最終話
「君に僕の何が分かる……!」
レオが涙交じりの声を上げた。
クロウは呆気に取られて何も言い返せず、思わず彼の方を見た。クロウをみてレオも少し冷静さを取り戻したのか、悔しそうに髪の毛をかき上げ額に手を当てた。
「怒鳴ってすまない。怖がらせるつもりはなかったんだ……。でも、分かってほしいんだよ」
「なにを、ですか」
「魔物を倒しても倒しても奴らは際限なく現れるし強くなっていく……なら、僕らの戦いは一体いつになったら区切りがつくんだ?」
レオは口を真一文字にして地面を見る。それは彼の初めて見せる人間らしい表情だった。そんなレオを見てローが吠えた。
「次の世代が続くまでだ!俺達の使命はそれまで人類を生き延びさせ続けること、そう言ったのはお前だろ、レオ!!」
「じゃあそれまで僕らはずっと魔物を殺し続けろと言いたいんだね」
「そうだ。俺たちはそのために団結して、強くなって、それぞれ技を磨いてきた。俺たちの――お前のおかげで救われた人たちがどれだけいると思っている!救った村だって両手で数えきれないほどあるんだぞ!!」
ローはどこか自己中心的なところがあると思っていただけに、彼の言葉はクロウの心に一層重く響いた。そこには彼のラスター・ホークとしてのメンバーとしての確固たる意志と覚悟があり、どうして彼らがこれほどまで強くなったのかを体現しているようだった。
しかし返す刀でレオが発した言葉は更にクロウの予想を裏切るものだった。
「魔物にも、家族がいたんだぞ!!」
「……は?」
「ウィロー殲滅戦のときゴブリンの巣穴を襲撃したことがあったよな、あの時のゴブリンたちが何をしたか覚えているか?」
「倒した魔物のことなんかいちいち覚えてねえよ」
「一人のゴブリンが盾になるように立ったんだ。その後ろには負傷して動けなくなっていたもう一人ゴブリンがいたんだ。さらにその後ろには小さなゴブリンが、わかるだろ、家族だ!!それを、それを、僕は……」
それはラスター・ホークのリーダーではなく、キルヴィス・レオンハートその人自身の内心の吐露だった。
ローはいたたまれなくなってレオから目を逸らした。しかし皮肉にも視界に入ったのは辛そうな表情で二人を見るヘブラスカの姿だった。ぎっと歯の隙間から息を吸って、ローはつづけた。
「おめえの言いたいことは分かるよ。でも……だからって歩みを止めるわけにはいかねえだろうが!そうやって見逃した魔物たちはどうなる、必ずどこかで人間を殺す!そして殺される人間にも当然家族がいる!それぐらいお前なら痛いほどわかってるハズだろ!!」
「分かってるさ、でも……彼らと――マオと僕らの違いはなんだ!魔物にも仲間や家族がいる、ご飯だって食べる、いざというときは家族のために身を挺する!それを滅茶苦茶にするのはもううんざりなんだ!」
「レオ……」
マオが悲痛な視線を彼にに送った。
クロウはその言葉でようやく彼が魔王主義者になった理由を理解した。マオがラスター・ホークの一行と過ごすうちに彼らの味方をするようになったのと同じように、レオは魔物との戦いの中で彼らのことを次第に理解していったのだと。
「魔王のために戦う彼らと人間のために戦う僕ら、そこに違いなんて無いじゃないか!!」
レオが張り裂けんばかりの声で叫んだ。彼の――最前線で最も魔物の近くにいた人間の言葉には、それだけの重圧と説得力があった。
リィエンはその様子を見て彼を止めるための言葉を考えたが、それよりも早くクロウが反応した。
「確かにレオさんの言う通り違いはないのかもしれません。……でも、【レオさんが取った手法は絶対に間違い】です!どれだけ彼らのことが分かったとしても、それでも、保身のためにヘブラスカさんを傷つけたことは……良くないことです」
「状況が仕方なかったんだ!ずっと申し訳ないとは思ってはいた。謝れるなら謝りたいと!」
そう言うレオの右頬をローは思いっきり殴りつけた。
「それはお前の覚悟不足をヘブラスカに押し付けただけだろうが!!」
レオはパラディンの物理攻撃無効の加護のため、ローの攻撃はまともなダメージにはならない。それでも、レオは彼に殴られたところに手を当て、彼の方を見た。
「じゃあ教えてくれよ、この怨嗟の鎖をほどくやり方を……」
マオがツバキを押しのけ一歩前に出る。
「一緒に考えましょうよ、仲間じゃ、ないですか……」
「私も手伝おう。ラスティアイルの城主がマオの父親なれば、どこかに道はあるだろう」
「ツバキ姉ぇ……!」
「まぁ一見落着、かな……」
リィエンがふぅと息をついて、クロウの頭を撫でた。クロウは少し気恥しかったが、今はその役得を受け取ることにした。
――――こうして、クロウが担当した初めての事件は解決した。
その後、マオの父親が思っていたより遥かに親バカだったことが判明したり、帰り道でセイレーンがローに一目惚れして船を沈めそうになったり、さらにそれがのちのち人類と魔物の和解への二歩目になったりするのだが、それはまた別のお話。




