第3話 - 事情聴取① ツバキ・ヤエ
「えーと、まずは自己紹介をお願いします」
「ツバキ・ヤエだ。職業はソードマスターでレベルは81。パーティでは主に前衛での攻防を担当している。あとはー……すまない、こういうのに慣れていなくてな」
そういうとツバキは自分の刀の柄に手を置いた。ピンク色の――正確には淡紅藤というのが正しいのだが――半着と深い紫色の袴がトレードマークになっている彼女はクロウの住むヴィーノの街でも話題になり、四天王撃破時は一時期トレンドにもなったほどだ。
「いえいえー、ツバキさんは有名人ですから大丈夫ですよ。唯一のLv.80到達者で四天王の魔剣士ディドロスを単独で撃破した人類の希望だなんて話、街の酒場に行けばいくらでも聞けますよ」
「それはそれで恥ずかしいんだがなぁ……」
ツバキは照れくさそうに頬を掻いた。
ラスター・ホークといえば彼らこそ真の勇者だと言われるほどの実力者集団である。実際にクラックドヤード解放戦においても彼らの活躍は群を抜いて優れていた。
クロウは当然彼らは清廉潔白で人格もさながら何事にも優れた超人集団だと勝手に思い込んでおり、その人類の希望が普通の女性らしい仕草をすることにクロウは言い表しがたい違和感を覚えていた。
「一応、戦闘能力についても軽くお聞かせ願えますか」
「構わんが、理由を聞いてもいいか?」
「レオンハートさんにどれだけ有効な攻撃が通るのかは把握しておきたいので」
「なるほど、承知した」
ツバキは唇に握りこぶしをあてて考える動作をする。ここまで素直にあなたも疑っていますと言っているのにも関わらず、嫌な顔一つしない彼女のことをクロウは素直に敬意をもって見ていた。
彼女はエスターライヒより更に東、いわゆる極東の島国の出身で、その国の剣術を独自に発展させた戦闘スタイルをとる。それゆえツヴァイハンダーを基礎とするソードマスターの加護の恩恵は一部しか受けられないが、それをもってしても余りある戦闘力というのがこの国での評価だ。
クロウもなんとなくそのことはリィエン伝いに聞いてはいたが、実際に彼女の口からその強さについて聞けるということに高揚を隠しきれなかった。
「えっと、ソードマスターの加護の中で大きいのは、Lv.70の剣神の加護だな。原理はよく分からんが一回の剣撃で二回分の斬撃がでるようになる。3本以上の腕をもつ魔物相手でも手数で押しつぶせるのが強みだな」
「ふむふむ。他にはありますか?それこそ……固い防御を崩すようなものとか」
「うーん……お眼鏡にかなうものかは分からんが、Lv.80の加護がそうかもしれん。剣攻撃が弱点に当たった場合に確殺するという効果だ。回復や復活の余地を残さないようなイメージだな」
「めっちゃ強いじゃないですか!それならレオンハートさんにも届くんじゃないんですか?」
「いや、それがな……」
「何か問題があるんですか?」
「レオのパラディンのLv.70の加護は『攻撃を受ける際に衝撃をレベル相当に変換し、そこから自身のレベルを引いた分のダメージを受ける』というものなんだ。だから私が攻撃したところでLv.3相当の威力に減衰してしまう。彼に気づかれずに一発で殺すというのは現実的ではないな」
「確かにそれは難しそうですね」
クロウは少しだけ安堵した。容疑者をひいきしてはいけないというのは分かりつつも、クロウは彼女のような人間が犯人だと信じたくなかった。
「では昨日の行動について教えてください」
「わかった。昨日はまず朝から次の作戦に向けての……えっと、ラスティアイルの攻略の準備を始めて――」
「はい」
クロウはメモを続ける。
なお、ラスティアイルとは四天王の支配する城の一つがある小島であり、クラックドヤードから目と鼻の先程度の距離に位置する。幸いクラックドヤードは聖域魔法の効果で魔王からは認知されておらず、それを利用して勇者師団で奇襲を仕掛けるのが今回の作戦である。
当然ラスター・ホークは四天王撃破の核されており、一個師団というのも実質的には彼らを魔王まで届けるための囮やかく乱が主目的のものであった。
「それが夕方、18時ごろに終わって、そこから壮行会でここの向かいの酒場に皆で酒を飲みにいったんだ。それからは……あっ」
「なんですか?」
ツバキの顔に明らかな狼狽の色が浮かぶ。視線が左右に揺らぎ、言葉を選べなくて口をぱくぱくさせている。
クロウはそんな彼女の様子に疑問を持ち身を乗り出す。
「どうしたんですか?何か話しづらいことでも?」
「あ、いやー、そのー、話しづらいわけではないんだが……君を失望させてしまうかもしれないかなーと」
「失望?」
クロウの頭に真っ先に浮かんだのは懇意にしている男と過ごしていたなどということだったが、その疑問はすぐに払拭されることになった。
「その、パーティメンバーのマオと飲み比べをしていてな、それで負けて朝まで酒場で酔い潰れていたんだ……」
「は、はぃ?」
「面目ない……」
ツバキは顔を真っ赤にしながら俯いた。しかし仕事は仕事だ。クロウは彼女の動向を自分の手帳に書き記していく。
クロウのペンが紙の上を走る音が静かな部屋の中に響く。彼は自分が悪いことをしているような気分になった。しかしだからと言って途中でやめてリィエンに怒られるのも避けたい。それに、探偵を目指す身としてこれ以上の贔屓はご法度というものだ。
「ということは、酒場に行けばツバキさんのアリバイの裏はとれるということですね?」
「ああ。作戦会議の時はレオも一緒にいたし、私が犯行に及ぶには途中で酒場を抜け出さないといけなくなるからな」
「承知しました。ちなみにレオンハートさんは壮行会にも参加していたのですか?」
「参加したと思うが……すまん、正直記憶がない……」
「了解です。では事情聴取はこれにて以上です、ありがとうございました」
「こちらこそ感謝する。よろしく頼むぞ、クロウ少年」
「はい!」
彼女の言葉に勇気づけられてペンが動く速度も上がる。クロウは彼女に一礼をすると、ツバキも席から立って深く礼をした。
●クロウの手帳③
事件当日の行動:ツバキ・ヤエ
職業 :ソードマスターLv.81
当日の行動
■ 朝
次の作戦に向けての準備と会議。レオンハート氏も参加
■ 昼
同上
■ 夕方
18時ごろから壮行会
【壮行会】
マオさんと飲み比べをした
→ 酒に酔いつぶれてそのまま次の日の朝まで
→ 酒場の人に裏を取ること
レオンハート氏は途中壮行会を抜け出したらしい
→ 他のパーティメンバーにも聞くこと




