14 再会
ファントム・レディ号は、ローランド卿との約束の日のおよそひと月前に港に到着した。よく晴れた日の昼だった。街中の視線が集まった。あの海賊が遂に女王陛下に服従するらしい、と好奇心の的になる。まともに生きている人間もそうでない人間も、こぞってシアーズを見に来た。
シアーズは唇を噛んでその群衆を見ていた。頭がおかしくなりそうだ。ここにいる人間は全員きっと狂っている。まだ海軍にいた頃、海賊を捕えて帰港した時を思い出す。その時もこうして人々は集まっていた。絞首刑になる海賊を、まるで見世物のように見に来るのだ。何も変わっていない。
そんなことを考えている最中にも、人々の罪の無い視線は容赦なく突き刺さった。ただ好奇の目を向けるだけ。もし自分があちら側にいれば、全く同じことをしただろう。なにしろ人々はただ気になるから見に来ているだけなのだ。他に理由などない。そんな純粋さが、これほどまでに痛いものだとは。
港には、ローランド卿が武装させた部下と共に待ち受けていた。日の光の眩しさに、目を細めている。空がいやに青い。
「よく来たな。大切なものを見捨てて逃げ出すほど臆病にはなっていないようだな。安心した」
見下した言い方だ。シアーズは答えずに、睨みつけた。だが、ローランド卿は臆する様子もなく笑った。そしてシアーズに向かって言った。
「武装を解除しろ。帯剣も認めない。船はこちらで管理する。ついて来い」
聞き慣れたはずの声だ。海軍にいた時はこの声に命令されることは喜びだったし、誇りだった。この声を聞けば安心した。だが、もう今は全てが違う。
シアーズが乗組員に命令して兵に銃や剣を渡すのを見ると、ローランド卿は馬に乗って、部下に合図をだして馬を進めた。どうやら自分の邸宅に行くらしい。シアーズはしぶしぶ、それに従った。
邸宅に着くと、ファントム・レディ号の乗組員達は全員、地下牢へ入れられた。日が暮れてから、シアーズだけがローランド卿の部屋に通された。兵に両脇を固められ、薄暗い廊下を歩く。もう何年もここには来ていない。しばらく見ないうちにずいぶんこの邸宅もさびれたものだ。エドモンド・ローランド卿がいた頃は壁には絵画がいくつかかかっていたし、骨董品もあった。今はそれがどこにもない。使用人も減った。ところどころに蜘蛛が巣を張っていた。本だけは増えているようだ。質素というよりは貧しいという印象を受けた。しかし、稼ぎがないわけでもない。シアーズは首を捻った。
通された部屋はランプが一つ照らしているだけだった。ローランド卿がランプを掲げて本を読んでいる。そのせいで、余計に彼に目をひかれた。
兵が部屋の外に出て、扉を閉めた。この部屋には今は二人しかいない。
「何の真似だ」
シアーズがきつい口調で尋ねる。ローランド卿は本を置いてシアーズの方へ向き直った。
「何の真似かなんて愚問だ。私は女王陛下のご命令に従っているだけだ。軍人としてな。お前はあちこちに行っているから知らないだろうが、最近は本当に、魔物も海賊も被害がすごいんだ」
「シルヴィアはどこだ、あいつは何も関係ないだろう!」
ローランド卿がシアーズの目をまっすぐ見た。
「名前があったのか。今まで化け物と呼んでいて、悪いことをしたな」
彼は興味深そうにした。
「彼女なら別の地下牢にいる。なぜそんなにあいつを欲しがるんだ。利益など何もない。むしろ信心深いお前達なら、敬遠するような生き物じゃないか」
ローランド卿がシアーズの近くまで来た。今まで見上げてばかりいたローランド卿を、いつの間にかシアーズが追い越していた。頭ひとつほど身長に差ができてしまった。
「なぜ俺を公賊にしようとする?海賊は捕えられれば、古今東西、問答無用で絞首刑だ。何が目的だ」
ローランド卿は、ふっと息を吐いた。シアーズから目を逸らす。
「お前は海賊としては非常に手のつけられない奴だが、船乗りとして、戦士としては一流といっても過言ではない。殺すのは惜しいんだ。それに、もともと部下だった者を海賊として殺すのは忍びない。公賊になれ。もう一度私の下で動け。いつだったか、幼い頃に約束しただろう。再び、共にこの国の繁栄の礎になろうではないか」
どこまで本音でどこから嘘なのか分からない。もう、この声は信じられなくなってしまった。シアーズは黙ったままだ。ローランド卿がちらりと彼を見た。
「さっきの質問に答えろ。なぜ魔物など欲しがるんだ。別に守ってくれるわけでもあるまい」
最後の一言を言う時、眉間にしわを寄せ、ローランド卿は目を閉じた。




