第22話 - 解決編④
※注意!
解決編は今回の物語に関する重大なネタバレを数多く含みます。
これまでの話を呼んでいない方はぜひ未読の部分から読んでいただいた方が楽しめると思います!
クロウが意識を取り戻した時、真っ先に視界に入ったのは木製の天井だった。身体にかけられ毛布を取り起き上がると、クロウはそこが宿の一階のロビーだということに気づく。ソファーをみると、横ではヘブラスカが先ほどまでのクロウのように寝息を立てていた。
窓からは朝日が差し込んでいて、舞った毛布の埃をちらちらと照らしている。
クロウは自分の手を見て、これまでのことを振り返った。事件の犯人を特定し、レオが短剣をマオの前に突き立てて、そしてマオが――――まて、記憶がある?
「僕は……死ななかったのか?」
隣ですうすうと寝息を立てるヘブラスカを起こさないよう、慎重に起き上がる。手足は鉛のように重く、頭はすこし動かしただけでもグワングワンと揺れるようで気持ち悪い。
「みんなは――マオさんは、どうなったんだろう」
まだハッキリと覚醒しきっていない意識に鞭を打ち、クロウはレオとローの部屋へ向かおうと歩き出した。しかしまだ回復しきっていない彼の身体は自身を支えることができず、大きな音を立てながらクロウは床に倒れた。強い衝撃がクロウの全身に走る。
「ヘヘ、どうやら夢じゃないみたいだ」
強がりを言うも、クロウはうまく歩くことすらできない自分が情けなかった。両腕に力を入れて何とか上体を起こす。
ソファーに手をかけて立ち上がると、ヘブラスカがもぞもぞと動き出した。どうやら先ほどの音と振動で起こしてしまったらしい。
目をこすりながらヘブラスカがクロウの方を見る。彼が起きていることに気づくと目をぱちくりさせ、彼女は大きな声を上げた。
「クロウ君!?」
「起こしちゃったかな、あはは……」
「すぐリィエンさんを呼んできますから、安静にしててくださいね!!」
ドタバタと足音を立てながらヘブラスカは外に駆けて行った。クロウは仕方なくソファーに座って待つことにした。
数分も立たずに再びドアが開いた。クロウにとって意外だったのはリィエンやヘブラスカだけでなくラスター・ホークの一行も来たことだった。
ツバキの後ろからマオがひょっこりと顔を出す。申し訳なさそうな表情でクロウの方を見ると、もぞもぞと何かをつぶやきながら再びツバキの後ろに引っ込んでしまった。
ツバキがマオの腰を叩いて彼女をクロウの前に立たせる。宝石魔法を使えないようにさせるためか、山のようにつけていた装飾品はすべて取り上げられてしまっているようだった。
「マオ……さん?」
「その、クロウくん、いろいろとご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたっ……!」
マオがぺこりと頭を下げた。そのお辞儀の姿勢があまりに奇麗でクロウは思わず笑ってしまった。クロウの反応にマオは不安そうに顔を上げた。
「く、クロウくん……?」
「すみませんすみません、僕は全然気にしてないですよ」
「…………っ!」
マオはツバキの袴をぎゅっと握る。彼女の不安と安堵が伝わってくるようだった。
「それに、なんだかんだ僕も死ななかったわけですから」
「それはヘブラスカ嬢に感謝しないとね。クロウ君が死なないように、ずっと祈って瘴気を消そうとしてくれてたんだから」
「ありがとうございます、ヘブラスカさん」
「こちらこそ、助けていただきありがとうございました」
ヘブラスカが恥ずかしそうにはにかむ。
「ところで、どうしてマオさんはレオさんを殺さなきゃならなかったんですか?どうしてもそこだけがわからなくて」
「今聞くかぁ、それ?」
「探偵根性が聞けって言うもんで、へへへ」
「実は私達も聞いていないんだ。マオがクロウ君が起きないと話さないって聞かなくてな」
「それは……」
マオが顔を真っ赤にしながら髪の毛をくしゃくしゃと掻く。ツバキが困ったように笑いながら彼女の肩をぽんぽんと優しく叩くと、マオは落ち着いたのかゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
「私は父上の――魔王アフレド・ヴェンゲル・バン・イグナーロクのスパイとしてラスター・ホークに参加しました。みんなの情報を報告して致命的な施設から遠ざけるのが役割でした。しかしラスティアイル攻略戦の時……父上から勇者殲滅作戦のことを知らされたんです」
「勇者を殲滅って、死んでも復活できるどうするの?」
クロウが聞くとマオは自分のドレスをぎゅっと強く握った。今にも泣きだしそうな表情にクロウの唇にも思わず力が入る。
少し間を置いた後、意を決したようにマオは顔を上げて口を開いた。
「転生魔法という、別の世界に勇者を送ってしまう魔法があるんだそうです。そうすれば殺しても復活してしまう勇者の性質を無効化できるということで、父はラスティアイルにそのための巨大な魔法陣を敷いていました」
「別の世界に送る……?そんなことが可能なんですか?」
「父が言う限りは、ですが……。でもそんな高度な魔法陣なんて、当然長くは維持できません。展開から一週間もすれば魔法陣は消えてしまいます……」
「ということは――」
「はい。魔法陣が消失するまでの時間を稼ぐために、私はレオちんを殺害しました」
「どうして最初からそう言ってくれなかったんだ!」
ツバキが叫んだ。ローがそれを遮るように素早く返す。
「言えるわけねえだろ。レオの性格を考えろって」
ローはレオに対して厳しい視線を向ける。レオはローの視線も気にせず笑顔で彼に続いた。
「うん。僕は一切信用しないね。僕の村もそうやって魔物の言うことを信用して炎に包まれた。たとえマオだとしても、出自が魔物で有れば僕は一切の容赦をするつもりはないよ」
そう話すレオの声色は、普段通りの柔らかく優しげなものだった。しかしそれは普段からその意志を持っているということの裏返しでもあるのだとクロウは理解した。まるで冷たい黒鉄のような確固たる意志を、クロウはその言葉の端端から感じていたのだ。
「でも結果的に魔王の作戦は無駄になったわけだし、一件落着じゃないか?」
ツバキがローとレオをなだめる。ローは「まぁな」とため息をついたが、レオの表情は変わらずの笑顔だった。
リィエンがパン、と一度手を叩く。
「さてさて、そろそろ私がターンを貰っても良いかな?」
「ど、どうぞ……」
とりあえず皆がクロウの方を見るのでクロウが彼女に手を差し伸べた。リィエンが一度頷いてから話を続けた。
「今回の事件についてなんだけど、これでも私はマオ君の努力には結構満足しているんだ。痕跡が残らないように瘴気魔法を使ったのも良い判断だし、アリバイ工作もそれなりに努力をしていた。現にウチの弟子もちょっと言い負かされそうだったしネ」
リィエンはマオにウィンクをすると、ラスター・ホーク一行の周囲を歩く。彼女のヒールが床を踏むカツカツという乾いた音がロビーに響いた。
「良いから本題にさっさと入ってくれよ……」
ローがボヤく。リィエンは仕方ないといったように肩をすくめると、小さくため息をついた。
「分かった分かった。じゃあ本題に入ろうか。私がしたいのは今回の事件で暗躍した魔王主義者についての話だよ」




