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第19話 - 解決編①

※注意!

 解決編は今回の物語に関する重大なネタバレを数多く含みます。

 これまでの話を呼んでいない方はぜひ未読の部分から読んでいただいた方が楽しめると思います!





翌日の朝、クロウ・ロックフォールとリィエン・スタッシュホールドはラスター・ホークの一行を応接室に集めた。しかしすぐにシーズン=ブライテスト=ヘブラスカも加えて合計で七人が集まったということもあり、手狭な応接室ではなく犯行現場のレオとローの部屋に移動することになった。


犯人が分かったというクロウの言葉は彼らにとっても十分に衝撃だったらしく、ラスター・ホークの一行は皆緊張した面持ちをしていた。


犯行現場につくや否や、マオ・アフィーリアが真っ先に口を開いた。



「ほ、本当に犯人がが分かったのか?」



クロウが無言で頷いた。その反応が冗談やでまかせでないことに気づくと、一行は驚いた様子で互いを見合った。それはまるでお互いを疑い合うようであり、それぞれが自分じゃないといった様子で否定しあう。



「さ、始めよっか」



リィエンがクロウの背中を優しく叩く。クロウは外套から手帳を取り出すと、ラスター・ホークの全員を見た。重く苦しい沈黙が犯行現場にのしかかる。



「じゃあ早速犯人を……といきたいところですが、僕の推理は事前の状況に比べてかなり突拍子のないものになっています。ですので今回の事件を順に追って説明したいと思うのですが、良いでしょうか」



皆一様にうなずく。


クロウは二段ベッドの方に移動し、その木製のフレームに手を触れた。そこはレオのソウルがあった場所でもある。



「まず、今回の被害者はキルヴィス・レオンハートさん。そして第一発見者はアルクレイ・ローさん。周囲の偵察を終えて部屋に戻ってきたときには既にレオさんはこと切れているということでした」



レオがうなずく。ローの方は腕を組んで壁にもたれたまま、クロウの動向をじっとうかがっている。



「その時の状況は事後調査で以下のことが分かっています。

 ① 部屋に血痕はない。

 ② マナや瘴気の揺らぎがない。

 ③ 扉には鍵がかかっており、密室だった。しかし――」



クロウが以前リィエンがやった時と同じように、人差し指を天井に向ける。その先には天窓があった。



「実際は天窓から侵入が可能な状態でした。そのうえ天井の調査の際に直近何者かが使った痕跡がありました。密室にも穴があったのです」


「でも、そこから侵入したってどうやって脱出するんだ?紐なんかかけた痕跡は無かったぜ」



ローが割り込んでクロウに問いかける。クロウも彼の質問に動揺の一つもせずに答えた。



「ええ。犯人はとある方法を使い密室を維持したままこの部屋から脱出したんです。そしてそれが――今回の僕の推理の突拍子のなさとも強くつながっています」



リィエンが小さく咳ばらいをする。クロウは彼女と軽くアイコンタクトをしてから話を続けた。



「こういった不可解な状況に出会った時、師匠と僕は批判的検証という手段を用いるようにしています。今回の状況でいえば、それぞれが事件の犯人だと仮定した時にそれが妥当な推測かどうか、矛盾点がないかを調べていくようなものだとお考え下さい」



クロウはまず一行の一番左に立っているキルヴィス・レオンハートを見た。レオは普段通りの柔らかい笑顔を彼に返した。



「まず、レオさんが自殺した場合の可能性です。意外にもこの説は否定しづらく、その可能性は十分に考えられます」


「僕が自殺を?」



レオンハートはまさかと言いたげに両手を顔の前に掲げた。クロウも「ええ」とそれに続く。



「パラディンの物理無効は、自身で付けた傷の場合には適応されません。――ただ、僕もレオさんが自殺したとは考えてはいないです。直前まで次の作戦に向けて装備を整えていたりする人が自殺するとは考えにくいですし、なにより復活の加護を持つ勇者が自殺する意味がないですから」


「そうだね。僕が何かしら記憶を消したくて自殺するって事も考えられるけど、それはリスクがあまりにも大きいね」


「ええ。ですからレオさんは犯人ではない。次は――ツバキ・ヤエさん」


「うむ」



腕を組んだままツバキは答えた。



「ツバキさんは残りの3人の中では明確に犯人でない根拠――アリバイがあります」


「アリバイ?」



マオが答える。クロウは一度頷いてから話し続けた。



「はい。ツバキさんの行動を整理してみましょう。

 ① 酒場でマオさんと口論・飲み比べをした。

 ② 酔いつぶれたフリをしてマオさんに負けた。

 ③ レオさんに介護されて宿に戻った。

 ④ 宿でレオさんと口論をした。

 ⑤ その後酒場に戻り朝まで酔いつぶれた。」


「うん、僕の記憶とも一致するね」


「はい。酒場の方のアリバイはマスターが保証してくれています。そして④の口論の後、レオさんは一度宿を出てマオさんと会っています。裏を返せば、ツバキさんがレオさんを殺してしまうとここに矛盾が生まれるんです」


「なるほど、私が宿でレオを殺していたらその後のレオの記憶があるのがおかしいからな」


「そうです。協力者の可能性は否定できません。しかし少なくとも実行犯ではありません」


リィエンがすかさず続けた。


「それにツバキ殿を協力者・もう一人ラスター・ホークに実行犯がいるとしたら、多少強引にでも言いくるめて探偵に協力を要請なんてしないだろうからネ。ツバキ殿はかなり白めのグレーというわけさ」



ツバキはホッと胸をなでおろす。彼女が珍しく安心した表情をするのをみて、クロウは彼女が疑われていることに対してそれなりにショックを受けていたのだと今更になって気づかされた。それはクロウの胸をきゅうと締め付けたが、この後のことを考えると更に胸の痛みは強くなっていく。


――残る容疑者はマオとローの二人。クロウは乾きつつある自身の口内を感じつつ、一度咳ばらいをした。



「次の話をする前に、レオさんの死因について話しておきたいです。結論から言えば……レオさんの死因は窒息死です」



窒息死という言葉にレオは自身の首を一度触った。



「ただ、窒息と言っても首が締まったり何かが喉に詰まったようなものではありません。窒息の原因はこれです」



クロウは懐から試験管を取り出すと、皆に見えるようにそれを前に突き出した。試験管の中には小川でとった紫色の葉が入っていた。



「それ、クラックドヤードの植物か……?」


「はい。この葉は瘴気をため込む性質があります。そしてこの瘴気のマナに含まれる”穢れ”が窒息の原因だったんです」


「ここからは私が引き受けよう」



リィエンが一歩前に出た。



「通称”穢れたマナ”とも呼ばれる瘴気だが、君らのよく知る特性は信仰から得られる加護の阻害だよね?。しかしこのように信仰を持たない植物にも影響する。それにマナ適正が極めて低い人間も瘴気濃度が高いところに行くと気分が悪くなってしまう。これはどういうことかわかるかい?」



リィエンはツバキを指さした。「私?」と困ったようにツバキは自分を指さすも、リィエンは早く早くと急かすように手を叩いた。顎に拳を当て少し考えた後、ツバキは首をひねりながら答えた。



「えー、えーっと、信仰やマナにも関係なくて、人類以外にも影響を与えるってことは……マナが変質したもの、とか?」


「もっとシンプルな話だよ。ただの化学物質ってことさ。瘴気とは微弱な火属性のマナの周囲にいくつかの物質の混合物を纏わせたものだったんだ。そのうち一つはアルカロイド、この物質がマナと化学物質の橋渡しをして信仰を弱める効果を持っている。そしてもう一つ、こちらが本命のレオ殿を窒息させた物質だ」



もう一本、リィエンが太もものポーションベルトから細い試験管を取り出す。しかし中には固体や液体のようなものは入っていない。ローが不満げに声をあげる。



「なんも入ってねえじゃねえか」


「いんや。この中に入っている気体こそが重要なのさ。そう、物が不完全燃焼するときに生じる、一酸化炭素という物質がね」

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