第4話 - 事情聴取② アルクレイ・ロー
部屋にはクロウとアルクレイ・ローのほかに、ツバキ・ヤエがいた。部屋の窓際、二人の間あたりに座る彼女はさながら裁判長のようであった。
クロウが他のメンバーとちゃんと話せるか心配だから、とツバキの提案で参加することになったのだが、実は単に彼女が探偵業に興味を持っただけのことであった。
ローは大股を開いて威嚇するように部屋の奥に座る。本来その位置はクロウの席のはずだったが、クロウも悪戯に彼を刺激したくはなかったのでドア付近に座ることに甘んじた。
「えっと……では事情聴取を始めます」
「んなことよりよ」
石でも投げつけるかのようなぶっきらぼうな声でローは答える。彼の拒絶するような言葉にクロウの心臓は大きく跳ねた。
「俺はまずこの状況自体が気に入ってねえ。なんで身内同士で疑い合わなきゃいけねえんだよ」
「ロー!」
ツバキが吠える。彼女の姿勢に臆することなくローはナイフを手遊びに振り回しながら言い返した。
「そもそもよ、別にパーティメンバーが死ぬことなんて良くあることじゃねえか。レオが一回死んだぐらいでなんでここまで問題視すんだよ」
ツバキが椅子から立ち上がり答える。
「この作戦前だからです。魔王主義者がいるかもしれない状態でこの作戦を進めることのリスクの大きさは、ローだって分かっているでしょう」
「けどよぉ……この状況こそがその魔王主義者って奴の狙ってる状況かもしれねぇだろ」
「だったら一刻も早い解決するため協力してください。別に私達が全員犯人でないと証明できればいいだけのことです」
「チッ……わーったよ」
ローが椅子に肘をついて足を組む。クロウは改めてローのことを観察する。簡素な装いではあるが、そこには無駄のない機能美を感じられた。擦れた革の帯、使い込まれた手袋――それらはただの古い装備というわけでなく、彼が歩んできた苦労そのものを物語っていた。
クロウは目の前の戦士がただの粗野なだけの男ではないことを悟り、大きく息を吸い込んだ。
「で、では……まずは軽い自己紹介からお願いします」
「……アルクレイ・ロー。職業はレンジャーでレベルは72。毒と暗器、それと格闘術を主力にする斥候役だ。パーティから離れて単独で先行することだってある」
「クラックドヤード攻略戦のときも一人で敵の数と位置を把握したんですよ」
「まぁ、そんな感じだ。集団戦での役割は全体を俯瞰してそれらを良い感じにすることだ。敵の裏を掻いたり弱点を見つけたり、場合によって大声を出して敵を引き付けたりな」
彼の口調は軽いものではあったが、その言葉からは確かな戦士としての貫禄をクロウに感じさせていた。ツバキも得意気にそれに続く。
「集団戦もローだけはリーダーの指示を無視して単独行動することを許されてるんです」
「でもそれってめっちゃ難しくないですか……?戦場に立ちながら参謀のような
立ち回りをしてるってことですよね」
「ま、まぁな」
ローはひくひくと鼻を鳴らした。
「凄いです!ラスター・ホークってどうしてもツバキさんの事ばっかり噂になるんですけど、そういう活躍もローさんの援護の賜物なんですね」
「ええ。私が安心して剣を振るえるのもローがバックアップしてくれるという信頼あってのことですから」
「おぉーーーー」
「レンジャーが指示待ちしてちゃあ三流だからな」
クロウは素直な気持ちで拍手をし、得意げになったローも大股でふんぞり返る。ツバキは二人の様子をみて安心して椅子に座った。
「んでクロウつったか?事情聴取って何を話せばいいんだ?なんでも聞けよ」
ローが身を乗り出す。
「えっと、とりあえず前日の行動を一旦洗いざらい……なんですが、ひとまず午前から午後まではツバキさんと同じくラスティアイル攻略の会議をしてたんですよね?」
「いや、俺は参加してねえ。あくまで俺は現場の状況を見て動くのが役目だから、余分な情報は入れないようにしてるんだ」
「おぉ……!プロっぽい!!」
「だろぉ?」
単に寝坊していただけでしょう、とツバキは思ったがそれは心の中に伏せておいた。
「それじゃ何をされていたんですか?」
「午前は自主訓練をして、昼飯を食った後はレンジャーギルドに顔を出してたな。ギルドのやつに聞けば裏はとれるはずだ。そっからは日課の周囲の偵察、それとラスティアイルの状況確認だな」
「ふむふむ……ちなみにレオさんが死んでいるのを最初に発見したのはローさんですよね?」
「あぁ。夜の10時頃、俺とレオの部屋に戻った。そん時は鍵が閉まってたからまだ帰ってねえのかと思って中に入ったんだが、そしたらベッドにレオのソウルが浮いてたもんで。慌ててマオを探しに行ったわ」
「どうしてマオさんを?」
「死んだ直後だったらマオの蘇生魔法が間に合うからな。それで部屋を飛び出してマオを探しに行ったんだが見つからず、仕方ねえからそん時は部屋で寝たよ」
「し、死体と一緒に寝たんですか?」
「勇者じゃ良くあることだからな」
クロウはその言葉を聞いてクラックドヤードに来る前にリィエンから受けた忠告を思い出した。――勇者には深く関わり過ぎない方がいい。彼らは命を個数で数えるから。彼女の言葉の意味をクロウは初めて肌で実感していた。そもそもの倫理観が違うのだ。
「というか、それじゃあローのアリバイを証明する人はいないじゃないですか。レンジャーギルド以降は誰とも会ってないんですよね?」
ツバキの言葉にバツの悪そうな表情で答える。
「――そういう訳だ、わりぃ」
「いえいえ、こんな事態になると予想できるわけないですから」
クロウのフォローに慰められたせいか、ローの顔に笑みがこぼれる。先ほどのぶっきらぼうな言い方ではなく、気のいい兄貴分のような声色で彼はツバキに話しかけた。
「な?クロウもそう言ってるわけだし、許してくれよ」
「……別に怒ってはいませんよ。ただ作戦会議に寝坊しなかったらこうはなってないと言いたかっただけですから」
「怒ってんじゃねえか……」
「まぁまぁ、状況は分かりましたからこれで聴取はお開きにしましょう。ローさん、ありがとうございました」
「おうよ。また困ったらなんでも聞きな。クロウならいつでも大歓迎だ」
チョロすぎだろとツバキは思ったが、それも彼女の心のうちに秘めておくことにした。
●クロウの手帳④
事件当日の行動:アルクレイ・ロー
職業 :レンジャーLv.72
当日の行動
■ 朝
自主トレ(寝てた?)
■ 昼~夕方
レンジャーギルドに顔を出す(裏を取ること)
クラックドヤードの周囲の警戒
ラスティアイルの観察
【壮行会】
参加していない。
■ 夜
10時頃、レオンハート氏の死体発見
→ 【扉には鍵がかけられていた】
マオさんを探すも見つからず、そのまま寝る。
→ マオさんはどこにいたのか?




