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イヴの隣人  作者: 坂本りょう
【一章】鉄の心臓と電子の脳
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2/26

奇妙な入試テスト

 翌月。

 2020年の2月3日。私が推薦入試に臨む日がやって来た。


 新設される高校は島根県だから遠出の覚悟もしていたのだけれど、推薦入試は私の学校からネットを介してタブレット端末で行われた。


 流石は世界最大のIT企業、安心4分の1、拍子抜け4分の1、驚きと感心が残り半分、みたいな心持ちで当日を迎えた。


 通い慣れた中学校の空き教室に入り、座り慣れた机に着いた。


 世間からも注目を浴びている高校で、私の学校からも他に十人程度推薦入試を受ける。入試の内容は誰にも明かされてなくて、私を除く十数名が不安な面持ちを浮かべていた。


 私自身とくれば、瑠衣曰く鉄の心臓が絶好調だ。


 推薦入試は学力テストではなく、それぞれの高校が特色を出した内容を出題する。明かされないということは、事前準備が要らないということで、つまりは自然体で挑めばいい。前日も滑り止め用の問題集を解いてから、いつものように席に座っていた。


 午後1時ちょうど、事前にインストールしていたアプリが起動し、推薦入試が始まった。担当の先生が「始め」を宣言し、私を含む十数人の生徒がタブレットを覗き込む。


 その瞬間、全員が首を傾げた。

 なんだろ、コレ?



【諸注意】

 このテストに制限時間はありません。全ての質問に回答してから退室してください。

 なお、テストの内容には一部、企業秘密が含まれているため、口外は禁止とします。


【1】以下の質問に回答してください。


 船Tは100個のパーツで形成されており、1年ごとに10個のパーツを新品のパーツに交換します。10年後、全てのパーツを交換した船T´は、元の船Tと同じ船と呼べるでしょうか?


 以下のA~Cを選択した後、選択した理由を回答してください。


 A・船Tと船T´は同じ船である。

 B・船Tと船T´は全く別の船である。

 C・それ以外の回答。

 D・回答しない。


 首を傾げたまま問題文を読み返し、首を反対側に傾げる。


 正しい答えが無い。船Tと船T´は同じ船であるとも、別の船であるとも言える。


 まるで……というか、まるっきり心理テストだ。画面上にはスキップするボタンも表示されていて、いつでも戻れるようなので、スキップしてみる。



【2】以下の質問に回答してください。


 あなたは共犯者Aと共に犯罪を行い、逮捕され取り調べを受けています。

 そこに検事が現われ、次のような取引をもちかけました。


 検事「本来なら2人とも懲役5年の刑罰となる。しかし、2人とも黙秘した場合、2人とも懲役2年にすることができる。ただし、片方だけが自白した場合、自白した一方はその場で釈放され、黙秘したもう一方は懲役10年となる。また、2人とも自白した場合、2人とも懲役5年となる」


 このとき、あなたは黙秘しますか? 自白しますか?


 以下のA~Cを選択した後、選択した理由を回答してください。なおあなたと共犯者Aは別室に隔離されており、相談することはできない状況に置かれているものとします。


A・黙秘する。

B・自白する。

C・それ以外の回答。

D・回答しない。


 スキップする。


 三問目も同じように正しい正解がない心理テストだった。


 画面の下部には(3/100)という表記がある。そして、このテストには制限時間がない。時間をかけていいから、こんな答えのない質問に100回も答えろというテストだ。


 どういうテストなのか分からない……分からないけど、まぁ、数式を解くより楽か。

 戻るボタンを押して最初の質問に戻る。


 船Tと船T´は同じ船かどうか。私の回答はB、全く別の船である、だ。


 何か一つでも残ってるなら別だろうだけど、構成する物質が全て別物ならそれは別物でいいと思う。タブレットに繋がったキーボードを叩き、選択欄の下にある空欄にそんなような理由を書き込む。


 続いて、問2に取り掛かった。これは自白だな……減刑されるかは問題ではなく、倫理と正義の問題だ。罪を償えるチャンスがあるのなら償った方が良い。共犯者Aにもそれを期待しよう。


 二人仲良く自白して懲役5年になるならそれはそれで良し。共犯者Aが黙秘し悪の道へ行くのなら、私はその場で自由を得ることができる。


 そんな調子で回答を続け、気付けば3時間で100問の回答を終えていた。


 生真面目に全ての回答を打ち込んでいたのは私だけだったのか、最後の一人だった。担当の先生も疲れた様子で、私が席を立つと、ようやく解放されるとばかりに笑みを浮かべ、背中を伸ばした。


「お疲れさまです。なんか、変なテストでしたね」

「金持ちの考えることは分からん」


 私は首を傾げながら家に帰り、お父さんには「企業秘密が含まれているため、口外禁止だそうです」と事実を告げ、その後に「一応、最善は尽くしました」と付け足した。まあ、全ての質問に律儀に答えたのだから、最善ではあっただろう。


 そんな私の誠意が通じたのかどうかは知らないけど、翌週、私に合格通知が届いた。

 どうやら、私の学校で合格したのは、私だけだったらしい。



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