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第23話 - 解決編⑤

※注意!

 解決編は今回の物語に関する重大なネタバレを数多く含みます。

 これまでの話を呼んでいない方はぜひ未読の部分から読んでいただいた方が楽しめると思います!





「魔王主義者って……マオが魔王の娘だってことが分かったからそれで終わりじゃないのか?」


「マオはみんなのために頑張ってくてれたんだって結論がでたじゃないか!」



レオの言葉にツバキが反論する。クロウも表にこそ出さなかったがレオと同意見だった。マオが今回の事件の首謀者だし、暗躍するもなにも心当たりが無い。


リィエンはそんなクロウを一瞥いちべつしてふっと笑うと、レオの方に向き直って話だした。



「そもそもネ、私は今回の事件が密室殺人というのがどーにも納得できないんだ」


「どういうことだ?マオが内側から鍵をかけて、天窓から脱出したんじゃないのかい?」


「それこそおかしい話じゃないか。現に私たちは部屋が密室だった()()()で天窓からの侵入を疑い始めたんだよ?それに鍵をかけるにしてもなんで天窓の痕跡はそのまんまなのさ」


「……!!」



ツバキがハッと顔を上げる。縮こまっているマオの肩を持つとゆさゆさと揺らした。



「マオ、レオの部屋の鍵をかけたかどうか覚えているか?」


「かかかかかけてないですすすすす。ゆゆらさなあああいでえええ」


「すまんすまん。リィエン殿、これはどういうことだ?」


「自殺に見せたかったんじゃねーのか?そういう物語を読んだことがあるぜ」



ローが食い気味に答えるも、リィエンは肩をすくめて否定した。



「死んでも死ねない勇者がどうして自殺するんだい?」


「そ、それは……」


「しかし、そう考えると誰が鍵をかけたんだ?」



ツバキの問いに皆の視線が一斉にローに集まる。ローは一歩後ずさりながら手を何度も横に振った。



「俺じゃねえって!!」


「じゃあ消去法で、レオ君が鍵をかけて寝てたって事になるかな」


「ローが帰っくるって分かってるのにわざわざ部屋に鍵なんかかけないよ」


「そうだね。であれば一体いつ、だれが鍵をかけたんだろうね?」



全員の間に沈黙が流れる。ヘブラスカが小さく手を挙げて発言した。リィエンが発言促すよう手を差し伸べる。



「に、兄さんがかかってないのを勘違いしたとかは……?」


「ねぇよ。鍵がかかってて入れなかったから疑問に思ったんだって」


「まぁいいさ。とりあえず何者か鍵をかけたってことだね。次に気になったのは酒場での襲撃の事さ。あの襲撃も、これまでの隠ぺい工作と比べるととっても()だなんだよネ。だって聖域魔法に関与しているのはマオ殿かレオ殿だろう?真っ先に疑われるだろうに、何故襲撃をしたんだ?」


「あわよくば他の人も殺して証拠を消せれば……とかじゃないんですか?」



クロウの質問をリィエンは即座に否定する。



「それにしては戦力がちょっと不足しているとは思わないかい?ロードワームは確かに強力だ。だけどラスター・ホークの皆を倒すって腹持ちで戦う相手としては力不足だ。それこそ魔王が直接乗り込んでくるぐらいの気概はいるんじゃない?」


「じゃあどうして聖域魔法をダメにしたんだよ」


「ふふーん。あの襲撃で誰が一番得してみたかを考えれば自ずと見えてくるんだよねぇ」


「良いから!さっさと本題に入れ!!」


「もー分かった分かった……あの襲撃で得をしたのは君一人だけだよね、キルヴィス・レオンハート君」


「……えっ」



予想外の一言に、周囲の全員が固まった。そんな中でたった一人、クロウは思考をめぐらせていた。きっかけはクロウが倒れる直前のリィエンの言葉だった。


『レオ殿って【マオを探しに小川に行った】ってクロウ君に話してた!?』


――レオさんが魔王主義者?どうして師匠は疑い始めたんだろう……。さっきの師匠の言葉を思い出せ。


密室だ。師匠は密室のことを気に入っていなかった。言われてみればそれはそうだ。マオさんからすれば密室じゃないほうが遥かに都合がいい。ドアが閉まっていたせい天窓を疑い出したわけで、密室でなければ犯人の可能性はぐっと広がる。


そもそもマオさんはどうレオさんを殺害したんだっけ。まずは天窓から侵入して、昨日と同じように紫色の光をレオさんに浴びせて――あれ?



「レオさんって、【気絶】しないはずなんじゃ……」


「bingo!」



リィエンの黒ぶち眼鏡がキラリと光、彼女が指を鳴らして叫んだ。



「たとえ一酸化炭素中毒による窒息死が起こるとしても、一酸化炭素中毒が原因の【気絶という状態異常】は起こらないんだよ」


「じゃあレオは……」



マオがツバキの陰からレオの方を見上げる。それを見返すレオの視線は氷のように冷たかった。



「そう。マオ殿が瘴気を浴びせている時だって、気絶しているように見えてレオ君にはハッキリと意識があった。そして君はマオ君がいなくなったのを確認してから目を覚まし、自分でドアに鍵をかけてから死亡したんだ」


「ひっ……」


「……突拍子もない推理だと思うのは置いておいて、仮にそうだったとして何故僕が魔王主義者ってことになるんだい?結局は魔王のスパイだったマオを捕まえるのに貢献したじゃないか」


「それは逆でも成立するからナンセンスだよ。だって君が魔王主義者の場合、自分を殺した相手のことを魔王主義者だなんては思わないだろ?だからレオ君が人間であれ魔王主義者であれ、どちらにせよ鍵をかけるというのは合理的な選択なんだ」


「じゃあこの話は関係ないだろう!」



レオが吠える。リィエンはそれに臆することなく、むしろつまらないものを見るかのような視線を返した。



「そう。どうせ忘れてる可能性が高いからどっちでも良かったんだ。ただし君がそれを隠していた場合のみ、君が魔王主義者である可能性が高くなるってだけ」


「だから鍵をかけたのは仮定の話で……!」



皆のレオへの疑念が高まっていくのに合わせて、クロウの中で少しずつ違和感が形となって図を描き始めていた。


クラックドヤードが襲撃されていることを知る由も無かったレオが、なぜ蘇ってからロクに装備も整えないまま急いで戻ってきたのか?なぜクロウに小川に行ったことを黙っていたのか?そしてなぜそれをマオの反論に合わせて開示してきたのか?


――もしかしてマオさんのアリバイをギリギリまで話さなかったのも、わざとなのか……?


リィエンはそんなクロウの様子をちらりと見てから、再びレオに向きなる。その表情に普段のような笑みはなかった。



「話がそれ過ぎたし戻そうか。昨日のマオ殿の時だってそう。レオ君の行動には説明のつかないことが多すぎる。マオ殿にとって都合が悪い状況があまりにもでき過ぎているんだ」


「だからってそれだけで魔王主義者だと決めつけるのは理不尽じゃないか!!」



再びレオが吠えた。リィエンは彼の脅しにも全く意に介さず話を続ける。



「あまりにマオ殿にとって都合が悪すぎるし、あまりにレオ君にとって都合がよすぎるんだよ。ちょうど良いタイミングで悪い情報がでて来る。これと全く同じことが過去にあったことを覚えているかい」


「過去……?」



ヘブラスカが自分のスカートをぎゅっと握る。クロウは居てもたってもいられずに立ち上がった。



「ヘ、ヘブラスカさんの時だって!赤い星のペンダントが見つかってすぐに彼女がモグリだって情報が広まったんですよね……?」


「そうさ!。これを同一犯だとみなすのはそこまで的外れな推測かい?」


「同一犯だとして、僕に都合がいいから僕が魔王主義者だとは限らないだろう!」



レオが吠える。このまま殺しかねないほどの圧倒的な圧力を前にして、クロウのペンを握る手はわずかに震えた。リィエンも同じように――クロウよりも直接的な圧力を受けているのに対して、一切動じずに話を続けた。



「ならば、レオ君視点で話をまめてみようか?」


「やってみせろよ、絶対に矛盾があるはずだ」


「ふぅーん。まずレオ君が殺されるところからだね。寝ているとき、レオ君は突然息が苦しくなった。何者かに攻撃されていると気づいたんだね。そして直後、天窓をガタガタと揺らす音が聞こえてくる。うっすら目を開けると天窓から逃げる人影が見えたかもしれないね」


「……」


「そうして、次に息を吸っても呼吸が上手くできないことに気づく。――毒かもしれない。そう思ったレオ君は残された時間で何ができるかを考えたんだ。そうして、どちらの理由だとしても君はドアにカギをかけることになる。自分が魔王主義者とばれないように、そして犯人の手がかりに繋がるように。ここまでも矛盾はないね?」


「……ああ。ない」


「そうして復活した君は、ロー殿をとりあえずの容疑者に仕立てることにした。密室を作れば鍵を持っている彼に自然と疑念が向かう。それに誰かと通信していたのは赤星のペンダントを思い起こさせるしね。しかし君の最大の誤算は、ローの通信相手がヘブラスカだったことだ」



レオがすかさず割り込む。



「それは違うな。ローとラスクの両方が魔王主義者だった場合のことを考えていないぞ!」



リィエンはぴしゃりと棄却した。



「仮に二人が魔王主義者だとしたら、ヘブラスカが私に『魔王主義者を探してほしい』と依頼してきたことがおかしくなるね。わざわざ魔王主義者がまだラスター・ホークに残っているのに《ご意見番》を呼ぶリスクなんて、絶対に取らないだろ?反論は?」


「しかし……っ!そもそも論、僕にはアリバイがあるんだぞ!聖域魔法が解除された時には僕はまだ死んでいる時だったんだ、解除するにしたってどうやってやるんだ!」



その時、窓から一羽の灰色の鳩が飛び込んできた。その足には小さな丸めた羊皮紙が括り付けられている。その鳩は速度を落としながらリィエンの方へと近づく。リィエンも慣れた手つきでそれを左腕に止まらせると羊皮紙を取り外した。


リィエンは手のひらで隠すようにその羊皮紙を読むと、ニヤリと笑った。



「ツテのアークウィザードに頼んでね、聖域魔法の解析をしてもらってたんだ。解析結果は私の予想通り。レオ君のかけた聖域の魔法陣には【解除するための仕組み】があるようだった。具体的な発動条件についてはまだ解析中だけど、私の予想が正しければ――」



レオの前にナイフが投げられる。リィエンはレオを指さしながら告げた。



「レオ君自身が死亡したとき――だろうね。違うと言いたいならその身をもって証明したまえ」



レオは足元のナイフを見たまま動かない。



「えーっとなんだったっけ?()()()()()()()で確かめさせてもらおうか」



それでもレオは俯いたまま動かなかった。クロウは嫌な空気に耐えられず声を上げた。



「どうして、どうしてレオさんみたいな勇者が!」


「君に僕の何が分かる……!」



レオが涙交じりの声を上げた。

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