↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イヴの隣人  作者: 坂本りょう
【一章】鉄の心臓と電子の脳
PR
11/26

ひとつまみの秘密

 その日を境に、アキちゃんは寮に遊びに来なくなった。


 入学式に向けての準備が忙しくなるからって、部屋のノートパソコンにメッセージが届いていた。


 それでも数日おきにビデオ通話が掛かって来て、ディスプレイ越しにお喋りすることは続いていたけど、盗聴されているかもしれないと思うと、自然に私の口数が減ってしまった。


 アキちゃんは心配そうに「どうしたの?」なんて訊いてくれるけど、「あなたの会社、盗聴してる?」なんて訊き返せるはずもない。


 アキちゃんと会わなくなった代わりに、宮古島さんとよく話すようになった。必ず外出した先でお茶をしながら。スマホを借りて例のSNSをじっくり読み込ませて貰ったりもした。


 書き込まれているのは嘘か本当か分からない噂話と考察ばかり。


 アキちゃんの見た目が可愛いことに触れる書き込みもあって、それはそうだと思う。私と比べてどっちが好みか、なんて脱線した会話の流れもあった。


 ある日、いつものようにSNSを眺めながら話していると、不意に宮古島さんから頼まれごとをされた。


「お願いしたいことがあります。今後、部屋でアキさんと話すことがあれば、璃々さんの秘密をひとつ打ち明けてみてもらえませんか? 嘘でも構いません。それがネットに流れるかどうか確認してみたいんです」


「秘密か……難しいな。宮古島さん自身にお願いすることってできる?」

「構いませんが、私も彼女と話せるんでしょうか?」


「多分、今日の夕方ビデオ通話する約束してるから、私の部屋に来てもらえば」

「では、お邪魔します」


 その日の夕方、打ち合わせ通り私の部屋に来ると、宮古島さんは何かの装置を取り出して、部屋の中をあちこち探り回った。


 盗聴器発見機らしい。

 コンセントとかノートパソコン本体とか色々と調べてみたけど、反応することは無かった。


「やっぱり、盗聴なんて噂話じゃない? 宮古島さんの部屋は調べたの?」

「ええ。反応はありませんでした。それでもGOTなら、こんな玩具に引っ掛かる盗聴器は使わないでしょう。一応、最大限の努力をしているだけです」


 宮古島さんが機械をしまったところで、アキちゃんからビデオ通話がかかってきた。


 席に着いて、最初からノートパソコンにインストールされていたSNSアプリを起動する。宮古島さんの話によれば、GOTフロンティアの生徒専用のアプリらしい。


「こんばんは、アキちゃん。今日はね、ゲストがいるんだよ?」

「こんばんは! ひょっとして、ランちゃんって人?」

「おや、もう私の話が耳に入っていましたか」


 宮古島さんがひょっこりと画角に入ってくる。

 そういえば、下の名前は蘭《らん》だったったけ。


「うん、リリちゃんと仲良くしてる子がいるって聞いてる。やったねリリちゃん! お友達2号だよ!」

「うん……えっと、そうだね?」


「入学までに100号までできるといいねぇ!」

「そんなには出来ないかな……入学者は70人くらいって聞いてるし」


 そもそも私は友達を沢山作るタイプじゃない。

 宮古島さんとも友達と言う感じではないし……なんだろう、少しモヤモヤする。


「良ければ、今日は私ともお話していただけませんか? アキさんのことをニュースで知って以来、ずっと楽しみにしていたんです」

「うん、いいよ! 話そー!」


 宮古島さんがさらっと嘘を吐いたことに気付く。


 アキちゃんのことは3月の中旬に公式発表がされ、ニュースにも大きく取り上げられた。

 宮古島さんはそれ以前からアキちゃんのことを知っていたはずだ。


 アキちゃんはその時の会見にも参加していて、流暢に話す様子が全国放送されている。その後数日は、親戚の叔父さんや瑠衣から電話が掛かって来て忙しかった。内容はどれも同じだ。


「あれって本当にAIなの?」


 私は秘密保持契約を盾に、何も話せないと答えることを選んだ。


「えー、蘭ちゃんって静岡から来たの? 富士山のトコじゃん! どれくらい大きいの?」

「そうですね、標高は3776メートル、直径は44キロメートル。数字で語ってもピンとこないものですが、県外から来られた方はみんな想像以上に大きいと驚かれますね。春夏秋冬、いつ眺めても綺麗ですよ。可能ならご招待したいほどです」

「うん! 今は色んな制約があって市外には出られないけど、いつか行けたらいいね!」


 話が弾んで来たようなので、席を宮古島さんに譲る。楽しげに話す宮古島さんとアキちゃんを見ていると、どうしてだか、胸の中のモヤモヤが強まる感じがした。


「そうですね、アキさんはGOTの最新技術の塊ですから、色々と制約があると思います。ご不便はしていませんか?」

「しまくりだよー、最近はリリちゃんとも会えなくなったし。でも、入学式までのガマン」


「楽しみですね。色々とやってみたいことも沢山あると思います。気になっていたんですが、GOTフロンティアは共学ですよね? 恋愛するご予定はあるのですか?」

「えー、どうかな? ちょっとヒミツ♪ ランちゃんはあるの?」


「私はしばらくそういうのは避けようと思っています。地元の恋人と別れたばかりですし、そうですね……よほど理想的な同級生に出会えれば、考えるでしょうか」


「え、宮古島さん、彼氏居たの?」


「はい、中学2年から一年間付き合いました。私が島根県に行くというので別れましたが」

「そうなんだ……宮古島さん綺麗だから、そうだよね……どんな人?」


「誠実な人ですよ。それだけに遠距離恋愛は厳しかったようです。璃々さんは、男性とのお付き合いはあるんですか?」

「リリちゃんはゼロだよ? お父さんが厳しかったんだって」

「そうだけど、他の人の口から言われるのはなんだかな……」


 その後、1時間ほど恋バナを続けて、アキちゃんが次の予定があると言ってビデオ通話は終わった。


 宮古島さんは短く息を吐いて肩を落とす。

 緊張していたというか、集中していた様子だ。


「お疲れさま? そういえば、どこがウソ……」

「しっ」


 言いかけたところで、宮古島さんの人差し指が私の唇を塞ぐ。


「ありがとうございました。またこういう機会があったら、私も参加していいですか?」

「うん、いい、けど……」


 胸の中のモヤモヤが、また一層濃くなった気がした。


 翌日、宮古島さんとカフェに行ってから恋人に着いて訊くと、それが嘘だったらしい。その情報はネットに流れていないようだった。


◇


 3月中旬になると、ぞろぞろと寮に入る子が増えて来た。


 受付の女性もパタパタと走り回るようになって忙しそうだ。それまで貸し切り状態だった共用キッチンも時間制になって、そこでの出会いも増えて来た。


 アキちゃんを除く第一期生72人。

 その内男子が30人で、女子寮には42人が入ることになる。


 寮には3学年分の部屋が用意されているけど、2人1部屋の割り当ては守られるらしく、半分以上が稼働しないことになる。


 今更気付いたことだけど、私たちには先輩となる人達が存在しない。来年以降に後輩が入って来るだけだ。


 高校生としてかなり特殊な環境なのは今更だけど、縦社会を学べないのは将来ちょっと困りそうだな……ああ、でも、入学した時点で就職先は決まっているようなものなのか。


 私と同じ考えに至った子が多いようで、ほとんどの子がGOTの直属校に入学できたことを手放しで喜んでいた。


 大学までエスカレーター式だし、GOTや関連企業への就職は決まったようなもの、他の企業もGOTとの繋がりは欲しがるだろうからどこへでも就職できるだろう。将来は安泰だ。


 中には成績優秀な男子生徒を捕まえて、結婚を狙うという子までいるようだった。高校なんて通り過ぎるだけだと思ってたけど、どうにもそうじゃないらしい。


 色々なことが決まり始めているのをなんとなく察する。宮古島さんのように入学以前から色々な情報を集めて、GOTの計画を訝しんでいる子は少数派のようだった。


 寮に人が増える度、アキちゃんと通話する機会も減って、4月に入ると完全になくなってしまった。1日には食堂が解放されて自炊する必要はなくなり、2日には予約していた制服が支給された。


 白を基調しにしてボタンや刺繍に金の差し色が上品なデザインだ。女子はワンピース、ブレザー、パンツスタイルの3種類から自由に選べて、私はワンピースタイプを選んだ。理由は特にない。強いて言えば、着替えが楽なことくらいだろうか。


 制服に袖を通してクローゼットの扉に備え付けられた姿見の前に立つと、いよいよ始まるのだという自覚が湧いてくる。


 2人部屋に1人、背後を振り返ると2段ベッドがあって、上段は未使用のまま残っている。


 私のルームメイトは、まだ姿を見せていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。