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イヴの隣人  作者: 坂本りょう
【一章】鉄の心臓と電子の脳
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新天地にて

 2月は忙しくなった。


 合格通知の数日後にGOTの社員さんが現われ、お母さんを入れて三者面談が行われた。


 どうやら、新入生はかなりの内部機密に触れることになるらしく、それを口外しないことを契約する必要があるらしい。その代わりに入学日や寮の費用の一部が安くなる等々、いくつかの書類にサインさせられた。


 世界的IT企業への入社が半分決まったようなもので、お父さんは大喜びだ。寮にはその日から入れるらしく、私は大急ぎで準備を整え、3日後には島根県へ出発することになった。早く土地に慣れておいた方が良い、とお父さんが判断した結果だ。


 中学の卒業式には一時的に戻ることになる。少し面倒だったけど、お母さんと離れた生活は魅力的だし、お父さんの判断に従った。


「こんにちは、今日からお世話になります。よろしくお願いします」


 荷物は全て引っ越し業者さんにお願いして、私は体一つで新幹線に乗り込み、島根県へ。駅から直通のバスが出ていたから移動は楽だった。


 流石は世界のGOT、新品の学生寮はまるでホテルのようだった。入口の自動ドアを開けるとすぐラウンジがあり、示し合わせたかのように女性が現われて丁寧に対応してくれた。


 歳は20代半ばくらい?

 寮母というよりはホテリエのような趣がある上品な人だ。


「ご予定通りのご到着ありがとうございます。長旅おつかれさまでした。お部屋は303号室です。入学式までの期間はこちらのカードキーをご利用ください。お荷物は既に運び込まれております。他、詳細な規則はお部屋の端末にパンフレットをご用意しておりますので、ご一読をお願い致します」


「どうも……」


 機械的なほどキッチリとしたお辞儀に見送られ、エレベーターへ。3階の指定された部屋の前に立ち、ドアノブにカードキーをタッチする。ピっと緑のランプが光った。どうやら開錠したらしい。


 中に入り手狭な玄関スペースを抜けると、これから3年間過ごすことになるプライベート空間を把握できた。


 左側に二段ベッドが1つ、右側には大きなクローゼット、正面の部屋奥には大きな窓と学習机が2つ。机の上にはそれぞれノートパソコンが置かれている。


 窓に近寄って外を見ると、大きな公園と街並みが望める。座っていただけとはいえ、長旅で疲れている。着替えたいけどカーテンがないな……と思っていると、机の上のリモコンに気付いた。タッチパネル式で、これだけでも高そうだ。


 適当に触ってみると、窓が一瞬で曇りガラスに変わる。親指で操作して他のアイコンを試してみると、窓は壁紙と同化して光を遮ったり、ディスプレイに変わってネットの動画配信サービスが映ったり、テレビが映ったりした。ちょうど討論番組がやっていて、家族代行サービスを議論する専門家たちの声がどこかにあるスピーカーから聞こえてくる。


 驚きつつ、開きはしないのかと色々イジってみる。斜めになって少しだけ隙間を作り、外の空気を入れることはできるようだけど、完全には開かないようだった。落下防止用の安全設計なのだろう。


「すご……」


 感心で疲れを忘れたので、窓にニュースを映し、机に座ってノートパソコンを起動してみる。GOTのロゴが表示され、OSが起動するとすぐにウェルカムアプリが起動した。


 寮の利用規約を読み込み、施設紹介や付近の地図を確認する。本校舎はここから徒歩5分。寮から直通の専用歩道が引かれている。通学は楽そうだ。


 逆側には大きな緑地公園。少し離れたところにスーパー等の商業施設があり、飲食店もあるようだ。寮の食堂は4月から稼働が始まるらしい。それまでは自炊か外食か……部屋に入ってすぐのところに簡単な電気コンロと流しがあったし、インスタント食品くらいは作れるだろう。


 そういえばと思い立って玄関スペースに戻り、極小のキッチンの反対側にあった扉を開いてみる。トイレと浴槽が一体になったユニットバス……トイレはまぁいいけど、それと同じ空間にあるお風呂はちょっと抵抗あるな……使ってもシャワーだけかな。寮には大浴場があるからそっちを使うことになるだろうけど、それも4月からだ。こんなに早く来るおのぼりさんは想定外なのだろう。


「さてと、どうしようかな……」


 部屋に戻ってリモコンを操作し、窓を再び窓に戻す。


 今日の天気は晴れのち曇り。

 時刻はお昼前だ。お腹も減ってきた。


 荷物の整理も急ぐ必要ないし、着替えたら散歩に出かけてみようとなんとなく思った。私はじっとしているより少し体を動かしている方がリラックスできる。それだけの理由だ。



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