。
「急いで!サヤ!」
玲子さんの大きな声がほぼ無人のホームに響く。
急いで荷物とお守りを玲子さんから返してもらって、ドアへと駆け込む。
ベルが鳴り終わるまであと数秒という絶妙な所だった。
ドアが空気の抜ける音とチャイムと共に閉まる。
列車はまるで時間に追われているかのように、直ぐ動き出した。
「博多に行く時の事、思い出すね。」
そう手を振りながら走って窓の向こうの私をみる玲子さんに、独り言としてこぼれた。
玲子さんの足は速かった。
ふと、さっきの待合室の目の前を通り過ぎてゆく。
…あれ?
陽三の姿はそこには無く、またもや無人となっていた。
ホームの末端に差し掛かろうとしたとき、1人の少年がまたこちらを向いて走ってくる。
走り疲れたのか、玲子さんは途中で見えなくなった。
その彼が、陽三だった。
「サヤのバカああああぁ!!」
扉越しに聞こえたその巨大な声は、確かに陽三の声だった。
私が最後に大きく手を振ると、彼も振り返した。
駅の末端を過ぎる。
窓の向こうに映るのはまた京都の事の姿と都市としてのふたつの顔だった。




